#21

今の自分にできることから始める

トータル飲料コンサルタント 友田晶子さん

首に巻かれた柔らかな水色のスカーフは“お酒でおもてなしができる女性の証”でもある。お酒の魅力を伝え続けるトータル飲料コンサルタントの友田晶子さんの「はたらいて、笑おう。」とは。

更新日:2019年1月8日

お酒の「造り手」と「飲み手」を結びつけるお手伝い

変わった肩書ですが、「トータル飲料コンサルタント」とはどんなお仕事なのでしょうか?

ワインには、お客さまの要望に合わせてワインを選んだりサービスを提供したりする専門職のソムリエがいます。日本酒には「唎酒師(ききさけし)」、ウイスキーには「ウイスキーコニサー」など、それぞれのお酒の専門家がいますが、トータル飲料コンサルタントは、お酒をすべて扱う者として“お酒全般”にまんべんなく精通しているのが特徴です。スタートはソムリエですが、「日本で働くソムリエなら日本酒や焼酎など日本の酒のことがわかっていないといけないのでは。」という強い思いから、お酒はすべて扱おうと決め、今に至ります。

主な仕事は、お酒全般における「造り手」と「飲み手」を結びつけるお手伝い。セミナーや講演、新聞・雑誌、ネット、著書などを通してお酒の楽しみ方を伝えることや、メーカーや飲食店のコンサルティングもしています。いま力を入れているのは地酒や焼酎、ワインなどを豊富に持つ観光地の宿泊施設なのですが、お酒を中心にしたメニュー作りやセールストーク、料理との組み合わせなど、売り上げ向上のためさまざまな支援を行っています。

 

お酒に関わることを仕事にしようと思ったきっかけは何でしたか?

両親が福井県でイタリアンレストランを営んでおり、「イタリア料理」という言葉もない50年以上前から、ピザやチーズ、ワインやリキュールがある当時としては少々珍しい家に育ちました。そういう家庭環境でしたから、幼少期から飲食関係の仕事をしたいと考えていたんです。

直接的なきっかけは、東京で実家のレストランに食材を卸していた親戚の輸入会社に入社したこと。時代はバブル期、さまざまな国の料理やスイーツ、お酒が登場し始めたころでした。「これからワインを取り扱いたい。でも誰もワインのことを知らないから、君がワイン担当だ」と話をいただき、1989年にソムリエの資格を取得しました。

その前後の2年間はワインをより深く知るために日本とフランスを行き来して、現地のワイナリーで醸造を実践的に学びました。ただ、フランスに行くたびに「私は日本のこと何も知らない」ということに気付かされたんです。日本のお酒や料理について聞かれても正しく答えられない。他人の文化を語るなら、日本の文化も知っておく必要があると感じて、日本でワインだけでなく日本酒や焼酎など日本のお酒について幅広く勉強しました。その知識と経験が、いまのトータル飲料コンサルタントに深く結びついています。

「とっつきにくい」ワインのイメージを変えたい!

どのようにキャリアを伸ばしてきたのでしょうか。

当時はワインというと、「難しくて、とっつきにくい。」というイメージがありました。でも、ワインやお酒というのは、本来、自由で楽しいもの。まずは、そのイメージを変えたいと思いました。

そこで、27歳の頃に友人と飲料コンサルタント会社、株式会社アシュール・インターナショナルを立ち上げました。ワインを中心にレストランの相談に乗ったり、ワインの魅力を伝えたりする、いまの仕事の原点になった会社です。

ワインのおいしい飲み方などを分かりやすく広めるために、初心者には専門用語などをできる限り使わず、かみ砕きながら「お酒は楽しいもの」が伝わるように心掛けてきました。いまでは日本酒、焼酎、ウイスキーとワイン以外のさまざまなお酒の飲み方を提案していますが、「分かりやすさ」を重視するスタンスだけは変えないよう戒めています。

そのためには「客観的に物事を見る」ことを忘れないようにしています。「人はこの場合どう考えるんだろう」「自分ではこう考えているけど、見方はきっといろいろあるだろう」と、自分の考えを押し付けないよう気を配っていますね。

 

どんなところにやりがいを感じますか?

いま、ワインは居酒屋にも置いていますし、コンビニでも買える時代です。敷居が下がって、大きく変化してきたなあと思います。

でも、まだまだ、「ワインは難しい」「日本酒はちょっとね……」と思い込みがあるなかで、その魅力を広げていくことは、やはりやりがいといえますね。一気に広がらなくても、地道に伝え続ければ、伝わることもあるはずです。

また、自分から進んで開拓していくことも大事だと思っています。最近は、海外に向けた日本酒や焼酎の発信も積極的に行っているんです。造り手はおいしいお酒を造るのですが、それを上手に説明するのが苦手だったりする。だから、私たちが「おすすめのプロ」として登場し、説明するのです。説明力はソムリエの最も重要なスキルですし。良いものを広く伝えたい。振り返れば、それだけを考えて、仕事をしてきたことになるかもしれません。

お酒でおもてなしができる「SAKE女の会」を設立

友田さんが思い描くお酒の未来とは?

例えば、「乾杯はシャンパーニュ」が定番ですが、日本にも乾杯に向く素晴らしいお酒がいっぱいあります。日本産のスパークリングも豊富ですし、日本酒や焼酎も氷を入れたりソーダで割ったり、のど越しの良いしつらえにすれば、乾杯にもぴったり。

お酒の楽しみ方ルールにも解釈の間違いやトレンドがあります。昔はとにもかくにも赤ワインは冷やしてはいけないといわれていましたが、ワインはブドウから造られるフルーツのお酒。いずれにしてもある程度冷やして飲んだほうがおいしいのです。さらに、氷を入れて飲んでも、ソーダで割ってもいい。自由でいいんですよ。先入観にとらわれず、もっと楽しい飲み方を提案していきたいですね。

また、コーヒーを飲んでいても出ない話が、お酒を飲んでいると出ることもありますよね。お酒は仕事と日常のオンとオフの切り替えにも最適で、頭と心を柔らかくしてリラックスさせてくれる。まさに、「人生を豊かにしてくれるもの」。飲めないといって毛嫌いはしないでほしいですし、飲める方はもっともっと楽しんでほしいと思っています。

 

東京都八丈島産の本格焼酎「情け嶋」。九州の芋焼酎と違いより軽快で香ばしい風味でSAKE女の好みのブレンドがなされている。

今後の展望を教えてください。

お酒を身近に、またお酒の知識がある人たちの活躍の場を作ろうと2016年に『日本のSAKEとWINEを愛する女性の会』を立ち上げました。通称、SAKE女(サケジョ)の会です。SAKE女というのは、「お酒でおもてなしができる人」を指します。難しい知識は必要なくて、例えば酒器やお料理に合わせてお酒を選べたり、楽しめたり。居酒屋などで外国人がお酒に迷っているようでしたら、「一杯目にこれどうですか?」などと提案できるくらいのレベルです。

いま会員数は1,400名で、うち「飲料おもてなしSAKE女検定」をもつ人は50名ほど。この「SAKE女」のロゴマークが入った水色のスカーフがその証です。今後は、このスカーフを付けた仲間を増やしていきたいですね。

また、健康や美しさ、妊娠の問題など、女性ならではのお酒との付き合い方も考えていこうと思っています。

最後に、友田さんにとって「はたらいて、笑おう。」とは?

実は、「働く」ということを改めて考えたことがありませんでした。そのくらい私にとって、生活そのものが「働く」なんですよね。私のビジネスモデルは、お金が多く入ってくるわけではないので、日々、自転車操業のようなもの。起業人や経営者なら、もっとうまくできるのでしょうけど…。そういう器量は持ち合わせていないので、自分の器の中でできることを、日々繰り返してきました。

それでも、好きなお酒のお仕事を30年間続けてこれましたし、本を出したいと思ったら出版でき、会いたい人に会いたいと思ったら会えましたし、仲間を増やしたいと思ったら、仲間がどんどん増えていきました。小さな夢の実現を重ねて、今があるのだと感じています。

 

取材・構成:児玉 奈保美
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

トータル飲料コンサルタント 友田晶子さん

会員1400名、友好団体含め、国内外12,000人のお酒ラヴァーを率いる一般社団法人日本のSAKEとWINEを愛する女性の会(通称:SAKE女の会)代表理事。「SAKE女=お酒でおもてなしができる人」として日本産酒のPRと応援をする。愛好家向けイベントやセミナーの他、飲食店や宿泊施設向け売上向上支援も。著書も多くエッセイストとしても人気。この道30年のお酒のプロ。

Webサイト

Facebook

(一社)SAKE女の会 オフィシャルサイト

(一社)SAKE女の会 Facebook

(一社)SAKE女の会 Instagram