#19

小さな挑戦を積み重ねていく

アイランド 代表取締役社長 粟飯原理咲さん

「サービスのアイデアは好きなことや楽しそうという想いから生まれる」と語るのは、複数の人気サイトを運営する粟飯原理咲さん。穏やかな笑顔が印象的な彼女の「はたらいて、笑おう。」とは。

更新日:2018年10月25日

全国のおいしいものを紹介したい

「おとりよせネット」「レシピブログ」「クッキングラム」「朝時間.jp」など、人気ポータルサイトの運営を手掛けていますが、サービスを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社に入社し、2000年にリクルートへ転職しました。出向先だった総合情報サイト「All About」で勤務していたとき、全国の通販グルメ・スイーツ・ギフトを厳選して紹介している「おとりよせネット」の原型になるサービスを思いついたんです。当時は、“おとりよせ”という言葉も使われていませんでしたし、ネットで食品を買う人も稀な時代。冷凍ケーキを頼むと潰れて届くような頃でした。ただ、直感的にネットショッピングはこれから伸びるだろうという確信をもっていました。

プライベートでは、都内を中心にグルメを紹介する食べ歩きサイト「OL美食特捜隊」と登録者3万人のメルマガを発行していたので、「食のサービス」に関わりたいという気持ちもありました。

「全国にはおいしいものがたくさんあるのに、紹介しきれていないのはもったいない」。そう思い、お取り寄せ品を紹介するメディアを新規事業案として考えてみたものの、リクルートでは大企業ゆえに事業規模を求められる。それなら自分で立ち上げようと思ったことが始まりです。

 

2003年に起業して15年間、どんなことがありましたか?

立ち上げてから2年間は、お金がなくてオフィスを借りられませんでした。さらに、当初は3人の創業メンバーのうち会社を辞めたのは私だけ。みんなが集まれる平日の朝と夜、土日に、Wi-Fiが繋がるファーストフード店に集まって打ち合わせをしていました。「おとりよせネット」のリリースもそのお店で迎え、馴染みの店員さんが拍手をしてくれました(笑)。

楽しくて夢中でしたけど、FAXを出すのにキンコーズに行き、コピーのためにコンビニに走るような状態。企業であればワンフロアですべて済むことも、いちいち手間がかかる。職場というのはいろいろな人の力で成り立っていたんだなぁと痛感しましたね。

それからようやくアルバイトを雇い、余裕が出てきたところで2005年に料理レシピのブログを集めたポータルサイト「レシピブログ」を立ち上げました。サービスのアイデアは、「好きなこと」「楽しめそう」という想いから生まれますが、このサービスも、私自身、お料理ブログを見るのが好きだったことが発端です。

いまでこそ日本最大級といわれ、約1万6,000人のブロガーさんが参加し、月間想定波及効果にして1億9,800万PVほどになりましたが、最初は1通ずつ、大好きなブロガーさんに参加をお願いするメールを送るところから始めました。そして、2012年にキッチン付きのイベントスタジオ「外苑前アイランドスタジオ」をオープン。3年前にはインスタグラムコミュニティ「クッキングラム」をスタートし、社員数も約30名になりました。

毎日、小さな楽しみを見つければ笑顔で働ける

事業を拡大し続けられる理由はどこにあると思いますか?

小さくアクションを起こし、少しずつ育てていったからではないでしょうか。最初から大きな勝負に出るのではなく、アイデアがあれば、まず小さく立ち上げてみて、トライ&エラーを繰り返しながら育てていく。

それに気付いたのは、会社員時代に大きな挫折を経験したから。新卒からずっと新規事業畑で働いてきたキャリアから、転職先のリクルートでは、新規事業開発のサービスプランナーを担当しました。期待されて入ったはずなのに、丸1年間も机上で企画書を書いているだけで成果を出せず、新規サービスを立ち上げることができませんでした。厳しい上司のもと、怒られるのはしょっちゅうでした。でもうまくいかないからこそ、自分の企画をより深く考え抜くきっかけになったんです。

1番の敗因は、具体的なアクションを起こさず企画だけに集中してしまったこと。テストケースでやっていれば、もっと早く結果が出て次に進めたかもしれません。事業規模を追い過ぎず、スモールスタートにして価値を生み出す方法もあったのではないかと……。そう学んだことが、いまに繋がっています。

 

会社員から経営者という立場に変わり、仕事の役割や楽しみはどのように変化したのでしょうか?

会社員時代は完全燃焼で働いていましたが、経営者になってからは安定したペースで常に感情を穏やかにして働くことを意識しています。みんなで一緒につくり上げたいという想いから、「話しかけやすさ」も大事にしていますね。

働くうえで大事にしていることは、「毎日小さな楽しみをいっぱい見つける」こと。1カ月に1回、大きな楽しみがやってくるというより、毎日ちょっとした喜びや楽しさを感じられるように心掛けています。いまの楽しみは、ユーザーさんから届くサービスの感想や声を読むこと。アイランドでは社員が日報を出しているので、「仕事でこんな発見をした」「最近こんな面白いことがあった」というのを読むのも楽しいですね。

働いていると大変なこともありますし、好きなことばかりできるわけでもありません。でも、「この書類を時間までに作成したらごほうびにコーヒーを買おう」とゲームのように考えたり、嫌なことがあってもスイーツを食べて、「おかげでおいしいスイーツが食べられた」と気分を変えたり。

いまも経営者としてトラブルに直面したときには、いったん状況を笑いに変えることを意識しています。「大したことではない」と割り切ってしまうことも必要。そういう工夫の積み重ねで仕事は楽しくできるものだと思います。

どんなことを成し遂げるかよりも、どんな状態でありたいか

今後の展望を教えてください。

まだ、具体的なアイデアがあるわけではありませんが、未来に対して常に思っているのは「DoingやHavingよりBeing」。どんなことを成し遂げるかよりも、どんな状態でありたいか、を重視しています。新しいサービスを始めたいと思ったときに、気軽に相談できる仲間が近くにいて、一緒に立ち上げようといえる環境でありつづけること。それを今後も維持していきたいですね。

 

最後に、粟飯原さんにとって「はたらいて、笑おう。」とは?

一生懸命やってみること。一生懸命さや情熱が周りを動かすと思うから。仕事をするまで何かに夢中になるという経験をしたことがありませんでした。学生時代は楽しかったですし、友達と遊んだり勉強や部活を頑張った思い出もたくさんありますが、夢中で取り組んだという意識とは少し違うんです。

社会人になって最初の配属は、ネット開発の部署でした。理系ばかりの中に私だけが文系という環境で、周りと比べて知識もノウハウも、経験もなくて。それでも、できることから自分なりに必死で取り組んだり、ユーザー目線で企画を立ち上げたりと夢中でやっていました。そしたら当時の先輩から、「一生懸命だから応援したくなる」と言われて衝撃を受けたんです。

そのときから、「与えられたことはとりあえず一生懸命やってみよう」と思うようになりました。失敗ばかりでも、原因を分析して次に生かせばいい。そうやって一生懸命やっていると、毎日小さな楽しみがいっぱい見つかり、それが大きな楽しみを引き寄せます。頑張っていると周りの人が応援し、手伝ってくれるから、もっと仕事が楽しくなる。

それが働いて笑うことに繋がるのかなと思うんです。

 

取材・構成:児玉 奈保美
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

アイランド 代表取締役社長 粟飯原理咲さん

アイランド株式会社 代表取締役、インターネットサービスプロデューサー。同社にて「おとりよせネット」「レシピブログ」「クッキングラム」「朝時間.jp」などの人気サイトや、キッチン付きイベントスペース「外苑前アイランドスタジオ」を運営中。国立筑波大学卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社リクルート、総合情報サイト「All About」マーケティングプランナー職勤務を経て2003年より現職。
Webサイト
Webサイト