運は自分で引き寄せるもの
1984年、大学卒業後にNECに入社されたとのことですが、当時、女性の技術者は珍しかったのでは?
最初に配属されたコンピュータ技術本部CAD技術部では、私が初の女性技術者でした。スーパーコンピュータのCAD開発や回路設計を行う部署でしたので、大勢のスタッフと協力して「一つの駒になる」ことが私の仕事。「世界最速を目指す」というビジョンに向かって疾走するといった働き方を10年続けました。
次の10年は「新規事業開発者」として、企業のアドバイザーを務めました。せっかく大企業に勤めているのだから本社の新規事業開発に携わりたいと思い、自ら志願し、「CAI教育システム開発」「ASP/CRMコンサルティング」、そして今に繋がる「データマイニング・テキストマイニング事業化」に携わりました。
「当社の強みである機械学習・データ分析を事業化する」という経営方針があったという背景もあり、私自身が時代の変化に適応したともいえるかもしれません。

次の10年は、「BIGLOBE」に出向されていますね。経緯と、どのような仕事をされていたのかお教えください。
「これまでに事業化したサービスを拡大するフェーズに移す」というのが出向した経緯です。私のミッションは、NECのテキストマイニング技術を使ったソーシャルメディア分析システム「感°Report」を世に届けること。あわせて、広告営業部長をさせていただくなど技術畑から随分離れた業務にも携わったので、「渡辺さんって技術者だったんですか?マーケッターかと思ってました」なんて驚く人もいました。
2014年にNEC中央研究所に異動してからは、ニオイデータ分析研究チームのリーダーを務めています。原点回帰したという感覚です。
何度も専門分野が変わるのは大変かと思うのですが、それだけではなく、渡辺さんは2度育休を取得された2児の母でもあります。最前線で働くために心がけてきたことはありますか。
よく部下の方々にお伝えしているのは、「運は自分で引き寄せるもの、できるだけ目立ちましょう」ということです。自分がやっていること、達成したこと、やりたいことは自己発信しないと周囲に伝わりません。自ら動いて上司やチームに根回しすることも大切です。
私は34歳でマネジャー職に就かせていただいたのですが、「上に立つ人ほど自己発信が大切」だと実感しています。自己発信をすることで、「面白そうなことやってるな」「チームに加わりたいな」と人を巻き込むことができ、サポートしてくださる人が増えていきました。目立つことは自己主張とは違います。
それと、「流れに抗わない」ことも意識してきました。例えば、私のように10年オフィスにこもって開発をやってきた人間が突然、「これからお客さま先で1時間プレゼンしてきて」と言われても面食らってしまうんです。それでも「わかりました!」と言って現場に向かう。最初は下手でもいい。与えられた仕事は「まずはやってみるの精神」で量をこなし、質に転化してきました。

「会社・顧客・社会」3つの視点で成長。
もっと仕事は楽しくなる
成長するために心がけていることはありますか?
目標設定と効果測定を半年ごとに行っています。ポイントは独りよがりにならないこと。私は、叶えたい目標を「会社」「顧客」「社会」の3つの視点でノートに書き記しています。
Aのサービスをローンチさせたい(会社視点)
お客さまからこんな風に評価されたい(顧客視点)
メディアにこんな風にPRしてテレビで報道されたい(社会目線)
3つの視点で半年後の効果測定を行うことで、成長や変化を感じやすくなります。自分もお客さまも社会もWin-Win-Winの関係になれますから、どんどん仕事が楽しくなりますよ。
今を大切にすれば道は開ける
今後のビジョンを教えてください。
においセンサーの研究成果を生かした事業化に向けて社会適用・実装を目指しています。おそらく、ここ2~3年が勝負かなと。新しい技術の成否は世の中に出すタイミングが大変重要なんです。「技術が優れている」だけでは競合に勝てません。
実は過去に苦い経験がありまして・・・。1990年代末に当社が開発した、今でいうInstagramにあたる画像投稿サービスがありました。しかし、当時の通信環境では大量の画像を滑らかにさばけませんでした。アイデアがあんまり先進的だと成功しないんです。世の中が「いいね」と思ってくれないと、「それなぁに?」で終わってしまう。
それでいうと、「におい分析」、「におい科学」などのキーワードは、一般的に耳にするようになりました。だから、ここ2~3年が勝負どころ。当社の製品が市場に出ることを願うし、それまでしっかり見届けたいです。

そんな渡辺さんの「はたらいて、笑おう。」とは?
これまでお話ししてきたことを総括すると、「今を大切にすれば道は開ける」ということかな。
NECの一員になって35年、会社を辞めたいと思ったことはありません。けれど会社に行くのが憂鬱だった時期はありました。そんな時はふっと周りを俯瞰して見て、今を切り抜ける工夫をしていました。例えば、子どもの送り迎えは大変だけど、ママ友と協力してその時々で当番制にするとか。自分が上機嫌でいられるようコントロールすれば、仕事も人生も楽しめるようになります。
今後の身の振り方については、ノープランです(笑)。自分でもマイペースだなぁと思うのですが、でも、それがいいんです。今を大切にすることで自然と未来は切り開けましたから。今、将来に大きな不安は無いかな。これまで通りマイペースに残りのビジネスライフを完走したいと思っています。

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)