#14

女性が自由に豊かに生きられる社会を

女子未来大学 ファウンダー 猪熊真理子さん

「女性が自信を持って自分らしく生きられるようサポートしたい」。
猪熊真理子さんがそう決意したのは、女性活躍推進の重要性が叫ばれるようになるずっと前のことだった。
学生時代から自発的に支援活動を始め約4,000人以上の女性に寄り添ってきた彼女が思う「はたらいて、笑おう。」とは。

更新日:2018年4月6日

原動力は自信が持てなかった過去の自分

女性を支援しようと思われたきっかけを教えてください。

私は幼い頃から自分に自信がなく、常に頑張っていないと「自分には何の価値もない」と追い込んでしまう完璧主義なところがありました。

バレエ、ピアノ、習字などの習いごとを1週間に8つもこなし、どんな時も手を抜かずベストを尽くすのが当たり前。家族を失望させたくないという想いが子どもながらにあったんですね。

また人の気持ちをすぐ察してしまい、人間を理解したいという気持ちが人一倍強かったんです。将来、「人の気持ちがわかる大人になりたい」とずっと思っていたし、そうでないと、自分が気付かないうちに誰かを傷つけてしまうかもしれない。そういう風にはなりたくないと。大きくなるにつれ、自己流で人を理解しようとするのではなく、専門的に心理学を学びたいと思うようになり、東京女子大学の心理学科を専攻しました。

大学に入るやいなや心理学の世界にのめり込んでいきました。アカデミックな知識が増えると、「私らしさ」とはなんだろうと思うようになり、本当にやりたいことを探し求めるようになりました。もともと大学生活のモットーは、「やりたいことをなんでもやってみる」でしたから、バレエサークルに所属したり、読者モデルをしたり、起業家の交流会に参加したり、思い立ったら即行動に移していました。

そんな中、私が関心を持ったのは、「女性の自信形成」でした。「女性特有の自信のなさ」はどこから生まれるんだろうと興味を持ったんです。自分と同世代の女子学生を俯瞰してみると、流行を追いかけ、似たようなファッションを身にまとい、「私らしさ」より世の中に迎合することに重きをおいているように感じたんです。その姿はとても不安そうで、「どうせ私なんて……」と自分の可能性にブレーキをかけているようにも見えました。

 

そこで「女性が自由に豊かに生きられる社会へ」というテーマでブログを更新することにしました。続けていると、次第に就活生などを対象とした講演会のオファーをいただくようになりました。受講してくださった女性が涙を流しながら共感してくれる姿を見て、これこそが私が一生をかけて取り組みたい事業なんだと意識するようになったんです。

私はもともとお金を稼ぐということに執着がなく、正直いうと女性支援はボランティアでも慈善事業でもやりたいと思っていたんです。そのため大学卒業後、すぐに起業して自分のやるべきことに一直線に突っ走る覚悟もあったのですが、一方で、一生をかけてこの事業を成し遂げるためには、事業を継続させるための収益が循環しないと成り立たないということも自覚していました。

起業と就職の狭間で悩んでいた私に声をかけてくれたのは、一足先に社会人になった先輩でした。「まずは会社という組織に入って社会人経験を積んだ方がいい。視野が広がり、今後やりたいことに活きると思う」その言葉に心を動かされ、就職の道を選びました。

就職先として選んだのはリクルート。たくさんの起業家を輩出していることと、事業を継続させるためのノウハウを学べると期待した上での就職でした。面接では、「女性のための事業を立ち上げたいので、女性向けの事業に配属してください」などと今思えば大胆なお願いをし、ブライダル情報誌『ゼクシィ』と美容サロン検索・予約サイト『Hot Pepper Beauty』などを扱う美容事業部を3年半ずつ受け持たせていただきました。『Hot Pepper Beauty』では、本来、分業して行われる3つのミッション「中長期事業企画」、「プロモーション戦略」、「マーケティング」すべてに携われたことで、事業の様々な側面から事業を成長させる経験をさせていただいたと思っています。自分が成長してやれることが増えると役に立てる“人の数”と“社会への影響度”が増えていく。これが働くモチベーションになり、1年で辞めるつもりだったのに気付けば7年勤めていました。

自分の可能性を自分自身が信じきること

その後、2014年に起業されたのですね。起業のきっかけと現在のお仕事内容を教えてください。

学生時代から講演会やセミナー活動はずっと続けていましたし、女性が自由に豊かに生きるためのサポートをしたいという情熱は、年月を経ても一切冷めることはありませんでした。2013年、政府が「女性の活躍推進」を成長戦略として掲げたことを受けて、加速していく時代の波に取り残されずに女性たちのための事業をやるなら、すぐに動き出さないと時代に取り残されると思ったのがきっかけですね。

 

現在の仕事内容は、女性の活躍推進や女性支援事業を主軸に、形を変えて様々な角度からアプローチしています。例えば企業の中での女性活躍推進のためのコンサルティングや研修やワークショップを実施したり、女性の創業・起業の支援、省庁や行政とのお仕事、地方自治体から依頼を受けて、女性の活躍を支援する事業や講演を御一緒させていただくこともあります。

また、自社事業として取り組んでいるのは、社会人女性の学びの場としてのコミュニティ「女子未来大学」の運営です。女性たちが自らの主体性を持って人生を選択するための“学びの機会”を提供するために、多方面で活躍する方々を講師にお招きして様々な授業を行う学びの場を提供しています。

「女子未来大学」はすべての女性に対してオープンな存在です。働く女性も、専業主婦の女性も、年齢やライフスタイル関係なく、女性であればどなたでも参加できます。女性たちの職場と家庭に続く「サードプレイス(=自分らしさを取り戻せる第3の居場所)」としての役割を担いたいとの想いで立ち上げた事業ですから、教育事業というよりは、女性たちが共に繋がり学び合うための「コミュニティ」という位置付けですね。

女子未来大学は、これまで出会った多くの女性から寄せられた共通の悩みが設立の原点となっています。
「家と職場を往復する生活で、自分の視野が広がらない」「友人とは、当たり障りのない会話ばかり」
「自分がどう生きたいか、本当は何をしたいのか、深い話をする機会がない」
「結婚や出産などライフイベントを迎え、今後のキャリアの築き方がわからない」

家族でも同僚でもない第三者が集うことで、自分が本当に望む生き方や働き方を語ることができる、そんな「心の居場所」をつくりたい。その想いが形になり、現在までに10代から70代まで、幅広い世代の女性たちとの出会いがありました。

こうした様々な女性活躍支援事業を通して、目の前の女性の目の輝きが変わっていく瞬間というのは、本当に涙が出るくらい嬉しいものです。お金には代えられない喜びや、やりがいがあるからこそ、「私の役割」「私の存在意義」を感じられるのです。この事業が女性たちや社会に必要とされているんだと私自身が心から信じられること。この仕事を通して私自身の自信に繋がっていることを思えば、本当に救われているのは私なのかもしれません。

 

女性の幸福の総量を最大化する

今後の目標はありますか?

去年から力を入れているのは、地方で働き暮らす女性たちの支援です。講演で地方を訪れると、女性たち一人ひとりが孤立しているように感じる場面が少なくありません。東京と比べると、学べる場も、悩みを相談できる人にもなかなか出逢いづらいのかもしれません。小規模なコミュニティで抜きん出てしまうと、出る杭は打たれるのではないかと自制しているようにも感じます。

そんな彼女たちの前で、講演をさせていただくと、「勇気付けられた」、「背中を押された」、「私も実践してみようかな」などと涙を流してくださる方が少なくありません。働くこと、生きることに対してすごく純粋な女性たちのポテンシャルと可能性がつぶれてしまったらもったいないですし、何より一人で悩むという孤独な状態から抜けるためのきっかけとして、同じような境遇にある女性たち同士が繋がれば、お互いにエンパワーメントできるし、自己実現に近付けるのではないかと思っています。

そんな猪熊さんにとって、「はたらいて、笑おう。」とは?

「女性が自由で豊かに生きられる社会をつくること」です。

私が生涯をかけて取り組みたいのは「女性の幸福の総量」を最大化すること。総量は量×質。まずはたくさんの女性に会う、それが「量」です。そして一人ひとりの女性たちが自分らしく生きるための支援をすることで、それぞれの女性たちの幸せに貢献できるかというのが「質」。幸せに生きる女性を全国にどんどん増やしていきたいです。

この事業を何才まで継続できるか、どれだけの女性と関われるかは私の頑張り次第。年々ベストを尽くして、地道に積み重ねていきたいですね。

 

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

女子未来大学 ファウンダー 猪熊真理子さん

(株)リクルートを経て、2014年3月に(株)OMOYAを設立。(株)OMOYAでは、主に女性消費を得意とした事業企画やマーケティング、企業内の女性活躍推進などを行う。認定心理士。多様な価値観の多様な幸せを女性たちが歩めるような未来を目指して女性のキャリアや心理的な支援活動などを行っている。著書に『「私らしさ」のつくりかた』
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