#13

あきらめることをやめる

パーソルプロセス&テクノロジー 細谷真司さん

「育休は家族や仕事と向き合うきっかけとなる」。そう力強く語るのは、パーソルプロセス&テクノロジー(株)のワークスイッチコンサルティングに所属する細谷真司さん。男性にはまだ珍しい育児休業を取得。その経験は、今の細谷さんの生き方につながっている。

更新日:2018年3月23日

仕事を離れて子育てをする人の本音と葛藤を知った

まず、ご経歴から教えていただけますか。

2008年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社し、個人のお客さまに転職のサポートをするキャリアアドバイザーとして働き始めました。お客さま一人ひとりの未来をお客さまとともに創り出す仕事は楽しく、終電まで仕事に没頭しても苦にならないほどやりがいを感じていました。

労働時間も気にせず、お客さまのためベストを尽くすことに集中していました。
キャリアアドバイザーを6年続けた後、法人営業を経験し、パーソルプロセス&テクノロジーのワークスイッチコンサルティングに自ら志願して異動しました。

 

異動されたきっかけとは?

異動願いを出したのは、新しくやりたい仕事が見つかったからです。
平たくいうと、「もっと多様な働き方ができる世の中をつくりたい」と思ったんです。

5年前、まだキャリアアドバイザーをしていた頃に社内結婚をし、営業に異動して間もなく第一子を授かりました。手前味噌で恐縮ですが、妻も非常に仕事熱心で責任感も強く、すぐに職場復帰する予定でしたし、僕もそう願っていました。ところが保育園の空きがなく待機児童になってしまったんです。その時に思ったんです。世の中には妻と同じ境遇の女性がたくさんいるはずだと。

さらにこれは僕が深く反省するところなのですが、第一子が生まれた頃、子育ては妻に任せきりだったんです。妻の生活は180度変わったのに、僕は自分の生活を何も変えようとしなかったんです。

遅くまで働いてそのまま飲み行くことも普通にありました。一方で妻は「母親の私が頑張らなければ」と一人で責任を背負ってくれていました。初めての育児で右も左もわからず不安も不満も非常に大きかったと思います。当時私はそんなことは露ほども思わず、ある日私が大失敗をしたことで話合いとなり、妻の置かれた環境と、父親になれていない自分に気づきました。加えてそこで初めて社会と距離ができて感じる孤独や子育てをたった一人で背負う大変さ、職場に復帰したくてもできない不安といった仕事を離れて子育てをする人の本音と葛藤を知ることとなったのです。

成約があって働きたくても満足に働けない人達の気持ちに寄り添えるよう世の中を変えていきたい、と思ったんです。

そして二人目のお子さんの誕生とともに育休を取得されたとのことですが、男性の育休取得はあまり事例がないと伺っています。抵抗はなかったですか?

二人目のときは妻に任せきりにすることなく主体的に家事・育児をしようと心に決めていましたが、男性の育休取得には僕も妻も消極的でした。

提案してくれたのは、上司でした。二人目の出産報告をした際に「育休取ってみたら?」と背中を押してくれたのです。しかし、男性が育休をとるなど夢にも思っていなかった僕ら夫婦は戸惑いました。

当時の僕は、ワークスイッチコンサルティングに異動して3ヶ月の新参者でした。即戦力としてすぐにでも期待に応えたいと願うばかりで、また、休みを取れば仕事に穴をあけてしまいますし、顧客が離れていくのではないかという不安もありました。僕は組織のトップに主旨を伝え、相談の場を設けてもらうようお願いするつもりだったのですが、トップは「取りなよ!」と二つ返事で許可してくれたので、この言葉に後押しされてチャレンジすることにしました。

 

まずは目の前の人を幸せにすること。そこから見えてきた業務改善の鍵

具体的に育休中はどんなことをされていたんですか?

「全部自分で経験しないと「妻と同じ目線」に立てない。」と僕は思い、基本的に授乳と洗濯以外の家事・育児のほぼすべてをできる限り毎日担当しました。一日三食の食事づくり、片付け、おむつ交換、子どものお風呂、寝かしつけ……一通り経験してわかったのは、母親とは「秒単位」で、子どもの命を守っているということでした。

2人の子どもが同時に寝てくれることなんて、まず有り得ません。上の子のオムツを替えていたら、下の子が嘔吐している。下の子がやっと寝てくれたと思ったら、上の子が頭からひっくり返っている。何度も子どもの世話を中断しながらやっとの思いでご飯をつくっても、全然食べなかったり、投げ捨てられてしまったりする。
こんな息つく間もないことを妻は毎日やってくれていたのだと身をもって実感しました。

 

休日は2人の子どもを連れて外に出掛けることも多い(ご本人提供写真)

1ヶ月後に職場復帰されてから仕事の向き合い方は変わりましたか?

大きく変化しました。今までは自分がやりたい仕事があれば、遅くまで働いてもいいという考え方でしたが、今は、強く生産性を意識した働き方に変わりました。夜7時半には自宅に帰って育児に専念したいと思っています。

僕自身のこの意識改革が仕事に活かされています。コンサルタントとしての僕の役割は、企業の働き方改革のためのアドバイスを行うことです。 例えば、長時間労働の是正をテーマに解決策を提示するならば、理想論を述べるのではなく、僕自身が体験したこと、今まさに実践していることを踏まえて顧客と並走することができます。これは大きな違いですね。

「何も心配することないよ」と言ってあげられる子育て世代を応援する存在になりたい

それと、家族と一緒に過ごす時間が増えたことで、より色んなことにチャレンジしたいという気持ちが芽生えたんですよね。すでにお話ししたように、子どもが生まれる前は自分がやりたいことができればそれでいい、というような考え方でした。しかし、育休中に妻とコミュニケーションをとるうちに、子どもの将来について語り合うようになりました。子どもには多くの気付きを得て、好きなことに挑戦してもらいたい。親として、あらゆる選択肢を与えてあげられる存在になりたいという意識が強くなったんです。今自分が子どもに誇れる仕事ができているか、そして自分のする行動や判断が家族を幸せにすることに繋がるのか、という事を考えるようになりましたね。

今後の目標はありますか?

子育て世代のロールモデルになりたいですね。家族との時間を大事にしながら、育休取得後も第一線で働けるのだと身をもって示していきたいと思っています。 さらには、「何も心配せずに育休を取りなさい」と未来の部下に言ってあげられる存在になりたいですね。

最後に、細谷さんにとっての「はたらいて、笑おう。」とは?

「あきらめることをやめる」ことです。

誤解されたくないのでこれはしっかり伝えたいのですが、僕は家庭があるからといって仕事をセーブする必要はないと思っています。生産性高くたくさん働いて、「働くってこんなに人生を豊かにすることなんだ」という姿を子どもたちにどんどん見せていきたいです。自分の好きな仕事をする、お金を稼ぐ、妻と一緒に子育てをする、家事をする。子どもとも思いっきり遊ぶ。
……欲張りでしょう?
欲張りだから、いっそのこと「あきらめる」のをやめたんです。すべて挑戦してすべて手に入れる。それが、僕の働き方です。

 

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

パーソルプロセス&テクノロジー 細谷真司さん

2008年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に新卒入社。キャリアアドバイザー、法人営業を経て2017年パーソルプロセス&テクノロジーのワークスイッチコンサルティングに異動、現在に至る。同組織初の男性育休取得者。