#09

笑って泣いて「観るスポーツ」を創造する

日本テニス協会 齋藤祐宇さん

「スポーツ観戦は楽しむものですから、主催している僕らが心から楽しめるものでないと」そう語るのは、日本テニス協会の齋藤祐宇さん。毎秋行われる国際大会「楽天・ジャパン・オープン・テニス・チャンピオンシップス(以下、楽天ジャパンオープン)」を10年支え続けてきた影の立役者だ。大会運営という仕事の醍醐味を伺った。

更新日:2018年2月9日

テニスとはくされ縁なんです

日本テニス協会に入るきっかけは何だったのでしょうか?

テニスに縁がある人生を送ってきました。父親がテニス好きだったため幼い頃から身近なスポーツで、僕自身も高校から競技者です。卒業後は地元横浜のテニスクラブの事務員として働き、テニスの振興に務めてきました。日本テニス協会に転職したタイミングも絶妙でした。前の職場を辞めたときに、「自由に時間が使えるのは今後の人生で今しかない」と思い、かねてからの夢であったアメリカ留学を決意しました。
が、肝心のパスポートの期限が切れていたので、パスポート更新のためアメリカ行きは一旦保留に。
その矢先に携帯が鳴り、
「日本テニス協会で働いてみませんか」
前職の先輩がつないでくださったオファーの電話でした。

日本テニス協会での齋藤さんのお仕事を教えてください。

協会のメイン事業である「楽天ジャパンオープン」のアシスタントトーナメントディレクターとして大会の運営業務を行なっています。

「楽天ジャパンオープン」とは、毎年10月に有明で開催している国際大会です。歴史は46年と古く、アジアで最も歴史のある大会でもあります。そんな由緒正しい大会の運営に携わらせていただくのは本当に光栄なことだと感じています。

仕事の領域は、運営にまつわること全て。国際大会の準備はとにかく時間がかかりますね。スポンサー探しから始まり、予算管理、会場の選定、チケットセールス、プロモーション、WEBサイトの運営など…、大会が始まるまで丸1年かかりっきりになります。
肉体的にもハードなうえに、歴史ある大会を絶対に成功させなければいけないという精神的なプレッシャーもあります。

なので、全てをやりきった時の達成感はとてつもなく、安堵して体が震えたこともありました(笑)。

 

世界一、選手に愛される大会へ

大会の運営業務で挑戦していることはありますか?

僕個人というよりも大会の運営委員会として挑戦していることですが、選手自らが好きな大会を選ぶ「トーナメント・オブ・ザ・イヤー(世界一)」の獲得を目指す挑戦をしています。

目標の規模が世界一になると、自然と僕らスタッフも意識が世界に向くものです。大会の評価基準は賞金金額はもちろんですが、大会期間中の環境などがポイントにもなるため、協会の計らいで、僕も海外に足を運んで国際大会の研究をする機会を与えてもらいました。その経験をもとに現在の大会運営に取り組んでいます。

選手たちは毎週のように世界各国で行われている大会に出場するために移動を繰り返していますので、入国してからストレスなく、いかにスムーズに部屋まで案内できるかをまずは重視しました。選手の移動に使用する車両を大幅に増大して、選手が待つことなく会場や空港との往来ができるようにしたり、選手ラウンジを広く確保できるよう屋外に仮設の選手レストランを設営したりしています。
また、テニスの観戦以外でもご来場いただいた方に楽しく過ごしていただけるよう努めています。人気の飲食店とタイアップして会場内に出店していただく、お客さまがお食事を召し上がるスペースを増やす、ご来場いただいた記念となるように大会記念グッズを作るなど、大会を多くの人に楽しんでもらえるよう工夫しています。
これも海外の大会からヒントを得ることが多いですね。あらゆる点で僕らはまだまだ勉強が必要だと感じています。

「観るスポーツ」の文化を定着させたい

今後の目標を教えてください。

日本テニス協会は約20人で運営しているため、誰が欠けても大変です。
現在、仕事が偏らないように複数人で複数業務を担当する働き方や、スタッフの増員も提案してはいるのですが、予算の問題などもあり、そう簡単にはいきません。

であれば、協会の財政基盤を安定させるためにも大会による興行収入に次ぐ新しい事業を増やせないだろうかと考え始めています。事業がもっと増えて財政基盤がより安定すれば、スタッフやインフラの拡充をすることも可能になると思いますし、ゆくゆくは「観るスポーツ」という文化が、日本にさらに定着するのではないかという期待もあります。

 

最後に、齋藤さんの「はたらいて、笑おう。」とは。

僕の思考の根底にあるのは、まずは自分が楽しむことです。

実は、テニスと縁が深いと言いつつ、トッププレイヤーの大会を観にいったことが一度もなかったんですね。なんなら、日本に国際大会があることすら知りませんでした。初めて大会を観たのが、協会1年目だったのですが、その迫力といったらもう驚くなんてもんじゃない。選手の好プレーとともにドーンと爆発音みたいな歓声が上がるんです。選手の息づかい、お客さまの熱狂、臨場感。これがライブの醍醐味なんだと心が震えました。

同時に、協会の一員として働くのだから、一人でも多くの人にこの感動を体験してもらい「観るスポーツ」を定着させたい、そのための努力を惜しまないと決めました。

そのためにも運営側の人間が心から感動できる大会でないと、お客さまに感動を与えるなど無理な話。かといって、「運営側だけ盛り上がっている」、みたいなものはいちばんだめ。

意識しているのは、僕自身がこの大会にお金を払って見に来たいと思えるか。心から楽しんで満足して帰れるか、です。その辺りは誰よりも厳しくチェックしています。

今後も、僕らが胸張ってお届けできる大会を目指していきます。
そしていずれは、選手の皆さんに「世界一愛している」と言わせたいですね。

 

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

公益財団法人日本テニス協会 齋藤祐宇さん

大学を卒業後、テニスクラブの職員を経て2008年に日本テニス協会に入会。
「楽天ジャパンオープン」の運営を担当するアシスタントトーナメントディレクターとして約10年間大会を支えている。
日本テニス協会公式サイト 日本テニス協会公式サイト