#07

お客さまに笑顔をいただく

モダン着物小物 梅屋 店主 梅原麻里さん

梅原麻里さんがデザインする「洋服みたいなモダン着物」は、自宅で洗濯できて値段は5万円以下。どなたでも気軽に着物を楽しめるように。そんな願いが込められています。でもなぜ、ハート柄やゼブラ柄を着物に仕立てようと思ったのでしょう。アトリエにてお話を伺いました。

更新日:2018年1月26日

もっと自由に着物を楽しみたい

モダン着物という発想の原点はどこにあるのでしょう。

着物との出会いは32歳の時でした。年上の友人の影響で着物にハマったのですが、素敵だと思うと同時に、着物ってなんて不自由なんだろうと思ったんですね。

まず着るのが大変だし、お手入れも大変。なるべく汚さないように行動が限られてしまう。でも、着物をもっと楽しみたいからお店に行っても、高額な着物ばかり勧められて気後れしちゃう。デザインも古典的なものは素敵だけど、自分が普段着るには大げさな感じもして、「もっと“今を感じる”気軽に楽しめる着物があればいいなぁ」と思っていました。

世の中に自分が本当に着たい着物がなかったので、つくるしかないと思ったんです。

 

梅原さんのモダン着物は、ゼブラ柄や水玉模様など柄で遊べることも魅力ですが、なぜカジュアルな柄ものを着物にしようと思われたのですか?

私も色々な着物を着てみて気がついたのですが、着物って実は「洋服以上にコーディネートを楽しめる」んです。洋服だと柄に柄を合わせるとガチャガチャして格好つきませんよね?
例えば、チェックに水玉を重ねたら、ちょっと“うるさい”感じ。でも着物なら柄と柄の相乗効果でオシャレ度がアップするんです。なぜなら、デザインのパターン(型)が決まっているので、柄のディテールが引き立つんです。そういう魅力に、どんどん引き込まれていきました。固定観念に縛られずに、もっと自由に着物を楽しみたいと思ったのが発想の原点なんです。

価格も5万円以下なんですね。

価格帯にもこだわっています。着物といえば高額なイメージがあると思います。

今ECサイト「モダン着物小物 梅屋」で取り扱っている着物は5万円以下のものが中心です。それでも高いと思っているので、極限まで価格を抑えようと日々奮闘しています。お洋服を買う感覚に近い価格帯であれば、もっと自由に着物を楽しんでいただけるのではないかと思っているからです。また自宅で洗える素材を中心に扱っていて、例えばシルクのように見えるのに、実はポリエステル素材だったり。お手入れもお洋服感覚にすることで、自由度を高めています。

 

着物は動きにくいと思われがちですが、着慣れてくると洋服と同じように動けます。どこまでできるか、色々と実践中で、先日は那須で着物を着てテニスをしてみました(笑)
あとは代々木公園で友人らと大縄跳びをしてみたり。また海外旅行も着物で行きます。私はコーディネートも楽しみたいので、6泊8日で少し多めに3着を持参しましたが、実は着物は洋服よりかさばらないので、荷物を少なくできるんですよ。

テニスも縄跳びも旅行も同じことを着物でやるだけで楽しさが倍増することも着物の魅力だと思います。

悩んでも解決しない。行動に移す勇気を

梅原さんのキャリアについてもお聞かせください。着物と出会った頃、梅原さんは会社員だったんですよね。どのようにして、着物ビジネスにシフトされたのですか?

すぐに自分でものづくりを始めたわけではなくて、まずは着物にまつわる情報が当時は全く足りていなかったのでブログを開設し、着物にまつわる情報を発信してみたんです。

その後、手づくりの和装小物をオークションサイトで売り始めました。お客さまからすると使い勝手が悪いと思ったので2010年にECサイト「モダン着物小物 梅屋」を立ち上げました。

その時点でも、まだ会社員だったんですよね?

そうなんです。あくまで副業としてやっていたので、本業が忙しいときはどうしても手をかけられなくて、月に2、3万円程度の売り上げにとどまることもありました。反対に本業の繁忙期が過ぎて余裕があるときは月に数十万円売り上げることもあって、その時々で波がありました。

でもそれって本業に左右されて本当にやりたいことに全力投球できていない状態だと思ったんです。
「本業が忙しいから」「自分が本当にやりたいことができない」などといつまで自分に言い訳をするのかと。悩んでいても何も解決しないので、思い切って会社を辞め、前に進むことにしました。

 

退職し独立されて、モチベーションはどのように変化しましたか?

自分のやりたいことがやれているという充実感と楽しさが以前とはまったく違います。

当然ですが、独立すれば決裁権は自分にあるので、自分のやりたいことはなんでもチャレンジできます。
自分の感性を頼りにものづくりができて、誰かの意見に左右されることなく私の想いを詰め込んだ商品をお客様に届けられます。

責任はすべて自分にあるので、アイディアが浮かんだらすぐに実行でき、トライ&エラーを繰り返せるのも大きなメリットです。

それと、楽しいと自然と力が湧くんですよね。
誰かにやらされる作業に比べて自分で主体的にやる仕事は、体力と気力が何倍も違う気がします。好きなことなら時間を忘れて没頭できるので、「私ってこんなに働き者だったんだ」と自分に驚かされることもしばしば。

ただ、自己責任だからこそ大変なこともあります。モチベーションが下降しても、自分一人で浮上しなくてはいけません。そういう時は、休みをとって仕事から少し離れるようにしています。働きすぎて疲れると視野が狭まりネガティブ思考になりやすいので。
基本ではありますが、心身ともに健康でいることがやはり良い仕事をするために大切なんだと思います。

ブログ開設から10年。
お客様の多くはネットで繋がった人たち

現在の手ごたえのほどはいかがですか?

ブログ開設から10年が経ちました。今もほぼ毎日書き続けていて、書き溜めてきた情報は私の着物アーカイブになっています。現在はECサイト運営のほか、実店舗での営業(二子玉川)、イベント出店の3本柱で事業を展開しているのですが、各種SNSやECサイトを見てお店やイベントに足を運んでくださる方が大多数なんです。北海道や関西などの遠方から「やっと来れました〜」なんて足を運んでいただくと、本当に感動します。地道にブログを書き続けてよかったし、あたたかく見守ってくださったお客さまに心から感謝ですね。

仕事をしていて幸せを感じるのは、ネットでもリアルでもお客さまのお役に立てたときです。

着物初心者の方から「着付けはできないけど、梅屋さんの着物が着たいから買って頑張って着ます」そんな言葉をいただけると、自分のやってきたことに意味があったんだと嬉しくなります。

また逆に、着物上級者の方々からもご支持いただいています。正統派な着こなししか知らなかった方でも梅屋の小物に変えるだけでコーディネートの幅が広がり、もっと着物を自由に楽しめます。「こんな風にカジュアルに着るのも素敵ですね!」そんな言葉をいただけると、今後はますます着物シーンが盛り上がっていくんだろうと希望を持てます。

最後に、梅原さんの「はたらいて、笑おう。」とは?

お客さまに笑顔をいただくことです。

思い切り好きなものをつくって、お客さまに喜んでいただくのが何よりのやりがいです。応援してくれる人がいるから、私も頑張れるし笑顔で働ける。これからもお客さまと一緒に着物を自由に楽しんで、着物の可能性を追求していきたいですね。

 

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

モダン着物小物 梅屋 店主 梅原麻里さん

着物と小物のセレクトショップ「モダン着物小物 梅屋」をオープンし自らプロデュースした着物や和装小物を販売。自分らしく、自由に、オシャレに着物を楽しめるようオリジナル商品の開発に力を入れている。
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