「人生をかけて登りたい山」を見つける
スポーツビジネスに関心を持ったきっかけを教えてください。
10代のときに「スポーツビジネスで新しいことを立ち上げて大きな成功する」と決めたんですよね。 今もその気持ちはまったくぶれていなくて、やり遂げるために行動し続けています。
なぜスポーツビジネスにこだわったかというと、自分が何十年という人生をかけられると思ったからです。10歳から20歳までの10年間サッカー一筋で生きてきて、選手も指導者も経験しました。
好きなことは突き詰めれば他者に負けない得意分野になると思いますし、好きな気持ちがあれば失敗しても折れずに続けられます。
学生時代は夢への第一歩として、早稲田大学の同期や後輩たちと、レジャーイベント事業を立ち上げました。起業に向けてのウォーミングアップという気持ちで始めたのですが、楽しかったし、優秀な仲間にも恵まれました。
その時の事業を続けていれば、ある程度の収益は見込めたのかもしれませんが、今後世の中を変えるほどのインパクトは見えませんでした。卒業後は、一旦“解散”して、それぞれの道を歩むことにしました。

大学を卒業後は、ソフトバンクに就職されたんですよね。
僕は将来、ナイキを越える世界一のスポーツカンパニーをつくりたいと思っていたので、かねてから尊敬していた孫正義さんの組織を学び、自分の視野や考え方を広げようと考えました。
孫さんの名語録に「まず登る山を決めろ」とあります。まずは、乗り越えたい山を決めて、どうしたら超えられるのか戦略を練り計画することをいいます。幸いなことに、僕の山は10代の時から決まっていたので、次は行動する段階にあるのだと気付かされました。
このまま会社員を続けるほうが自分にとってはリスクであると感じてしまい、1日も早く「山を登り始めたい」という欲求に駆られ、最も尊敬する会社を入社から11ヶ月で退職してしまいました。
すぐに行動に移せたのは、仲間の存在があったからです。現在僕が代表を務めるookamiは、かつてレジャーイベント事業を立ち上げ切磋琢磨した仲間たちが再結集してつくった会社なんです。
臆さず、とにかく行動する
起業することを決め、まず最初にどういった行動をとったのでしょうか?
いざ次は「僕の山を登ろう」と思った時、そもそも僕はスポーツ業界に何の影響力もないし、ネットワークすら持っていないわけです。それらを持つ人の意見を聞いてみたくなり、すぐに思いついたのが影響力もビジネス的志向もトップレベルの元アスリート、為末大さんでした。
そこで為末さんの会社のお問い合わせフォームから、「とにかく会ってほしい」みたいなメールを5-6通送りました。箸にも棒にもかかりませんでした。
今度はダメもとで為末さんのTwitterに「とにかく会ってほしい」とメッセージを送りました。
それこそが太陽さんの強みですよね。相手が著名人であろうと、臆さずにどんどん突き進んじゃう。
おそらく多くの人は、アイデアがあっても行動に移さないんじゃないかと思うんです。恋愛も同じで、好きな人がいても告白する人って少ないじゃないですか。
メッセージを送った2014年頃、たまたま為末さんがベンチャー企業に興味を持たれていたことも功を奏し、会っていただけることになったのです。
「粘れば、叶う」といった体験を創業前にできたのはすごく大きかったと思います。
ookamiさんのメイン事業であるスポーツエンターテインメントアプリ『Player!』の強みや狙いについて教えてください。
創業前から僕らが計画していたのは、インターネットや情報技術、新しいテクノロジーを使って、スポーツビジネスに刺激を与えるというものでした。
スポーツはエンターテインメントの一つです。例えばワールドカップのような注目度の高い試合で、世界的選手が得点を決めるとしますね。「その瞬間」を世界中のファンが共有して、わっと湧くことができるのがスポーツです。同じエンターテインメントでも映画や音楽は、なかなか時差を超えられません。日本にいる僕らと、地球の裏側にいる人が同じタイミングで熱狂できるかというとなかなか難しい。僕らは、それが可能なスポーツの特性を生かして新しいことを提案したいと思い、生まれたのが『Player!』でした。

スマホに『Player!』を無料ダウンロードするだけで、いつでもどこでもスポーツ観戦ができるだけでなく、例えば、好きな選手が得点を決めれば、スマホに速報が届く。スポーツ好きにはたまらないサービスですよね。
ひとつ、大きな追い風になるだろうと踏んでいるのは、2020年の東京オリンピックです。そこに向かって国が動き、開催後もスポーツビジネスを推進していくという流れができつつあります。東京オリンピックの中心は何と言っても「観戦」なので、新しい観戦体験が生まれるというのはテクノロジーの進歩も含めて必然的に起きることだなと。
世の中に刺激を与えたい。だから新しいことをやる
今後の展望についてはいかがでしょうか。
2つの観点で、世の中に刺激を与えられるよう事業を展開していきたいと思っています。
一つは、『Player!』をもっと進化させて、スポーツエンターテインメントを変えていくこと。
今までは、スポーツ観戦というと、スタジアムとテレビ、この2つが中心でした。これは何十年も変わっていないところです。それをもっとデジタルやインターネットで変えるべきだと。スポーツエンターテインメントの新しい楽しみ方を提案していきたいです。
もう一つは、日本企業の組織のあり方にも刺激を与える存在であること。
僕の勝手なイメージかもしれませんが、ベンチャー企業といえば、渋谷の高層ビルにオフィスを構えて完全仕事モードでバリバリ働く、みたいな形がスタンダードだと思うんです。でもそれって10年も20年も前からやられていることで、今後は、仕事とプライベートの境目がもっと曖昧になっていくのではないかと思っています。
弊社ookamiは、11月にオフィス移転し、あえて一軒家を選んだのですね。
僕にとっては、オフィス内にキッチンやシャワーが完備されていることがすごく重要だったりします。たまにはランチをつくって仲間と一緒に食べたり、何かの節目には外部の方をお招きしてリビングでパーティを開いたり。そういうコミュニケーションって、仕事なんだけど、“楽しい”じゃないですか。
同じ志を持つスタッフたちは、僕にとって大切な仲間です。
人生を共にしようと思っているような相手だからこそ、密に関わっていきたいんです。
まずは、「一つ屋根の下で仕事をする」ことで、新しい働き方を体現しているところです。

そんな太陽さんの、「はたらいて、笑おう。」とは。
これまでお話ししたことを総括して、
「仲間と世の中に挑戦をし、刺激を与えること」です。
仲間と一緒に、スポーツエンターテインメントの新しい楽しみ方を提案していくために、今後もどんどん仕掛けていきますよ!

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

株式会社ookami 代表取締役 尾形太陽さん
留学・放浪、ベンチャー企業でのインターンを経験し、学生時にレジャーイベント事業を起こす。大学卒業後、ソフトバンクへ入社も11カ月で退職。ナイキやESPNを越える世界一のスポーツカンパニーをつくるべく、2014年に株式会社ookamiを創業。早稲田大学法学部卒。孫正義後継者育成プログラムソフトバンクアカデミア所属。
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