#03

みんな、自分らしくいられる社会へ

パーソルテンプスタッフ 山口順平さん

パーソルテンプスタッフで働く山口さんはパラレルキャリアという働き方を選んだ。 週4日は会社で働き、週1日は社会活動に勤しむ。外の世界に触れることで見えてくる、「はたらいて、笑おう。」があるといいます。

更新日:2017年12月12日

組織に依存せず、個人の力を発揮する

パラレルキャリアという働き方をするようになったご経緯を教えてください。

きっかけは、約3年前に社内表彰制度の一つである「ベストマネジャー賞」を受賞したことでした。(当時は旧インテリジェンス(現パーソルキャリア)に所属)大変光栄で嬉しかったのですが、同時に「やり切った感」のようなものを感じる自分がいました。もう一度立ち上がって、情熱を持って仕事をするためにはどうしたらいいのだろうか……思い悩むようになったのです。

一時は転職も考えたのですが、それも違うなと。
職場が変わったところで、自分はまた組織に依存するのだろうと思いました。
私は「公共事業部」という部署に所属し、ある県の就職支援事業を担当していました。求められる成果を出していたのですが、先方都合で事業が終了してしまったのです。その時、「どんなに努力して成果をだしても、組織の決定事項に抗うことはできない」と痛感したのです。

であれば、個人の力でゼロからプロジェクトを立ち上げてみてはどうか。
そう思い会社の人事制度を利用することにし、週4日で働き、残りの1日(場合によっては休日も)は、社会活動をはじめたのです。

 

自分の人生は、自分で舵をとろう

どのような社会活動をされているのでしょうか。

「第2のふるさとシェアリング」
「市民活動団体らしくる」
という2つの非営利の団体を運営しています。ともに、地域をテーマにしており、学生や社会人と、地域の人たちが交流し助け合うことによって、互いに価値発揮できる社会を築こうとするものです。

最初に立ち上げたのは、「第2のふるさとシェアリング」。都心で仲間を募って長野県塩尻市の農家さん宅に“親戚感覚”で訪問し、農家体験をする活動です。「農業体験」ではなく、「農家体験」をするのがポイント。ピーマンの苗を数百個単位で植えたり、トラクターで田植えをするなど、「本気」の作業です。収穫した野菜は出荷されるため、お遊びではダメ。仕事として作業するというスタンスです。

そうして土や農作物に触れ、地元の人に触れることで、本来縁もゆかりもなかったはずの塩尻市が大切な「第2のふるさと」になる。活動を通して、より豊かな社会をつくることを目的としています。

農家さんもボランティアで協力してくださっているのですか?

はい。僕らがお世話になっている農家さんは、人手に困っているわけではありません。教える手間を考えれば、僕らが100%戦力になっているとは言い難い。むしろ、都会から若者が来てくれて、みんなでワイワイ作業したり、夜はお酒を飲みながらの意見交換を楽しんでくださっているようです。

 

長野県塩尻市での「農家体験」の様子

農家さんと触れ合うことで、僕らも意識が変わっていきました。

最近よく聞くようになった、「地方創生」という言葉。かつては、地方をサポートするという感覚がありました。しかし、地方の人の暮らしはすでにとても豊かです。生活をとても楽しんでいる。都心からやってきた僕らの方が、彼らの生き方を学ばせてもらっていることに気付かされました。

社会活動によって得た知識やスキルが本業にプラスの影響を与えることはありますか?

今、国や県は「地方創生プロジェクトをどのように進めていけばいいのか」といった課題を抱えています。
東京一極集中の傾向が継続している中、東京圏から地方圏への移住定住を促進しなければならないといっていますよね。

これについては、「第2ふるさとシェアリング」を経験したからこそ、新たに見えてきたことがあります。

人が地域を超えて移住するのはそんな簡単な話じゃない。移住先に仕事はあるのか、所帯を持つ環境はあるのかなど、いろんな不安を抱えるのが当たり前で、それらが解消されなければとてもじゃないが移住など無理なわけです。

まずは移住先に足を運んで地元の人と交流し、生活や生き方、楽しみ方を知ることか始めてはどうかと僕は思います。

その結果、僕らが塩尻市を第2のふるさととして、「またここに帰ってこよう」と心から思えたように、「こういう人がいて、こういった暮らしがあるんだな。」と、その土地で生活する自分をイメージできること。それがあってはじめて移住について検討するスタートラインに立ってもらえるのと思うから。これは、社会活動をしたからこそ学べたことです。

 

二つ目の、「市民活動団体らしくる」ではどのような活動をされているのですか?

「第2のふるさとシェアリング」で手応えを感じたので、今度は、自分が住んでいる茅ヶ崎にも関われる機会が欲しいと思うようになりました。

僕は、「自分の人生は、自分で舵を取りたい」と思っていて、自分らしくあるという意味を略して「らしくる」と呼んでいます。なので、自分らしくある人を地域の中でたくさん増やしていけたら豊かな町とか、安心して暮らせる町とかになっていくんじゃないかなと思っていて。

着目したのは、シニア層です。これから2025年に向けて、茅ケ崎でも75歳以上の人が3万人から一気に4万人に増えると予想されています。

僕らは、「シニア=支えられる人」というような意識がどこかにあると思うのですが、シニアの人は、実は価値発揮をしたいと思っていらっしゃるのですね。体力は落ちているんだけれども、社会的な意義を求める欲求というのはいくつになっても変わらないんです。

けれど、実際には、70歳を超えると、再就職が難しくなるのが現実です。たとえ「対価を得る」仕事じゃなくても、なにか、誰かに教えてあげるとか誰かの役に立つということができるような場があったら、元気で、自分らしく生きられるんじゃないかなと思ったんです。

例えば、85歳のおじいさまがいます。その人はもともと大手飲料メーカーに勤めていて、引退してブドウ畑を作っているけど、体力の衰えを感じ、自分一人の力では到底まかなえない。 そこで、共感してくれる若者と協業できれば、若者も達人の技を学べてお互いに価値発揮できる関係ができます。

シニア層は、地域の資源であり、地域のレジェンドです。彼らの力を借りて、次世代につなげる活動をしています。

 

「市民活動団体らしくる」での活動の様子

働くこととは、「傍(はた)を楽にする」こと

社会活動をすることで、山口さんご自身の将来の種まきになっているとの見方もできますか?

そう感じています。もともと、活動を通して自分の価値というものを大きくしていきたいという思いもありました。
最初のうちは、「そんなことをやっていても意味はない」と言われてしまうかもしれません。けれど、実際に自分でやって育ってきたら、将来的に「自分がこれだけ関わっている中で、こんなものが今できています。これを活かしてこんなプロジェクトをやりませんか?」と提案できるようになる。実績があれば、説得力も増すと思います。

 

そんな山口さんの「はたらいて、笑おう。」とは?

みんなが自分らしくいられて、世の中が良くなるような輪を大きくしていくこと。

諸説あるのですが、「働く」の語源は、「傍(はた)を楽にする」であるといわれているそうです。午前中は自分の商売をしてお金を稼ぎ、午後は、「そばの人を楽にする」ために働くという考え方があったみたいなんですよね。

自分の利益だけを追求していた人が、20営業日のうちの1日ぐらいは誰かの傍(はた)を楽にしたり、たのしませたりできれば、世の中がもう少し明るく、より良い方向へ向かうのではないかと思っています。

取材・構成:両角 晴香
写真:井手 康郎(GRACABI inc.)

 

パーソルテンプスタッフ 山口順平さん

パーソルテンプスタッフで地方自治体における雇用関連事業のプロジェクトマネジャーを行う傍ら、非営利団体の代表を務める。