著名人部門

芸能生活30年、心身の病を乗り越え「筋肉」で愛されるまで。
できない自分を認め、厳しい世界で生き残った

Shinji
Takeda

俳優・サックスプレーヤー

武田 真治

1989年、16歳でジュノン・スーパーボーイ・コンテストのグランプリを受賞し、翌年に俳優デビュー。22歳でサックス奏者としてCDをリリースし、23歳でバラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』に出演、22年半にわたりレギュラーを務める。1999年、映画『御法度』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。2018年に出演したNHKの『みんなで筋肉体操』はネットを中心に大きな話題を呼び、2018、2019年の『NHK紅白歌合戦』に出演。ドラマにも多数出演し、2020年に芸能生活30周年を記念してアルバム『BREATH OF LIFE』を発売予定。

俳優、サックス奏者と多方面で活躍する武田真治さん。90年代半ばにフェミ男ブームで時の人となり、近年はNHKの『みんなで筋肉体操』で爆発的反響を呼びました。多才な人と認識されている武田さんですが、多忙な時期に体を壊し、うつ状態になって芸能界引退を考えたそうです。苦悩を乗り越え、誰もがうらやむ健康体で活躍するまでの軌跡を伺いました。

※本インタビューは新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインで取材を行いました。

サックス奏者を目指し、16歳でジュノンボーイに。下積み時代はアイドル俳優として奮闘

― 武田さんが芸能界に入った理由を教えてください。

少年時代にチェッカーズ・藤井尚之さんのサックスに魅了され、サックス奏者を志したのがきっかけです。80年代後半はホコ天ブーム、僕の目にはバンドマンが世の中を動かしているようにしか見えなかったので、中学・高校時代はサックスの練習とアマチュアバンド活動に明け暮れていました。16歳でジュノン・スーパーボーイ・コンテストに応募してグランプリを受賞し、17歳で芸能界入りしました。

― 芸能界に入ってすぐに俳優デビューなさいましたが、サックス奏者以外の仕事を始めることに抵抗はありませんでしたか?

もちろんありましたが、当時は芸能界に入ったら歌手や俳優としてデビューするのが当たり前という風潮があったので、そういうものなんだと思っていたし、生活のためにもやるしかないと思っていました。ただ、俳優を本業とする人たちや夢として頑張っている同世代の若者に囲まれて演技してみると、なんの知識もなくレッスンも受けていない自分の未熟さや覚悟の低さを痛感して「向いてないのかな」と落ち込むことが多かったです。幸いだったのは時代的にも若手イケメン俳優というようなカテゴリーもなく、その人口も少なかったので、俳優の仕事が途切れなかったことです。現場で揉まれながら少しずつ慣れ、数をこなすことでゆっくりとでも成長できたんだと思います。

― 「向いていない」と感じても、諦めずに続けたのですね。

地元の北海道から単身で東京に飛び出してきて、自分のバンドがあるわけでもないし、サックスでデビューするなんて夢のまた夢。ほかに何をしたらいいかもわからないし、家にいてもお腹が空くだけ。とにかく現場に行くというほかに、選択肢はなかったんです。当時の芸能界はまだ昭和の感じが残っていて、スタッフに怒鳴られたり、台本で頭を叩かれるなんて日常茶飯事でした。人格を否定されるような言葉もたくさん浴びましたよ。悔しいことばかりでしたが、若さゆえの反骨心で踏ん張っていたんだと思います。

― 手ごたえを感じるようになったのはいつごろですか?

20歳の頃、時代が平成になってしばらくして、昭和のスポ根的なノリのドラマやファッションに辟易していたのはボクだけではなかったのでしょう。それまでとは違うテイストのオシャレな学園モノのドラマの主要メンバーに抜擢され、フェミ男ブームというのが到来し突然人気者になりました。中性的でファッショナブルな男の子の代表みたいに扱われ、CM出演をするようになってから、周りの大人の態度がガラッと変わり、自分の意見が通るようになりましたね。22歳で念願のサックス奏者としてデビューし、23歳で『めちゃ×2イケてるッ!』のレギュラーになりました。

マルチタレントゆえの苦悩。ストレスで心身を病み、芸能界引退を申し出た

― 俳優、タレント、そしてサックス奏者と活動の幅を広げるなかで、どんな苦労がありましたか?

順風満帆のように見えますが、「どれも完璧にできない」ともどかしく感じていました。一方でマルチゆえの甘えもあって、タレント業や俳優業がうまくいかなくても「俺にはサックスがある」と逃げ道を作り、努力を怠ってしまって。『めちゃイケ』では命がけで笑いを取ろうとする芸人さんたちについていけず、気がつけばすっかり空気のような存在になってしまいました。
それでも常に過密スケジュールで仕事をしていたら心身が追い込まれ、25、6歳でストレス性の顎関節症になりました。長く仕事を続けるためにもどれかの仕事を休んで調整すればよかったのですが、当時だとその願いはただのわがままでしかなく、心の支えだったサックスさえ吹けなくなって完全に自信を失い、ドラマでの演技の仕事もうまくいかなくなりました。

― サックスが吹けないことで、自信を持てなくなったのですね。

初めての挫折。期待に応えられない自分に絶望して、日常生活さえままならないうつ状態になってしまいました。精神と肉体がバラバラになったような感覚で、人に会うのが怖くなって…。すさんだ生活は3年間ほど続いたでしょうか。その間、事務所に芸能界引退を何度も申し出ていました。

サックスを手に再起。筋トレで心身を鍛え『みんなで筋肉体操』で人気者に

― そこからどうやって再起したのですか?

ミュージシャン・忌野清志郎さんとの出会いがきっかけです。ある日清志郎さんのスタジオに何人かでお邪魔し、そこにあったサックスを恐る恐る吹いたら音が出たんです。それから数カ月後のクリスマス・イブにレコーディングに誘われて、清志郎さんの新しいロックプロジェクト『ラフィータフィー』のメンバーにも入れてもらい、引きこもり生活から脱却してバンドマン生活が始まりました。
それまでは演奏にしても演技にしてもいきなりセンターを任されることが多く、相談できる先輩もおらず、何もわからないまますべてが自己流でした。でもそれは柱がないまま家を建てるようなものだったから、うまくいくはずがなかったんですね。バンド活動で初めて先輩達に囲まれて、仕事への基本的な心構えや演奏知識、有効的な生活サイクルを教わり、当時清志郎さんがハマっていた自転車もバンドのメンバー全員で始めて体力も向上、あらゆる面で意識が変わりました。

― 具体的にはどんな変化が生まれましたか?

体調を整えることと、コミュニケーションをとり信頼関係を築くことの大切さに気付きました。体調を整えておくのは、なにをするうえでも大前提。「元気があればなんでもできる」って本当なんですね。コミュニケーション面では、その都度出会う仕事仲間にも興味を持って積極的に会話したり、自分の弱さをさらけだして場を和ませたりするようになりました。若いころは寡黙なほうがかっこいいと思ってコミュニケーションを疎かにしていたのですが、「沈黙は敵意」と取られることが大人になってやっとわかりました。

― 2018年にNHKの『みんなで筋肉体操』に出演なさって話題を集めましたが、筋トレは28歳ごろから続けていらっしゃると伺いました。筋トレを続ける秘訣は何でしょうか?

顎関節症で体調を崩した時、医者に「顎だけに力が入らないよう全身に筋肉をつけなさい」と言われて筋トレを始めて健康になったので…続ける秘訣を強いて言うなら、不健康な体に戻りたくないってことですね。不健康な体はネガティブな思考回路を生んで、どんどん人も離れていきます。体さえ健康ならどんなこともやり直せるし、やり続けられる。要はやり遂げられるんです。僕は、筋トレで体力や精神力が鍛えられて仕事への向き合い方も変わりましたし、その質も上がったように思っています。

紅白歌合戦で今までの集大成を披露。逃げずに続けてきたことが正解だった

― 今までで、特に達成感を得たお仕事は何ですか?

2018年のNHK紅白歌合戦出演です。天童よしみさんのステージにお邪魔することができ、タンクトップに短パン姿で腕立て伏せとサックスを披露しました(笑)パッと聞くと「なんじゃそりゃ」な演出ですが、これまで僕がやってきた音楽やバラエティ性、筋肉体操の集大成のような内容で、たくさんの方に僕らしいエンターテインメントをお届けできてうれしかったです。おかげさまで大変評判も良かったようで、2019年の紅白歌合戦にも出演でき、本当に本当に光栄でした。

― 2019年のお仕事で印象に残ったものはありますか?

夏に地上波、WebとたくさんのCMに起用していただけたことです。特に東京サマーランドとマクドナルドのCMは自分でもインパクトがあったと思っています。夏というシーズンのイメージキャラクターとして選んでいただけるのは、それだけポジティブな印象を人に与えられているんだなと。引きこもってしまっていた頃の自分からは考えられません。今までマルチに活動してきて、演技がうまくいかなければ「サックス奏者だからいいんだ」と逃げ、演奏がうまくいかなければ「バラエティタレントだからいいんだ」などと逃げたこともありましたが、結果として投げ出さずに少しずつでも向上心を持って続けてこられたことは、どれも誇りに思っていいことなんだと実感できました。

― 今後はどんなことにチャレンジしたいですか?

今までアクションの映像作品に深く挑戦していないので、アクションをやってみたいです!アラフィフの僕が頑張っているといろんな世代の方の励みになるでしょ?(笑)あと、今年はデビュー30周年記念のサックスアルバム『BREATH OF LIFE』をリリースする予定があるので、全国を回りたいですね。なにか一つを極めたほうがいいんじゃないかと迷った時期もありましたが、どれかをやったら他の経験が消えてなくなるわけじゃありませんから、これからもマルチに活動して、求められることに全力で取り組んでいきたいです。

― 最後に、武田さんが「はたらいて、笑おう。」を実感できるのはどんな瞬間でしょうか?

自分で手ごたえを感じて、まわりから拍手をもらえた時です。そんな仕事ができると、楽屋に戻ってから笑えるんですよ。とはいっても、実際にはすぐに手ごたえを感じられる仕事ばかりではないですし、この仕事って一体自分の何の役に立つんだろうと憂うつな感情と向き合っている時間のほうが長いと思います。でも、憂うつに思う仕事こそ自分がやるべき仕事だったりするわけで、憂うつさと向き合ってやり切った時は必ず笑顔になれます。
何でも器用にこなせると思われがちな僕ですが「自分には向いていない」と落ち込んだことも山ほどあります。ベストな理想を求めすぎず、ベターな現実を選択することで、人生は好転することを僕は学びました。人のせいにしたりせず、まず自分の至らなさと向き合い、失敗しても立ち止まらず前に進めば、気付いた時には望んだ通りの自分になっていたりするものですよ。

(文・秋カヲリ)

武田真治さん考案、自宅でも
元気にはたらく筋力をつける「おうちトレーニング動画」

PERSOL Work-Style AWARD 2020

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受賞を受けて

元気で健康な体さえあれば、時にうれしいサプライズが起きます。僕にとってこの賞がそうです。大切なのは、人生を長期的に考えること。自然と「今やるべきこと」が見えてきますから、それを後回しにしないで実直に取り組んでいくことで、いつか「報われた」と思う日が必ずやってきます。ポジティブな気持ちで日々努力を積み重ね、一緒に明るい日本を作っていきましょう!

武田 真治