グローバルチャレンジ部門

映像教育で途上国の学びの格差をなくす。
貧しい若者に可能性を与え、未来を共創したい

Kaito
Miwa

NPO法人 e-Education代表

三輪 開人

1986年生まれ。早稲田大学法学部在学中に、同大学の税所篤快氏とともにNGO e-Education Project(現在はNPO e-Education)を設立。大学卒業後はJICA(国際協力機構)で東南アジア・大洋州の教育案件を担当。2013年10月に退職し、e-Educationの活動に専念。2014年7月に同団体の代表理事へ就任。Forbesが選ぶアジアの若手リーダー「30 UNDER 30」選出。

途上国で教育支援をしているNPO団体「e-Education」の代表理事である三輪開人さんは、バングラデシュで友人と2人で学生起業して以来、3000本以上の映像教材を作成し、2万人を超える中高生に映像教育を届けてきました。途上国の都心部と農村部における教育格差を縮め、貧しい農村から250人以上の難関大学受験合格者を生み出すまでには、どんな努力があったのでしょうか。

途上国の若者の教育格差をなくす「映像授業」

― 現在のお仕事について教えてください。

途上国で教育支援をしている団体「e-Education」の代表を務めています。日本の予備校の映像授業のように、人気講師の映像授業をDVDにして講師不足の村の学生に届け、トップ大学合格を目指せる勉強環境を提供しています。10年前の2010年、大学生のときにバングラデシュで立ち上げました。

― バングラデシュで立ち上げた理由は何ですか?

当時、バングラデシュでバッグを作っているMotherhouseという会社の現地オフィスでインターンをしていました。その時に訪れた農村で、深夜に外で勉強している高校生に出会ったんです。「大学に入っていい仕事に就き、家族を幸せにしたいけど、予備校に行くこともできない」と街灯の明かりの下で必死に勉強する彼らを見て、どうにかしたいと思いました。
e-Educationは友人と2人で始めた活動ですが、立ち上げて半年でバングラデシュNo.1国立大学であるダッカ大学の合格者が出ました。今では貧しい農村から250人以上の難関大学受験合格者が誕生しており、他の活動国も含めて2万人以上の中高生に人気講師の映像授業を届けています。

2代目代表の苦悩。自分の選択を正解にする努力が大事

― その過程では、どんな苦労があったのでしょうか。

e-Educationは2人で起業し、1代目の代表はパートナーの税所篤快くんでしたが、彼の留学にあたり代表を引き継ぎました。2代目代表に就任してからは、経営判断に苦しみましたね。税所くんは突破力のある人で、14カ国までサービス提供を拡大したのですが、経営が厳しくなり4カ国にまで減らしたんです。選択と集中と言えば聞こえはいいものの、撤退は仲間の期待を裏切ることにもなります。別れの挨拶時に「一生、顔も見たくない」と言われたこともありました。一緒に夢を追いかけてくれた現地の仲間への申し訳なさもあり、断腸の思いでした。

― 苦しい決断をするにあたり、どうやって気持ちを整理したのでしょうか?

先輩経営者に相談したら「省くこと、削ること、そしてやめることを決断するのが経営者。そこがマネージャーとの違いだよ」と言われ、撤退の決断は自分にしかできない仕事だと腹をくくりました。当時、自分の給与はほとんどなく、前職の貯金を切り崩して生活費に充てていましたが「たとえ撤退しても、自分が諦めなければまた戻ることもできる。間違っていなかったと言えるように、自分の選択を正解にしよう」と踏ん張りました。
当時は年間の売り上げ予算が300~400万円でしたが、直近は1億円を超える組織へ成長しました。今なら「あの決断は間違っていなかった」と言えます。

― 三輪さんのように苦境を乗り越えるにはどうしたらいいでしょうか。

困難を楽しもうとすることです。たとえ才能がなくても、困難を楽しめる人はピンチをチャンスに変えられますし、世界を変えることもできます。自分がリーダーに向いているタイプだとは思いませんが、代表を引き継ぐことになったとき、チャンスと捉えて挑戦することを決めました。これは今も大事にしている考えですし、一緒にはたらいている仲間たちもよく口にする組織文化とも言える考え方です。

テロ事件がきっかけでうつ病に。自分と向き合う1カ月を経て信念を貫いた

― 1カ月間、社長業を休んだことがあると伺いました。

はい。2016年7月にバングラデシュでテロ事件が起きて、仕事ができない精神状態になってしまいました。テロが起きたのは僕が滞在していたホテルから遠くないレストランです。日本人も巻き込まれ、そのなかには僕の知り合いもいました。
e-Educationの映像教材で、2015年までに150人以上の高校生たちが難関国立大学に進学しました。当時の私は「バングラデシュの若者たちの人生を変えることができた」と誇りを持ち始めていたのですが、テロの犯人が成績の優秀な若者だと知って一気に自信を失ってしまって。治安が悪化して日本に帰国しましたが、自責の念は強くなるばかりで、悔しさや無力感が募っていき、ついにはうつ病になってしまいました。1~2カ月、笑うことすら、できなくなりました。

― かなりショックを受けられたのですね。

翌月に職場復帰したのですが、本調子ではなく「もう代表を降りよう」とさえ思いました。そうしたら、職員全員が「これから1カ月、絶対に仕事をしないでください」と休職命令を出してくれたんです。当時わずか5人の組織だったのに、僕以外の4人が僕の2カ月分の仕事をバックアップする体制を整えてくれていました。おかげで仕事を休んで自分と向き合うことができました。

― お休み中、どんなことを考えていたのですか?

経営者の自分と素の自分の間で揺れ動いていました。治安が悪いバングラデシュに注力するのは経営リスクが高く、経営者の自分は「今はバングラデシュ以外の国に注力するべきだ」と考えているのですが、素の自分はバングラデシュに一刻も早く戻って彼らの教育に貢献したい。要は、素の自分を押し殺して経営判断しているから苦しかったんです。
そう気づいて、休み明けに「バングラデシュに戻りたい」と職員に伝えたら、全員「わかってます、行ってきてください」とすぐに送り出してくれました。テロがあった次の年である2017年からバングラデシュに拠点を移しています。

― 職員の方は、三輪さんのよき理解者ですね。

ええ、みんなが僕を経営者にしてくれた気がします。経営者は育つものではなく、なっていくものかなと思います。夢も同じです。大学生が描いた夢は、創業当時「無理だ」とバカにされることも多かったですが、成果が少しずつ積み重なり、テレビや雑誌などのメディアで取り上げていただけるようになると、たくさんの人が僕らの「世界の果てまで最高の教育を」というビジョンに共感し、支援してくれるようになりました。創業者2人の夢が、みんなの夢になっているんです。

国を超え、ともに未来を作る。同情ではなく期待を胸に

― バングラデシュに戻ってから、どんな活動をしたのですか?

活動10周年を迎えた2019年に、新しいプロジェクト「LAMP」を始めました。「LAMP」は、Learn(学ぶ)・Act(行動する)・Make(作る) の3つを軸にした実践型教育プログラムで、日本・ミャンマー・バングラデシュの若者15名が、各国をともに巡ります。
バングラデシュのテロ事件や、2017年のロヒンギャ難民事件を紐解いていくと「SNSによる偏った情報過多」が途上国の若者に起きていることがわかりました。LAMPの活動では、対立するミャンマーとバングラデシュ、そして第三者の日本の若者がともに旅し、情報の偏りを分析・認識しながら、現地で事実を知り、課題を解決する方法をブログや写真、映像を通じて発信することによって、若者たちが一緒に未来を作っていきます。

― 問題の根本を解決するプロジェクトですね。これまでの10年間の想い、そしてこれからの活動について聞かせてください。

私たちは「かわいそう」という同情ではなく、「可能性がある」という期待から、この活動を続けてきました。途上国の若者は支援の対象ではなく、一緒に未来を作るパートナーです。グローバル化が進めば、ゆくゆくは彼らが日本の社会課題を解決してくれるとも思っています。いまもすでに始まっていますが、日本人が苦手な英語を彼らが教えたり、不足しているITエンジニアとして日本企業が採用したりと、できることはたくさんあります。LAMPを未来につなげるきっかけにして、新しい可能性を切り開きたいですね。

― 最後に、「はたらいて、笑おう。」を実現する秘訣を教えてください。

テロ事件のときに笑えなくなって「ひとりじゃ笑えないなあ」と痛感しました。いま、目の前が真っ暗でも、どこかしらに光る場所があると思います。ひとりで行けない場所だとしても、応援してくれる仲間がいればたどり着けます。
「はたらいて、笑おう。」を実現したければ、それに向けてみんなで進めばいいんじゃないでしょうか。無理にやろうとすると苦しくなりますが、まわりを信頼して一緒に取り組むと、悲しみは何分の一にもなり喜びは何倍にもなります。そういう仲間に恵まれた僕は幸せ者だと思いますね。

(文・秋 カヲリ 写真・北村 渉)

PERSOL Work-Style AWARD 2020

グローバルチャレンジ部門
受賞を受けて

まず受賞できて本当に光栄です。これは一度失った笑顔を取り戻してくれた仲間たちのおかげであり、今はその恩を返していきたい気持ちでいっぱいです。今、コロナウイルスの影響を受けて、人と人、国と国との繋がりが絶たれる中、世界各国の仲間たちとはたらく私たちだからこそ、できることがあると信じています。「はたらいて、笑おう。」を胸に、これからも世界に笑顔を作り続けられるよう、大好きな仲間たちと共に頑張ります。

三輪 開人

WORKS

  • 現地の仲間と共に映像教材作成

  • バングラデシュのe-Education運営大学受験予備校にて卒業生のスピーチ

  • バングラデシュ難関大学合格者と集合写真

  • バングラデシュの大学で講演

三輪 開人 (NPO法人 e-Education代表)

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