女性部門

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PERSOL Work-Style AWARD 2019

男性社会の医療現場にメスを。飽くなき挑戦で女性の悩みを解決できる社会へ

種部恭子さん(産婦人科医/富山)
富山医科薬科大学医学部(現富山大学医学部)を卒業後、同大医学部助手、済生会富山病院婦人科医長などを経て、2006年7月に女性クリニックWe!TOYAMA院長に就任。内閣府男女共同参画会議重点方針専門調査会・女性に対する暴力に関する専門調査会委員などにも就任し、生涯を通じた女性の健康に関して積極的に社会活動を行っている。

01.WorkStyle / 仕事紹介

一人ひとりの生き方を診る産婦人科で女性を笑顔に

産婦人科医の種部恭子さんは、富山市に女性医療の専門クリニック「女性クリニックWe!TOYAMA」を開き、女性の体と心と生き方を切り離さない診療を行っている。「We!TOYAMA」というクリニックの名前には「Women’s Empowerment(女性を元気づけること)」という想いが込められている。女性が主体的に真の健康を目指せるよう女性医療の専門家たちがサポートしており、予約待ちする患者も多い人気クリニックだ。

種部さんは女性をひとりの人間として診る。たとえば、一般的には摘出すべきとされる大きさの子宮筋腫があったとしても、閉経すれば治療は不要。患者が出産を考える時期はいつなのか、仕事を中断したり入院したりできる時期なのか、人生のプランを考えながら治療方針を決定する。これが女性の生き方に寄り添った診療だ。

種部さんが産婦人科医になった頃は、診療の目的は病気を治すことであり、患者の生き方までは考慮しない時代だった。「教科書通りの画一的な医療ではなく、誰もやっていない医療を実現しよう」と考え、患者の人生にも耳を傾けた。スキルを習得するためにさまざまな病院で17年間勤務し、2006年7月に満を持して開設したのが「女性クリニックWe!TOYAMA」だ。

同クリニックでは、現場で17年間ヒアリングした患者の声をもとに話しやすい雰囲気づくりを目指した。女子中高生が内診室に入ると「妊娠したのではないか」という目で見られてしまう。そこで面接室経由で内診室に入る造りにし、周囲から見られないよう配慮した。こうしたクリニックは珍しく、遠方からも多くの女性が訪れる。

「女性クリニックWe!TOYAMA」に訪れるほとんどの女性は、他の病院で受けた診療に納得できなかった女性だ。不調の原因は病気だけとは限らない。セクハラやパワハラなど精神的ストレスが影響している可能性もあり、必要に応じてカウンセリングも行っている。不妊治療だけでなく里親という選択肢を提案することもある。こうしたサポートを行うには、生き方に寄り添った診察が必要だ。種部さんは「足を運ぶのはこのクリニックを最後にしてほしい。笑顔になって帰ってくれればそれでいい」と言う。

02. Thoughts on Work / 仕事に対する想い

人前で「セックスの経験はあるか」と聞く男性医師への怒り

種部さんが産婦人科医を志した原点は、高校生の時に初めて受診した産婦人科で感じた怒りだ。当時敷居が高かった産婦人科に思い切って足を運んだが、廊下とカーテン一枚で仕切られただけの診察室で、男性医師にいきなり「セックスの経験はあるか」と聞かれた。会話の内容は周囲に筒抜けでプライバシーへの配慮は一切なく、強烈な違和感を抱いた。その時「若い女性も安心して相談できる産婦人科医になろう」と医学部への進学を決めた。

治療だけでなくカウンセリングにも注力する診療方針の「女性クリニックWe!TOYAMA」を開く際は、周囲に「外来だけではうまくいかない」と揶揄されることもあった。逆境に立っても種部さんが歩みを止めなかったのは「自分が感じた課題を抱えている人は他にもたくさんいるはずだ」と信じていたからだ。個人の問題は全体にも通じている。目の前にいるひとりの患者に向き合って悩みを解決すれば、同じ悩みを抱えている多くの人を助けることができる。「医師の一番大切な理念は困っている人を助けること」という揺るがぬ信念が、今も仕事の中核にある。

種部さんは「病気ではないから」と患者をそのまま帰すことはしない。体だけでなく心にも向き合って、DVやパワハラの被害を受けている人の支援をしたり、内閣府の専門調査会で女性活躍を推進する仕掛けをしたりと幅広く活動し、女性のケアに努めている。

03. Review of 2018 / 2018年の振り返り

舞い込むチャンスはすべて成長の種

種部さんは「ショックを受けて心が揺さぶられた時こそ人は成長する」と言う。壁を乗り越えると、今までできなかったことができるようになるのだ。壁を乗り越えるたび、さらに大きな壁を乗り越える力がつく。種部さん自身、産婦人科医になった直後の目標は「手術ができる医師になりたい」だったが、やがて「うまく手術ができる医師になりたい」になり、現在は「他の人が解決できない課題を解決したい」と大きな目標を掲げるようになった。

また、どんな時も諦めないのが種部さんの信条だ。物理的に無理な依頼以外は断らず、できるやり方を模索し続ける。舞い込むチャンスはすべて乗り越えられるものだという前提で取り組む。そうやって挑戦し続けて得た経験が次のチャンスに生きることも多い。

前例がなくとも現場で培った経験をもとに新しいやり方を提案し、上から理論で反対されても「実際に現場では困っている人がいる」と切り返す。さらに相手が反対する理由も把握し、説得する方法を考える。人でも物事でも、何かしらの障害にぶつかったら対象を知れることが重要だ。そうすれば解決策が見えてくると種部さんは語る。

諦めずに声を上げ続けると、強固な壁にも風穴が開く

2018年は東京医科大学が入試の点数を操作し、女子受験生らの合格者数を抑えていた問題が発覚し、種部さんが2017年7月に発表していた論文「女性医師を『増やさない』というガラスの天井」が注目を集めた。

以前から種部さんは「なぜ日本の医学界は海外に比べて女性の教授や学会の役員が少ないのか」と疑問を抱いていた。調べてみると、医師国家試験合格者の女性比率は増加していたものの、ある時期から軒並み30%に留まっていた。医学部を受験する女性比率は約4割にも関わらず合格者はぴったり30%のまま。文科省の公開データを解析すると、入試での女性の合格率が明らかに低く、国や医師会などの会議で「おかしい」と声を上げたが「そんな不正があるはずない」と一蹴された。

メディアにも疑問をぶつけたが、事実が明るみに出なければニュースにはならない。種部さんは「いずれニュースになるだろう」と考えて論文を執筆・公開した。常に自分の肌感覚を信じ、諦めずに行動する姿勢のあらわれだ。種部さんの予想通り、東京医科大学の入試不正が大きく取り上げられ『ガラスの天井』に初めて亀裂が入った。

「妊娠・出産によって休暇を取る女性医師が増えると男性医師の負担が増える」という意見もあるが、種部さんは「根本的な問題は医師の働き方にあり、構造そのものを変えるべき」と警鐘を鳴らす。ほとんどの医師は過労死ラインの労働を強いられており、特に産婦人科医はその傾向が顕著だ。入試不正の問題により、公明正大に「医師の過重労働が問題の背景にある」と主張できるようになった。諦めずに調べ、声を上げ続けた努力が実を結んだ年であった。

04. 2019 resolution / 2019年の抱負

政治の舞台にも活躍の場を広げ、さらなる社会貢献を目指す

2019年は県議選に出馬し、女性医療現場の実態やリアルな声を政策決定の場に届けることを目指す。若年妊娠により産婦人科に訪れる女性も多いが、その背景には貧困、女性に対する暴力、性的な搾取など根深い問題がある。貧困により進学できずに中卒で社会に出ても働き口は限られており、風俗に行きつく女性は後を絶たない。家庭に居場所がなく心の温もりを求める少女が、やさしい言葉をかける男性とSNSでつながり、性暴力を受ける。産婦人科での治療や中絶手術はできるが、その後また同じことが繰り返される様子を何度も見てきた種部さんは、病院で待っているだけでは問題を解決できないと実感した。

生活保護も十分に行き届いておらず、居場所がない人を守る保護シェルターも機能していない。「居場所がない人にも居場所を作るために政治に携わり、現状を変えたい」と出馬を決意した。種部さんは「もし当選しなくてもやり方を変えればいい」と述べる。結果が出なければ手段を変えるのみだ。

「私は自分のためでなく、人のために行動しています。産婦人科医になったばかりの頃も、下っ端の私を女性だからとわざわざ呼び止めて相談する患者さんがたくさんいました。高校生の時に産婦人科で抱いた怒りや、他の人にできない仕事をしたいという想いを胸に、たくさんの人を診てきた経験が今も私を突き動かしています」

今年、種部さんは医療から政治に舞台を変えてさらなる社会貢献を志す。

Other Winners

PERSOL Work-Style AWARD 2019 Winner

働くことそのものを輝かせ、人生を楽しむことにつなげていくために、すべての働く人を支援したい。十人十色の成長と笑顔にスポットライトを当てる。 PERSOL Work-Style AWARD 2019 受賞者たち。