ふるさと部門

HIROSHI TAMURA HIROSHI
TAMURA
PERSOL Work-Style AWARD 2019

シャッター街を空き家店舗ゼロの人気商店街に。老舗大衆割烹2代目が仕掛けた地方創生

田村寛さん(株式会社テラスオフィス代表取締役/新潟)
大学卒業後、家業を継いで老舗大衆割烹「大佐渡たむら」の2代目として厨房に立つ傍ら、沼垂の街の再生に取り組み、最初に手作り惣菜の店「ルルックキッチン」を出店。2014年、株式会社テラスオフィス設立と同時に東新潟市場協同組合からすべてのシャッター店舗を譲り受けて再生プロジェクトを始動。2015年に「沼垂テラス商店街」を誕生させ、管理・運営を担う。

01.WorkStyle / 仕事紹介

レトロな長屋を古くて新しい商店街へと一新

株式会社テラスオフィス代表取締役の田村 寛さんは、シャッター街と化していた旧沼垂市場通りを空き店舗ゼロの「沼垂テラス商店街」へと復興させた立役者だ。同地で50年以上続く料亭大衆割烹に生まれ育ったが、郊外に大型店ができたこと、また店主の高齢化が進み、店が徐々に閉まっていたことで、市場の賑わいはすっかり消えてしまった。東京の大学を卒業した後に帰郷し、空き店舗ばかりの寂れた通りを目の当たりにして大きな時代の変化を感じた。

新潟駅から徒歩20分の距離にあり、駅前とは違うゆったりとした雰囲気と昭和レトロな趣が沼垂エリアの魅力だ。「せっかくいい場所なのにこのまま廃れてしまうのはもったいない」と一念発起し、2010年に総菜店「ルルックキッチン」をオープンさせた。それがきっかけとなり、若いご夫婦が翌年、家具とコーヒーの店「ISANA」を、またその翌年に同じく若いご夫婦が陶芸工房「青人窯」をオープンさせた。その3店舗で周年イベントを開催したときにつけたイベント名が「沼垂テラス」で、それをそのまま商店街の名前とした。「まちを照らす」などの意味を込めた。
周年イベントには多くの人が訪れた。来場者に安全に楽しんでもらおうと、翌年からは道路を通行止めにして開催。せっかく通行止めにするならと里芋野菜のつかみ取りや金魚すくいなどのコーナーも設け、イベントは予想以上に年々大きくなっていった。

それをきっかけに「ここでお店を開きたい」という声が集まるようになりふるさとの街が息を吹き返すならと商店街の管理と運営を担う「株式会社テラスオフィス」を立ち上げた。2015年春にはシャッター街だった通りの空き店舗はすべて埋まり、老若男女に愛される「沼垂テラス商店街」が誕生した。

02. Thoughts on Work / 仕事に対する想い

銀行を説得し長屋を一括買い上げ。生まれ育った地域を唯一無二の場所にしたい

田村さんはこれからの未来を担う子どもたちにとってふるさと沼垂が自慢できる場所になってほしい」という想いで仕事に向き合っている。一番苦労したのは会社を興す前、3店舗が次々とオープンした後のことだ。その3店舗が新規開業したところで法律の問題に直面した。3店舗に続いて出店希望の声が次々にあったのだが、協同組合の規約上、組合員以外の出店はもうそれ以上受け入れられないと言われたのだ。

それでも出店相談が相次ぐ中、見いだしたひとつの解決策が長屋の一括買い上げ。資金面からも非常に難しい選択だったが、沼垂の将来を思うとそれが最良だと感じた。銀行に相談した当初は「こんな古い建物に価値はない」と言われたが、買い取った場合の借入額と、店舗として貸したときの賃料の回収を数字に落とし込み、事業計画を立てて銀行に持ち込んだ。リスクを感じなかったわけではなかったが、多くの出店相談や沼垂で開催したイベントに想定以上に多くの人が訪れた事実が田村さんの決断を後押しした。

沼垂テラス商店街のコンセプトは「ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間」だ。地域の魅力を最大限引き出せるよう出店者には「古い長屋の建物の雰囲気をあえて活かしてほしい」とだけ伝え、レトロモダンな趣はそのままに新しい息吹を吹き込んでいる。商店街のコンセプトや取り組みが評価され、2017年にはグッドデザイン賞を受賞した。

組織は人の掛け算。相手を許容できる器の大きさを持つ

商店街を運営していると、日常的に不測の事態が起きる。計画通りにいかないことも多いため、出店希望者は慎重に選ぶ。まず原則、事業計画書を提出してもらい、資金や採算性、営業方針などを確認。起業がはじめての場合は商工会議所や行政の窓口などを紹介し、相談するよう促す。
経営は店をオープンしてからが本番。オープンするまでは勢いで乗り越えられても、継続できずにとん挫する可能性がある。そうならないよう、時折ヒアリングなど行い状況を確認する。「この人なら」と信頼できる出店希望者に入ってもらうため、事業の持続性が高い。

田村さんは「多くの出店サポートを経て、自分の許容範囲が広くなった」と言う。日々さまざまな事態が発生する商店街運営の中で備わった変化だ。いろんな経験を積んだことでアクシデントが起きてもカバーできるだけの余裕も生まれた。

「自分と他人の違いも許容できるようになりました。自分だったら10分で終わらせる作業に相手がそれ以上に時間をかけていても、相手も十分に努力しているはず。何でも自分の基準に当てはめて考えるのは傲慢です。組織は足し算ではなく掛け算ですから、相手に無理をさせて倒れてしまったら一気にゼロになってしまうリスクがあります。商店街全体を盛り上げるために、全員が活躍できる環境づくりを目指すようになりました」

03. Review of 2018 / 2018年の振り返り

築80年の古民家を蘇らせたサテライト店舗

長屋の空き店舗が埋まり、2016年からは沼垂テラス商店街の近辺にサテライト店舗がオープンした。出店希望を叶えるために新しく取り入れた手法だ。2018年には沼垂四ツ角にサテライト第3号店「KADO shoe repair & beer stop」が登場。築80年の古民家を改装した味のある店舗で、靴の修理と国内外のクラフトビールを提供する。靴とビールの組み合わせは斬新で「こういう店舗形態もあるのか」と刺激を受けた。

店舗オープンにあたり田村さんは大家との交渉を担当し、随時話し合いの場を設けて価格の折り合いをつけた。さらに、築80年の古民家とあって耐震工事の必要があり、工事費の負担を大家に依頼した。納得して支払ってもらえるよう丁寧に説明して工事を行い、大家と出店者両方の希望を叶える見事な改修を果たした。

間に立って調整する際に重要なことは、細部まできちんと報告することだ。工事中も足しげく現場に通い、写真を撮ってオーナーに様子を伝えた。何十年も前の小火で焦げ付いた柱があり「ここは取り替えないと危険だ」と写真を見せ、補強工事も行った。こうした綿密なコミュニケーションをすると強い信頼関係が築かれる。その証拠に、田村さんはどの店舗に行っても我が家のようにくつろいだ笑顔を見せる。

04. 2019 resolution / 2019年の抱負

沼垂の知名度を上げ、堂々と自慢できる街に進化させる

2019年もサテライト店舗の拡大を目指す。とはいえ単に空き家を埋めるのではなく、大家が抱えている課題を解決し、沼垂テラス商店街の良さを表現できるサテライト店舗が理想だ。サテライト店舗はあちこちに分散させるものではなく、商店街の一店舗として広がりを持たせる役割を担う。少しでも「沼垂」の知名度やブランド力を上げるのが田村さんの目標だ。

メディアの取材依頼は積極的に受け、発信力を高めるように心がけている。どんなに忙しくてもきちんと対応すれば、街の魅力を外部に伝えるチャンスを掴める。そしてメディアと同じくらい重要視しているのが、地域の子どもたちへの対応だ。総合学習の受け入れや出張授業の依頼は断らない。子どもたちが考案したチョコバナナ味の沼垂テラス名物「沼ネコ焼」は大ヒット菓子になった。田村さんは「子どもたちがこれからの沼垂を作っていくので、少しでも自分たちの地元である沼垂を好きになってほしい」と語る。ふるさと愛が強ければ、どこに行っても「沼垂はいいところだ」と堂々自慢できる。

さらに、住める場や働く場の提供にも注力する。「新潟市内に住んでいるが、沼垂が気に入ったから近辺に住みたい、働きたい」という要望があり、地元の大学と協力して空き家調査を行うプロジェクトを考案進行中だ。地域を愛する人とともに生きる、昔ながらの新しい街を作っていく。

Other Winners

PERSOL Work-Style AWARD 2019 Winner

働くことそのものを輝かせ、
人生を楽しむことにつなげていくために、すべての働く人を支援したい。
十人十色の成長と笑顔にスポットライトを当てる。
PERSOL Work-Style AWARD 2019 受賞者たち。