匠部門

KOTARO NISHIBORI KOTARO
NISHIBORI
PERSOL Work-Style AWARD 2019

年商167万円から2億円に。斜陽産業の伝統工芸を立て直す和傘職人

西堀耕太郎さん(株式会社日吉屋 代表取締役/京都)
高校卒業後カナダに留学し、地元市役所勤務を経て老舗京和傘工房「日吉屋」の5代目を継承。和傘職人の道としてコラボ商品の開発にも取り組み、和風照明中心に海外輸出を開始。
日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援する株式会社TCI研究所を設立。ジャパンブランドの価値を紡ぐ人が集い、実践し、学び合う「JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL」のプロデューサーとして、人材育成にも注力する。

01.WorkStyle / 仕事紹介

廃業寸前の老舗和傘店を老舗ベンチャーにしてV字回復

株式会社日吉屋 代表取締役の西堀 耕太郎さんは、京都で160年続く京和傘店「日吉屋」5代目当主の和傘職人だ。年商167万円と廃業寸前だった日吉屋をV字回復させ、年商を120倍の2億円にした。

日吉屋は西堀さんの奥様のご実家で、和傘を見た瞬間に心を奪われた。当時は市役所に勤めていた西堀さんは、週末になると和歌山から京都まで片道4時間かけて傘の作り方を教わりに行った。2004年、周囲の反対を押し切って店を継ぐことを決め、インターネットを使った観光の仕事を活かしてホームページで和傘を宣伝。日吉屋は老舗から老舗ベンチャーに生まれ変わった。これが功を奏し、売り上げが1,000万円に到達したところで市役所を退職。日吉屋の仕事に専念した。

さらに飛躍的に売り上げを伸ばしたのが、和傘の技術を活かしたランプシェードの世界展開だ。毎日使えない和傘の技術を日常的に使える物へ昇華しようと考え、照明器具に目を向けた。2006年にシェードに和傘の骨組みと和紙、そして開閉構造を取り入れたペンダントライト「KOTORI(古都里)」を開発し、翌2007年にはグッドデザイン賞特別賞(中小企業庁長官賞)を受賞。照明器具はニッチな商品なので、海外市場を開拓し展開する国数を増やし、現在は日吉屋の売り上げの大半を占める主力商品になった。

日本の伝統を世界に広めた西堀さんのもとには講演依頼が次々に舞い込んだが、1時間前後では情報を伝えきれない。そこで別会社のTCI研究所を立ち上げ、時代の流れに押し潰されつつある老舗企業のコンサルティングも行うようになった。屋号の「TCI」は日吉屋の理念「伝統とは革新の連続(Tradition is Continuing Innovation)」から名付けられ、企画から販売まで約130社のトータルサポートを手掛けている。

02. Thoughts on Work / 仕事に対する想い

日本のお国自慢ができるように、伝統を進化させていく

英語塾を経営する家に生まれた西堀さんは、幼少期から英語に触れて育った。地元は合気道の発祥地で、海外から習いに来ている人も多かった。多様な生き方を目の当たりにし「良い大学に入って良い会社に行くだけが人生ではない」という価値観を培い、高校卒業後はカナダに留学。各国の学生がお国自慢をしていたが、西堀さんは日本の魅力をうまく説明できなかった。その時「日本の良さを発信したい」という想いが芽生えた。

日吉屋で和傘を目にした時、その想いに火が点いた。長い歴史を持つ日本には、世界に誇れる美しい伝統がある。「せっかくの伝統を絶やしてはいけない」と奮起し、和傘と向き合う日々が始まった。自分で和傘を使ってみると不便で日常的には使えない。それでも今まで使われ続けていたのには理由があるはずだとルーツをたどると、生活が西洋化してからは伝統芸能でしか使われなくなっていた。

そこから西堀さんは「伝統とは革新の連続」と考えるようになり、時代に合わせてイノベーションを起こし続けることを目標にした。そして試行錯誤の末に誕生したのが、和傘の仕組みを活かした照明器具「KOTORI(古都里)」だ。美しいデザインが評価され、全国から世界へと展開し、年商は2憶円にまで増えた。

学がなくても恥じはしない。現場経験が何よりもの糧になる

西堀さんは「大学には行っていないし、経営、デザイン、コンサルティングの経験もないまま日吉屋を継ぎましたが、それを恥じたことはありません」と述べる。わからないことがあれば経験者に相談してアドバイスをもらい、現場で実践しながら乗り越えてきた20年間だった。興味を持てることであればどんなに大変でも苦にならないため、臆することなく挑戦してきた。

ランプシェードを生み出してからは、現場で出会える人の層も変わった。有名ブランドの社長や人気デザイナーといっしょに仕事をすると豊かな学びを得られ、感動的な体験ができる。一方で「出会いは必然だ」とも思っており、自分が上のステージに到達したからこそ訪れたチャンスだと捉えるとさらなる成長を目指すモチベーションになる。

人との出会いを成長につなげるには、向上心を持って謙虚に接することだ。西堀さんは相手の話を聞く時、一言も聞き洩らさないように耳を澄ませる。何気ないアドバイスも必ず行動に移し、後日会った時に結果報告をする。丁寧なコミュニケーションを積み重ねながら、揺るぎない信頼関係も築いてきた。

成長の近道があるとすれば、今の仕事に誠心誠意取り組むことだ。いきなり大きな目標を立てず、少しずつ負荷を増やしながら背伸びを繰り返す。西堀さんは「失敗したって死ぬわけじゃない」と言う。

「平和な日本に生まれただけで十分に恵まれています。経営に失敗しても最悪自己破産すればいいだけ。誰だって人生は一回しかありませんから、時間は有効に使うべきです。今より少しでも上に行けるように、貪欲にチャレンジしたいですね」

03. Review of 2018 / 2018年の振り返り

継承のために必要なのは人材育成

2018年は「伝統に革新をもたらし、次代にジャパンブランドの価値を紡ぐ人が集い、実践し、学び合う場」として設立されたJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOLのプロデューサーとして、人材育成に力を入れた。

継続的に収益を生める事業の創出を目指し、日吉屋で培った新規顧客が取り込む力をメンバーにシェアしている。商品開発や海外事業に取り組み、伝統工芸を活かした照明器具をヒットさせた経験から、海外プロジェクトに携わる人に向けて実践的に学んでいただけるカリキュラムを提供した。単なるスキルの共有に留まらず、よりビジネスの幅を広げる人脈づくりにまで言及している。

少子高齢化が進む日本国内で売り上げを生み出すのは至難の業だ。今後はインバウンドかアウトバウンドかで海外からお金を得なければならない。日本が誇る伝統工芸も時代に合わせて進化させなければ衰退するばかりだ。世界でも通用するように、相手に合わせてグローバルローカライズしていく必要がある。伝統工芸で海外展開のノウハウを持っている企業はほとんどないため、西堀さんは希少な成功事例を余すことなく共有し、日本の伝統工芸の継承に寄与している。

04. 2019 resolution / 2019年の抱負

伝統品が生活になじむ風景を想い描いて

2019年は「時代に合わせてバージョンアップした和傘を生み出したい」という願望もあり、日本の伝統工芸を身近に感じられる商品開発を志す。さらに、プロデューサー事業を発展させてJAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL卒業生の支援にも注力したいと述べる。

西堀さんが老舗企業のコンサルティングを行うTCI研究所のプロジェクト「Kyoto Contemporary」では、京都の伝統工芸を世界に発信している。その成功例が西村友禅彫刻だ。友禅染の型紙の職人・西村さんが手掛けた型紙はあまりにも美しく、海外では「レジェンド」と呼ばれる。「レジェンド」という呼び名はセルフブランディングの一環で、本人独特のオーラを呼び名に反映させた。こうしたセルフブランディングも海外展開成功の秘訣。西堀さん自身も海外展開してからは長髪を一本結びにした「サムライヘア」に変え、人々の心を掴んだ。

西堀さんは、これからも海外で成功した事例を分析した理論を成功度の高いメソッドにして伝えていく。掲げる理想は「伝統が宿った品が現代の生活に溶けこみ、人の手に触れること」だ。その手から世の中へ巣立った品々は、少しずつ、しかし確実に世の中に浸透しつつある。

Other Winners

PERSOL Work-Style AWARD 2019 Winner

働くことそのものを輝かせ、人生を楽しむことにつなげていくために、すべての働く人を支援したい。十人十色の成長と笑顔にスポットライトを当てる。 PERSOL Work-Style AWARD 2019 受賞者たち。