PERSOL Work-Style AWARD 2022

ネクストジェネレーション部⾨

田中 沙弥果
斎藤 明日美

女性は理系分野に不向きという
無意識の偏見を排除し、
IT分野のジェンダーギャップ解消に
取り組む。
Profile
田中:一般社団法人Waffle Co-Founder&CEO
斎藤:一般社団法人Waffle Co-Founder

田中:2017年特定非営利活動法人みんなのコード入職。2019年IT分野のジェンダーギャップの解消を目指し、一般社団法人Waffleを設立。2021年内閣府若者円卓会議委員。

斎藤:アリゾナ大学修士修了。データサイエンティストとして外資系IT企業、AIスタートアップを経て、田中とともにWaffleを設立。日本ロレアル「女性のエンパワーメント・アドバイザリー・ボード」設立メンバー。

Interview

ジェンダーギャップ指数で先進諸国に大きく遅れをとっている日本。IT業界においてその傾向はさらに顕著で、そのような現状を打破したいと立ち上がったのが一般社団法人Waffleです。共同代表を務める田中沙弥果さんと斎藤明日美さんに、これまでの成果や手応え、そして課題解決に懸ける想いを聞きました。

01/04

アメリカで体感したテクノロジーの面白さ

— お2人の出会いはSNSなのだそうですね。

田中:そうなんです。私が2019年にWaffleの活動をはじめて、TwitterでIT分野のジェンダーギャップについていろいろと発信していたところ、ある日、斎藤からリプライをもらったのが始まりです。それからDMでやり取りするようになり、ちょうどその頃、女子中高生を100人集めたハッカソンの準備をしていたので、彼女にサポートをお願いしたんです。

斎藤:私はその時点では会社員だったので、当初はあくまでお手伝い程度のつもりでいました。ところが、それ以降たびたびWaffleのイベントなどを手伝うようになり、最初のイベントから半年後には、会社を退職してフルタイムでジョインすることになっていました。これも、もともとの志が一致していたからでしょうね。

— 田中さんがWaffleの活動を始めたきっかけは?

田中:大学時代、アメリカに留学した際に、「South by Southwest(SXSW)」というテクノロジーと映画、音楽を融合させたイベントが催されていたんです。いまでこそ当たり前ですが、これが当時は画期的で、手元のスマホでフードが注文できたり、自分が描いた絵がその場でTシャツになってプレゼントされたり、テクノロジーの面白さを身近に体感できるものでした。こんなにエキサイティングなものなら、ぜひ私もテクノロジーの面白さを感じられる世界ではたらきたいと強く思ったんです。
卒業後はテレビ番組の制作会社に就職したのですが、テクノロジーとはまったく無縁の世界で、本当にやりたかったこととはかけ離れていて。だったら自分でやってみようと、独学でプログラミングを学び、公教育向けにプログラミング教育を普及させる活動を行うNPOを経て、女子中高生向けにITやキャリア教育を行う事業を立ち上げました。

— IT分野のジェンダーギャップに課題意識を持つようになったのは?

田中:以前、ある小学校でプログラミングの出張授業を実施した際に、男女ともに興味を持って取り組んでくれている様子を見て、日本の未来は明るいと感じたことがありました。ところが、中高生向けのコンペティションやイベントになると、男女比が20:1くらいに変化してしまいます。あれほど楽しそうにコンピュータに触れていた女の子たちは、一体どこへ行ってしまったのかと疑問を持ったのがスタート地点でした。
調べてみると、OECDを対象に行われている国際学力調査では、「ICT関連の職業に就きたい」と答えている女性が、日本ではわずか3.4%であることがわかりました(※2018年)。これはOECD加盟国の中で、最下位です。同じく、理工系進学者の女性の割合も、日本は16%でやはり最下位(※2019年)。つまり、文理選択や進路選択の段階に何らかの問題があって、女性とITキャリアが結びつかずにいるのではないかと考えられます。

02/04

IT業界の魅力をもっと多くの女性に知ってほしい

— 斎藤さんは前職時代、データサイエンティストとしてはたらいていたそうですが、IT業界への心理的ハードルはとくに感じませんでしたか?

斎藤:幸い、それはなかったですね。私の場合は、アメリカの大学院でデータ分析や統計学を学んだ経験がベースになっているので、その延長で仕事を決めました。ちょうどそのころ、UberやAirbnbが台頭してくるのを見て、IT企業にかっこよさも感じていましたし、帰国後にデータサイエンティストという職業を選ぶことに迷いは一切ありませんでした。
ただ、実際にはたらき始めてみると、やはり女性の技術職が極端に少ないことが気になりました。会社に「もっと女性の技術職を増やしてください」と直談判したこともありましたが、そもそも女性の応募が少ないのでどうにもならないと言われてしまいます。こうしたジェンダーギャップは解決されるべき課題ですし、何よりITという分野の魅力を、もっと多くの女性に知ってほしいという気持ちが芽生えました。それが当時、田中のTwitterに反応したきっかけでもあります。

— ITの面白さを多くの女性に伝えるために、必要なことは何でしょうか。

斎藤:私はIT業界を選んだ側の人間なので、選ばない側の気持ちや環境が最初はわかりませんでした。しかしWaffleの活動を通して、両親や学校の先生によるアンコンシャス・バイアス(無意識な偏見)や、それによるすり込みが非常に大きいことを知りました。「女の子だから手に職をつけるなら看護師や薬剤師になりなさい」とか、「君は数学が苦手だから理系は向いていないよ」などと言われることが、自然と圧力になっているんです。だからこそ、中高生の段階からそうした固定概念を排除する必要があるわけです。

03/04

成果の一つは、「骨太の方針」に政策提言が載ったこと

— では、そうした課題を解決するために、起業というはたらき方を選んだのは?

田中:私がアメリカのイベントで体験したような、テクノロジーの魅力を発信できる会社が見つけられなかったので、自分で起業するしかなかったというのが実情です。いまはこうして私を含む2人の共同代表のほか、社会人のプロボノや学生インターンなども集まって、それぞれの得意分野を生かして不得意分野を補い合いながらやれることが、Waffleの強みになっていると思います。

— これまでの取り組みを振り返って、手応えはいかがでしょうか。

斎藤:課題はまだまだ解決されていませんが、プレイヤーは着実に増えています。コロナ禍でオンライン化が進んだことが追い風になったのか、各企業から私たちの取り組みに対する賛同の声があがっていますし、奨学金を設けるなど対策を講じる動きを見せています。共に戦う仲間が少しずつ増えてきた、という感覚ですね。

田中:また、政権が重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に、私たちをはじめとする法人が提言する、ジェンダーギャップの解消を目指す政策提言が6行にわたって記載されたことは、成果の一つです。これは本来は1行載るだけでもすごいといわれるものなので、大きな前進だと思っています。

— では逆に、ここまでに行き当たった壁や苦労は、どのようなところにありますか。

斎藤:IT分野のジェンダーギャップの、根の深さをあらためて痛感させられることは多いです。昨今のジェンダー炎上を見ていると、怒りを通り越して悲しくなってしまうことも少なくありません。まだまだ先は長いと感じています。

田中:Waffleの活動ではなく私個人のことですが、初年度はとにかくお金がなくて、心労から体調を崩したりもしました。というのも、非営利の経営に不慣れで、最初に自分の役員報酬を設定しなければいけないことを失念していたんです。おかげで1年間は無報酬で、副業をこなしながらどうにかしのぎました。

04/04

Waffleはピュアなパッションではたらく組織

— 昨今のコロナ禍は、仕事やはたらき方にどのような影響を与えていますか。

斎藤:オンラインが浸透したことで、より多くの人と対話しやすくなりました。Waffleに参加してからは、いろいろな人とコミュニケーションをとることの大切さを実感していますが、日本だけでなく海外も含めさまざまな立場の人とつながれたことで、Waffleの活動の幅が広がったのは間違いないと思います。

田中:自宅などから作業できるようになったメリットは計り知れません。体調が優れない時にはすぐ横になったりすることもできますから、リモートワークの恩恵は大きいのではないでしょうか。

— Waffleの活動のなかで、やりがいやはたらきがいをどのようなところに感じていますか。

田中:それでいうと、Waffleを成功させることこそが私自身のやりがいなので、あまり意識したことがないかもしれません。世の中を変えるために、どうやって事業を大きく育てていくか。毎日そればかり考えていて、それ自体が私のはたらくモチベーションになっています。

斎藤:私も同感で、こうした社会課題の解決を目指す会社や非営利団体というのは、一般的な私企業とはモチベーションの所在が少し異なるのかもしれません。自分たちのやりたいことが世の中を良くすることに直結するなら、それで十分という考え方ですね。その意味で、Waffleは非常にピュアなパッションで動いているともいえます。

— お2人にとっての「はたらいて、笑おう。」とは?

田中:IT分野のジェンダーギャップを解消することがWaffleの目標ですが、これは決してIT業界だけ、あるいは女性だけが生きやすい世界を目指しているわけではありません。真に目指すのは、すべての人が自分らしく生きていける世の中で、究極の目標はWaffleが存在しなくてもいい社会を実現することです。そして誰もが生き生きと笑いながらはたらいていれば、私たちも自然に笑えるのではないでしょうか。

斎藤:女性は最も人口が多いマイノリティだと思います。だからこそ、女性という属性を突破口にして、そこに人種や年齢、LGBTQ、障害者などすべてのマイノリティをインクルードすれば、いろんな立場の人にとって生きやすい世の中を作る第一歩につながるはず。そのような社会の実現に向けて、まずはIT分野のジェンダーギャップ解消に全力を尽くしたいですね。

(文・友清 哲 写真・北村 渉)

Movie
Selection

ネクストジェネレーション部⾨
受賞にあたって

選考委員・和田孝雄より

理系人材に女性が少ないということを当たり前と受け止めず、大きな課題を感じ、周囲を巻き込みながら解決のためのアクションを起こす中で、「当たり前」や「従来の価値観」といった大きな壁にぶつかることもあったでしょう。多様な個人が個性を生かして活躍するこれからの時代において、お二人の活動が大きな影響を与えると期待しています。

Comment

ネクストジェネレーション部⾨
受賞にあたって

このたびは、素晴らしい賞を賜り、ありがとうございます。ITという成長著しい分野に女性が少ないということは、日本の社会や経済活動に多様な視点が投影されず、イノベーションが起こりにくくなり、ひいては経済格差につながる一因となります。これからも、Waffleのキャッチフレーズである #ITをカラフルに という価値観が多くの方々に浸透し、次世代が「はたらいて、笑おう。」を実感できる社会になるよう励んでまいります。

田中 沙弥果 斎藤 明日美
田中:一般社団法人Waffle Co-Founder&CEO
斎藤:一般社団法人Waffle Co-Founder

Works

  • 公教育向けにIT教育の普及活動を行う田中
  • 斎藤は米国で統計を学びデータサイエンティストに
  • 女子中高生にIT・キャリア教育の機会を提供
  • 「Technovation Girls」に挑戦する全国の女子中高生
  • 積極的に政府への政策提言も行う
田中 沙弥果
斎藤 明日美
ネクストジェネレーション部⾨
田中:一般社団法人Waffle Co-Founder&CEO
斎藤:一般社団法人Waffle Co-Founder
その他の受賞者