野球選手から経営者へ。挑戦する先駆者・里崎智也氏の必勝術

2018年5月25日、スポーツビジネスについて知り、キャリアの可能性を広げるイベント『パ・リーグ キャリアフォーラム』にて、元千葉ロッテマリーンズの正捕手で、現在は野球解説者・千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーとして活躍中の里崎智也氏と、転職サービス「DODA」編集長・公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル 理事 大浦征也が対談。現役時代から数々の功績を残してきた里崎氏に、ビジネスに活きる考え方を伺った。
先駆者にはチャンスがある
大浦:里崎さんは、経営者としてもご活躍ですよね。現役中から経営者になると決めていたんですか?
里崎:いや、決めていませんでした。現役中に決めていたのは「一生分貯金する」ってことだけです。そうすれば好きなことだけやれるし、自由に暮らせるじゃないですか。平均寿命が80歳なので、80歳まで普通に暮らせるぐらい貯金しようと。貯金があるから、僕は好き勝手発言できるんですよ。仕事を失っても生きていけるんで、怖いものなしです。
大浦:とても明確な目標の立て方ですが、野球選手で引退後に里崎さんのような歩み方をしている方は少ないですよね。
里崎:僕が先駆者なんですよ。これがかえって強みになりました。僕のフィールドにお世話になった先輩がいないから、気を遣わずに自由に動けるんです。流行り言葉を使いますけど、僕が忖度する相手は僕にお金をくれる人と、その先にいる顧客だけ。ラジオでの野球解説なら、日本放送の価値を上げ、リスナーがおもしろいと感じる解説を心がけます。
トップが率先して行動するチームは強い
大浦:里崎さんのサービス精神旺盛なお人柄がよくわかります。ファンサービスにも力を入れていらっしゃいましたよね。
里崎:試合後、僕を待っているファン全員にサインと写真撮影をしてから帰っていました。分析や練習があるので、帰るのは23時過ぎになるんですが、そんな時間まで待ってくれる好意がうれしいじゃないですか。
大浦:とはいえ、多忙な野球選手がファンサービスをするのは簡単なことではありませんよね。
里崎:野球選手って時間がないんですよ。月に2日休みがあったらいい方です。試合がない日でも移動がありますし、試合前は練習やミーティングがあって、試合後はデータ収集や分析、そして練習。家に着くのは24時くらいです。ファンサービスしたくても、余裕がなければできないですよね。
大浦:どうやってファンサービスの時間を捻出していたんでしょうか?
里崎:バレンタイン監督の時はファンサービスが多かったですね。シーズン序盤は抑えて、後半にチーム力を上げていく追い込み型の戦略を立てるので、オールスターの頃までは主力選手でも休みがあって、ファンサービスに時間を充てられるんですよ。試合前に2人くらいはベンチに座ってサインをしていました。ファンサービスをする選手は練習が免除になるので、かえって楽なくらいでした。
大浦:バレンタイン監督はファンサービスを重視している方なんですね。
里崎:はい。バレンタイン監督が一番ファンサービスするんですよね。試合前にグラウンドで社交ダンスを披露したり(笑)。だから選手も「ファンサービスをするのは当たり前」という気持ちになる。チームのトップが自ら動くことで、そういう環境づくりができるんです。
大浦:リーダーが率先して行動すると、強いチームに育つというのは、まさにビジネスに通じそうですね。
夢の公言はノーリスクハイリターン
大浦:里崎さんは発言にエッジが立っていて人気がありますが、発言する時にはどんなことを意識なさっていますか?
里崎:何も考えないでポンと発言すると炎上しますから、言ってはいけないギリギリのラインを絶対に守ることです。何事にも賛否はあるので、偏った発言をする時には必ず「賛否両論あると思いますけど」っていう一文を入れています。それと現役時代「お前は自分のミスを自分で言うから卑怯や」ってよく言われていました(笑)。「あそこはストレートじゃなかったなぁ」って全員の前で言うんですよ。本人が自覚していることを言ってもおもしろくないので、自分が先に言っちゃえば周りも言及しません。完璧に理論武装してから発言しますね。
大浦:真正面からぶつかるような発言ではなく、相手の主張を踏まえた発言をすることはビジネススキルとしても有用ですね。
里崎:発言というと、有言実行も心がけてますね。実は、ずっとビジネス本を出したかったんですよ。でも、普通はプロ野球選手にビジネス本のオファーはしないじゃないですか。だから会う人会う人全員に「ビジネス本を出したい」って言い続けました。そしたらビジネス本に強い出版社を紹介してもらえて、出版できました。あの時自分から売り込んだおかげで、2冊目の話までいただいています。
大浦:確かに、日本人は不言実行がかっこいいと思いがちですよね。
里崎:絶対に言った方がいいです。公言しなければ、できなかった時にいくらでも言い訳できるから成長しないんですよ。公言して自分の逃げ道を塞ぐことで頑張れるようになるし、協力者も現れます。「もしできなかったらどうするんですか?」ってよく聞かれるんですけど、世間はそれほどあなたに興味ないですから大丈夫です(笑)。だって、そんなに周りの人に興味あります?政治家の公約だったら実行しないと追及されますけど、普通の人が何か言ったところで誰も覚えてないですよ。
大浦:その方がかえって挑戦しやすいですね。
里崎:夢の公言はノーリスクハイリターンで、達成できない時は誰も覚えてないのに、達成した時は反響がすごい。ただ、妥当な夢だとおもしろくないので、笑っちゃうくらい大きい夢がちょうどいいですね。達成後の世界が想像できないくらい大きな夢を目指してスキルを上げて、勝負できる人間になった方がおもしろいじゃないですか。僕の死ぬまでの最終目標は千葉ロッテマリーンズの社長になること。選手が監督になることはあっても、球団社長になったことはないので、史上初の快挙を成し遂げたいんです。
大浦:大ぼら吹きなんじゃないかってくらい大きい夢を言い続けた方が、実現する可能性が上がるってことですね。
里崎:言うたびに夢を再確認できますから、忘れないように何度も自分に言い聞かせながら挑戦し続けることが大切です。
失敗を恐れず、挑戦し続けた者が強くなる
里崎:僕のポリシーは牛の尻尾よりも鶏の頭になること。強いチームで補欠になるより、弱いチームの最前線に立った方がいい。弱いチームは戦力が乏しいから、自分が出るチャンスが増えるんです。勝てる確率が低くても、自分の力で強くすればいいんですよ。もちろん強いチームで活躍できるのが一番いいんですけど、僕はそこまでの能力がないので、弱いチームを強くして世界一になりました。
大浦:里崎さんはWBCでのホームランや、クライマックスシリーズでの逆転タイムリーなどが印象的ですが、ここ一番の勝負に強いですよね?
里崎:実は、ここ一番で結果出すのは簡単です。大事な局面だと日本人だろうがアメリカ人だろうが「後悔したくない」っていう深層心理が働いて、一番得意なことで勝負したがるので予測できるんですよ。失敗してもやり切ったと思えるから。
大浦:ありがとうございました。お時間もあっという間でしたが、そのままビジネスに活かせそうな話が多かったかと思います。最後に皆さんに一言いただけますか。
里崎:僕のモットーは、失敗しても「楽しかったな」と思える仕事をすること。そのためにしっかり準備をします。失敗しない人生はありませんから「あの失敗があったからこそ今日があるんだ」って笑える人生を歩んでほしいですし、反省しても後悔はしない選択をしてほしいです。一番ダメなのは挑戦しないこと。失敗してもいいから、一歩踏み出してみてください。
里崎 智也氏
1976年5月20日生まれ。徳島県鳴門市出身。
鳴門工業高から帝京大学を経て、98年のドラフト2位で千葉ロッテに入団。
2005年、10年には日本一を経験。06年、07年にはベストナインとゴールデングラブ賞を獲得。最優秀バッテリー賞にも2度選出。
また06年のWBCでは正捕手として日本を世界一に導き、WBCのベストナインにも選ばれた。08年北京五輪に出場。
14年に現役引退。通算16年プレー。現在は千葉ロッテマリーンズスペシャルアドバイザー・野球解説者。
大浦 征也氏
2002年、株式会社インテリジェンス(現社名:パーソルキャリア株式会社)入社。
人材紹介事業に従事。企業の採用支援、人事コンサルティング等を経験した後、キャリアアドバイザーに。
転職希望者のキャリアカウンセリングやサポートに長年携わり、これまでに支援した転職希望者は10,000人を超える。
2017年よりDODA編集長を務める。そのほか、社外にてJHR(一般社団法人人材産業サービス協議会)キャリアチェンジプロジェクト、ワーキングメンバーにも名を連ねる。