――今回、ワークショップを申し込まれた背景を教えてください。
6年生のキャリア教育の一環として、例年いろいろな職業の方に来ていただいて、直接お話を聞く授業はやっているんです。医師の方だったり、保育士さんだったり、ケーキ屋さんだったりですね。ただ、「そもそも“はたらく”って何?」という問いを深める前に、職業調べに入ってしまっていることが気になっていました。子どもたちは仕事の種類は理解できても、“はたらくことそのもの”
の意味には触れられないまま進んでしまいがちです。そこで、導入として「はたらくとは何か」を考える時間をつくりたいと思いました。
このワークショップは、まさにそこを考える機会になると考え、昨年度に続き今年も実施をお願いしました。
ネガティブなイメージを溶かした“リアルな大人の姿”
――ワークショップを実施して、子どもたちにはどんな変化がありましたか?
最初、子どもたちの多くは、はたらくことに対して「面倒くさそう」 「大変そう」 「お金を稼ぐこと」のように、やりたくないけれどやらなければいけない“義務”として捉えていました。
ところが、ワークショップ後には、「好きなことを仕事にしていいんだ」「はたらくって楽しそう」という風に、見ていてはっきり分かるくらい印象が変わりました。
「おとなインタビュー」で実際にはたらくパーソル社員の方にインタビューをさせていただきましたが、皆さんが本当に楽しそうに、自分の仕事の話をしてくださるんですよね。その姿が子どもたちにそのまま伝わって、「仕事って苦しいものだけじゃないんだ」「はたらくってこんなにワクワクするものなんだ」と価値観を揺さぶったんじゃないかなと感じています。
子どもたちが自然と意見を話し始める“受容”のファシリテーション
――講師の授業の進め方で印象に残った点はありますか?
まず、この授業の約束として「正解はありません」という呼びかけがあったこと印象的でした。
正解のない問いを考える時間としての場の設定がなされていたことで、子どもたちも正解探しをしなくてよくなる。さらに、講師の方の“どんな意見でも否定しない”姿勢が素晴らしかったです。
子どもが少しズレた発言をしても、「なるほどね。今の言葉にはこんな意味があるよね」と返し、そこから自然に授業のテーマにつなげてくれます。その積み重ねが、子どもたちに「自分の意見を出していいんだ」と思わせる安全な雰囲気を作ってくれていました。
グループディスカッションも多く取り入れられ、最初は固かった表情も、気づけば自然と笑顔で意見を交わすようになっていったのは、教員ではなかなかできない、プロならではのスキルだと感じました。
「今、夢がなくてもいい」子どもの肩の力がふっと抜けた“メッセージ”
――その他に印象的だった場面はありますか?
学校の教育目標には「夢や目標を持ちましょう」という言葉が入っています。もちろん大切な言葉ですが、ただ“夢を持ちなさい”と言われても、どこか他人事のままになってしまうことがあります。
そんな中、「おとなインタビュー」で、ある社員の方が、「子どもの頃、僕には夢がなかったんです」と率直に話してくださったんですね。ただその方が、本当に楽しそうにはたらくことについて話をしてくださっている姿を目の前で見て、子どもたちは「えっ、夢がなくてもこんな大人になれるの?」ととても驚いていました。
今取り組んでいることが、将来の自分につながるかもしれないことや、一歩先を見据えて行動するっていうことの大切さを伝えてくださったことが、単に「夢を持ちましょう」という言葉以上に、非常に意味のある学びになっていたように思います。
チョーク1本だけでは伝えきれない「はたらく」ということ
――「教員」という立場から、ワークショップを通じて感じられたことはありますか?
はたらくことの価値や意味、人はなぜはたらくのかといった本質的な部分を、しっかりと伝えてもらえたのは大きかったです。“はたらくことのリアル”は、教員だけでは語りえないものです。教室でチョーク一本だけではなかなか伝えきれません。
ワークショップでは、話し合い活動やグループディスカッションも取り入れながら、子どもたちの思いや意見を丁寧に引き出してくれていて、講師が一方的に話すのではなく、子どもたちの活動が多く組み込まれていたことも印象的でした。
さらに、キラキラした目で仕事の話を楽しそうにする大人の姿そのものが、子どもだけでなく教員にとっても刺激になりましたね。私たちもこういうはたらき方をしたいなと、子どもと一緒に学べる感覚がありました。
学校生活にも根付いた子どもたちの学び
――子どもたちの日常生活での変化はありましたか?
「習慣づけワーク」という授業後、「信頼貯金」という言葉がクラスに自然と浸透しました。
「今ので信頼貯金減った…?」「今日はいっぱい貯まったよ!」そんな声があちこちから聞こえます。
時間を守る、友達を思いやる、自分の行動を振り返るーーちょうど、最高学年として責任感を身につけていかなければならない重要な要素を、はたらくというテーマの中で凝縮して伝えてくださったことで、子どもたちの中で学びがしっかりと根づいていると感じています。
キャリア教育に悩む学校にこそ、体験してほしい
——最後に、他の学校や先生方へメッセージをお願いします。
先生以外の大人と接する機会があまり多くない子どもたちにとって、外部から来ていただいた大人が仕事について話してくれることは、とてもありがたいことだと感じています。
「はたらくことを考える」というテーマで教員自身が授業をしようとすると、どうしても内容が限定的になったり、硬い雰囲気になったりしてしまったりして、教員の視点だけでは限界があるように思います。
しかし、このワークショップでは、はたらくことの価値や意味について、考え、話し合い、自分の言葉でとらえ直すプロセスがきちんとつくられていました。緊張していた子どもたちが、気づけば夢中で語り合っていて、気がつくと、楽しみながら「はたらくこと」を自然に考えている。そして、「はたらくこと」についていきいきと語る大人の姿を見て、将来の自分たちの人生に希望を見出す。子どもたちだけでなく、大人の私たちも毎回楽しみに思えるので、ぜひいろんな先生方におすすめしたいと思っています。
※掲載している内容・所属は取材当時のものです。