――今回、ワークショップを導入された背景を教えてください。
本校のキャリア教育の最終的なゴールとしては、「子どもたちが自分の良さに気づくことができる」ことを掲げています。自分の良さに気づくためには、どんな大人がいて、どのように自分の良さを実感しながら生きているのかを知ることが大切だと思っていたので、そうした多様な大人の姿に触れること自体が、学びの一つになるのではないかと考えています。その中で、子どもたちにとってより効果的なカリキュラムは何かを考えたとき、キャリア学習は学校の中だけで完結するものではなく、社会との接続が重要だと考えました。将来、教員になる子どもばかりではありません。そのため、私たち教員が学校の中で提供できるキャリア教育には、どうしても限界があると感じています。学校内に閉じず、さまざまな視点、さまざまな立場の方からお話を聞くことで、子どもたちに将来について多角的に考えてもらいたいという思いがありました。
自己理解が、未来を切り拓く力になる
――「自分の良さに気づくこと」を掲げられた背景には、どのような想いがあるのでしょうか。
子どもたちは将来、自分の足で人生を進んでいくことになりますが、その時、自分の良さがわからなければ、何をしていいかも見えなくなり、内にこもってしまったり、「自分はダメだ」と感じて前に進めなくなったりすることもあります。自分が誰かの役に立っている、良さが活かされていると実感できることが、他者と関係性を築き、やりたいことに挑戦するための前提になるからこそ、自分の良さに気づくことがスタートになると考えています。実は私自身、大学4年で就職活動をしたとき、初めて「自分はどんな人間なのか、良さは何か」を問われ、とても困った経験があります。それまで十分に考えてこなかったからです。だからこそ、根本の土台づくりは大きくなってからではなく、小学生の段階から「自分の幹」を太くするように、繰り返し積み重ねていくことが必要だと感じるのです
以前、職員研修でキャリア教育を扱った際、先生方にも自分の良さや強みを書き出してもらったことがあります。しかし、多くの先生がすぐに言語化できず、言葉に詰まっていました。大人でさえそうなのだと実感し、これからのキャリア教育がより重要になると強く感じました。
社会人とのリアルな対話が、学びのスイッチを入れた
――実際にワークショップを実施されてみて、印象的だった場面はありますか?
私たち教員自身も、子どもたち自身も驚いた点として、「世の中にはこんなにも多くの仕事がある」という気づきでした。
「動機づけワーク」という最初の導入プログラムで、仕事をたくさん書き出すワークがありましたが、最初はほとんど書けなかった子どもたちが、途中で視点を提示すると、一気に多くの仕事を書けるようになったのです。その様子から、「この仕事を起点に考えると、実はこんなに多様な仕事がある」ということに気づいていったのだと思います。感想を見ても、「こういう見方で将来の夢を考えていいんだ」と書いている子どもが多く、その点がとても印象に残りました。
――子どもの皆さんの反応について印象的だった場面はありますか?
「おとなインタビュー」という現役社員の方にインタビューをする時間も、特に子どもたちが生き生きしている印象的な時間でした。最初の数分は少したどたどしさもありますが、進むにつれて、「こんなことも聞いていいんだ」と気づき、どんどん質問が活発になっていきます。普段の学習では、話の本筋から外れるのではと遠慮してしまうような質問も、社員の方々が温かく受け止めてくださるので、子どもたちも安心して質問できていました。
インタビュー後には、「あの人ってこういう人なんだ」と話題にしており、「今まで出会ってこなかったタイプの大人かもしれない」と感じている様子が見られました。特に、社員の皆さんが「今の仕事が楽しい」と生き生きと話してくださる姿を見て、子どもたちの感想には、「自信を持って話している姿が輝いて見えた」「自分も自信を持って生きていきたい」と書いている子もいました。全体として、とても前向きな変化があったと感じています。
「はたらくこと」の印象の変化が、自らの人生を歩む一歩につながる
――はたらくことに対するイメージの変化も見られましたか?
最初に書いていた「はたらく」のイメージは、「大変そう」「つらい」といったネガティブな言葉が多かったのですが、実際にやっぱりはたらいている方の姿を見たら、「あれ、なんか思ってたのと違うぞ」っていう、良い意味でのギャップがあったようでした。ワークショップ後に書いた「はたらく」のイメージを見ると、言葉の数も増え、内容も前向きなものに変化していました。イメージだけではない考えが深まり、はたらくことを多面的に捉えられるようになったのだと感じました。
――学校生活全体への変化はいかがでしょうか。
「習慣づけワーク」という、活躍する大人の習慣を学ぶワークの中で扱った「信頼貯金」の話は、特に学校生活に影響を与えたと感じています。実はワークの後、子どもたちが考えた信頼貯金の行動を担任が掲示物としてまとめ、教室に掲示しました。ワークショップ後も終わらせず、日常生活の中で意識できるようにしたのです。
その結果、子どもたちは「信頼貯金」を意識しながら生活していたように思います。担任間でも、「子どもたちが決めたことだからこそ実践しよう」という共通認識が生まれ、習慣化につながりました。
――学校生活へ接続する仕組みづくりに繋げていただいたのですね。大変嬉しいです。
進路観の変化についてはいかがでしょうか。
将来の夢を「職業名」だけで考えるのではなく、「自分が何を大事にしたいか」「どんな価値観を持っているか」という軸から考える視点に気づかされたと思います。例えば、サッカー選手になりたいという夢が叶わなかった場合、これまでは「では次は何になるか」と考え直していましたが、「サッカーが好き」×「粘り強い性格」といった自分の軸から、関われる仕事を探すという考え方もあると気づきました。
自分の良さや価値観に確信を持つことが、進路選択の土台になるという点を、ワークショップを通して実感しました。
主体性を引き出す場づくりから、教員にも新たな気づきが生まれた
――先生方自身にとっての気付きや学びはありましたか。
大人である私たち自身も、「今までこういう視点で子どもたちに考えさせてこなかったかもしれない」と気づかされました。
特に印象に残っているのは、これも「習慣づけワーク」で扱った「自分で変えられること・変えられないこと(コントロール)」の話です。無意識のうちに、大人自身も整理できていなかった部分だと感じました。
3回のワークショップを通して、「私たち大人こそ、このワークショップを受けたい」と感じるほどで、子どもたちがとても羨ましく思えました。
――ファシリテーターや運営面についての印象はいかがでしたか。
学校の教員だけでは、ここまで質の高いワークショップを行うのは難しいと感じています。
特に印象的だったのは、子どもたちのどんな考えも否定せずに受け止めてくださる姿勢です。
ワークショップ冒頭にお話しいただく「正解はない」「みんなが主役」という土壌があるからこそ、子どもたちは安心して発言でき、素朴な疑問や率直な意見も出せていたのだと思います。
正解のない問いに向き合う場を、これだけの時間と質で提供していただけたことが、子どもたちの安心感と主体性につながっていたと感じました。
キャリア教育に悩む先生方へ
——最後に、ワークショップの導入を検討されている先生方へ、メッセージをお願いします。
ワークショップを通して、普段の学習では見られない子どもたちの姿が多くありました。自分の将来や社会とつながる「本物の学び」だからこそ、子どもたちの目が輝いていたのだと思います。
2時間のワークショップの中で、子どもたちは多くの気づきや発見を得て、「自分はどうだろう」と頭をフル回転させながら考えていました。おそらく、子どもたちにとってはあっという間の、けれどとても印象に残る貴重な経験になったのだと思います。私たち自身も、もし子どもの頃にこうした経験ができていたら、もっと視野が広がっていただろうと感じます。子どもたちだけでなく、教員である私たちも得るものの多い、全員が学びの場となる本当に良いワークショップだと心から思っています。
※掲載している内容・所属は取材当時のものです。