インタビュー INTERVIEW

これまでのキャリア教育には、どこか違和感があった

インタビュー
細川 雄一先生

細川 雄一先生

三鷹市立井口小学校
導入時期25年度~
対象学生6年生
導入プログラム3Daysカスタマイズ

——今年度よりキャリア学習のカリキュラムを一新されたとのことですが、その背景を教えてください。

実は、キャリア教育自体は以前から取り組んでいました。2年前にも同じ学校で6年生を担任していて、そのときも外部の方をお招きして「職業」をテーマにした授業を行っていたんです。
ただ、今振り返ると、どうしても「仕事そのもの」に寄りすぎていたなと感じています。3学期に単発で行う形だったこともあり、「仕事内容について」の話が中心でした。
それが決して悪かったわけではありません。でも、小学校6年生の発達段階を考えると、どこか引っかかりが残っていて——。

——どんな違和感だったのでしょうか。

「これって、子どもたちの中にちゃんと残る学びになっているのかな?」という感覚です。 6年生の発達段階を考えたとき、いきなり職業や社会の仕組みを学ぶよりも、その前に「自分は何が好きなのか」といった自己理解の土台が必要なのではないかと思うようになりました。
日本の教育では、「将来どんな仕事に就きたいか」を早い段階から問われがちです。でもその結果、知らず知らずのうちに、大人の価値観——「安定している」「稼げる」「すごい仕事」といった基準を子どもに渡してしまっていることもある。
それよりも、「自分はどういう風にはたらいていきたいのか」「どう生きていきたいのか」を考えるきっかけを、もっと丁寧につくりたい。そう考えて、今年は2学期から3学期にかけて30時間分の学習を大きく組み替えることにしました。

学習の入り口に必要だったのは「ナナメの大人」との出会い

——その中で、「はたらくを考えるワークショップ」を導入された理由は?

30時間の学習をすべて教員だけで完結させるのではなく、最初の入り口に、子どもたちにとっての「ナナメの関係」の大人——親でも先生でもない存在——と出会ってもらいたいと考えていました。
そんなときに参加したある教師向けイベントで、「はたらくを考えるワークショップ」の存在を教えてもらいました。話を聞いた瞬間に、「あ、これだ」と思いました。自分がやりたいと考えていた方向性と非常に近しい内容だったからです。

100人以上の子どもを惹きつけ続けた2時間

——実際にワークショップを実施されてみて、ご印象はいかがでしたか?

今回は、キャリア・アントレプレナーシップ教育の最初の導入として実施させていただきましたが、非常に満足度の高いものでした。
2時間で100人以上の子どもたちを、最後まで飽きさせずに惹きつけ続ける。そのために、「子どもたちに委ねる時間」「体を動かしたり考えたりする活動」「話を聞く時間」このバランスが非常に緻密に設計されていました。
特に印象的だったのは、子どもたちから想定外の意見が出てきたときの関わり方です。大人の意図と違う発言が出ても、それを否定せず、「そう考えたんだね」と一度受け止めた上で、問いを返していく。その積み重ねで、子どもたち自身が考えを深めていっていました。そのファシリテーション(対話を通して学びを深める進行)の姿勢は、教員としても学ぶことが本当に多かったです。

インタビュー

ネガティブな気持ちから始めていい、という安心感

——子どもたちの反応で、印象に残っていることはありますか?

最初は、「はたらく」ということに対して、ネガティブなイメージをもっている子が多かったです。
でも、このワークショップでは、「そう思っている自分がいてもいい」「正直な気持ちを出していい」というところからスタートできました。
その気持ちをちゃんと受け止めてもらった上で、少しずつ「じゃあ、自分はどうだったら前向きにはたらけそうかな?」と考えていく流れが、とても自然でした。
最後には、「はたらく」ということがポジティブなものだという風に子どもたちの捉え方が変わっていったのを感じました。

教員も気付きや学びになる「ファシリテーションの力」

——「はたらくを考えるワークショップ」講師の関わり方で印象に残っている点はありますか?

一番は、場の空気のつくり方ですね。最初から「前向きに考えよう」「はたらくことは素晴らしい」と持っていくのではなく、子どもたちが心の中にもっている正直な気持ちを、“そのまま出して良いんだ”という空気をつくってくれました。
また、発言が得意な子だけでなく、なかなか言葉にできない子の存在もちゃんと見ていて、ワークやペアトークを通して、全員が参加できるように設計されていました。
教員として授業をしていると、どうしても「教えたい」「まとめたい」という気持ちが先に立ってしまいますが、答えを出さずに待つ。子どもを信じて委ねる。その姿勢そのものが、学びになりました。
「ティーチング」ではなく、「ファシリテーション」で学びが動くということを、目の前で体感させてもらった時間だったと思います。

保護者も、教員も「考えさせられる」時間に

——今回は公開授業でも実施されたそうですね。

はい。保護者の方にも参加していただきましたが、「むしろ私たちの方が聞き入ってしまいました」という声をたくさんいただいたんです。
また、教員としての我々も、正直、子ども以上に大人が揺さぶられていた印象があります。
このワークショップは、子どもだけのものではなく、家庭での対話や、教員自身のはたらき方の見直しにもつながっていく。そこがとても大きな価値だと感じました。

「授業」ではなく、「ワークショップ」である意味

——このワークショップの価値を、どう捉えていますか?

「はたらくを考えるワークショップ」の紹介カードの裏に書かれている「一人ひとりが主体的に生きられるとしたら、どんな未来になるんだろう?」という言葉がありますが、まさにそれを体現している時間だと思います。
これは「教える授業」ではなく、「子どもが気づくワークショップ」です。正解を渡されるのではなく、自分の中に問いが残る。その問いが、これからの学習や生活につながっていく。
しかも、公立学校にとって現実的にありがたいのが、無料で実施でき、学校の状況に合わせて柔軟にカスタマイズできることです。理念がなければ、なかなか続けられない取り組みだと思います。

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キャリア教育に悩む先生方へ

——最後に、同じように悩んでいる先生方へメッセージをお願いします。

「キャリア・アントレプレナーシップ教育をちゃんとやらなきゃ」と、先生が一人で抱え込む必要はないと思っています。
総合学習の一部として取り入れてもいいし、まずは単発で体験してみるのもいい。外部の力を借りることで、学びは確実に広がります。
そして何より、このワークショップは教員自身にとっても学びになる。
ティーチングだけでなく、子どもを信じて委ねるファシリテーションの力は、これからの教育に欠かせません。
子どもたちが「大人になるの、ちょっと楽しみかも」と思えるきっかけを、一緒につくっていけたらうれしいです。

※掲載している内容・所属は取材当時のものです。