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進出企業インタビュー
進出企業インタビュー
CANON ELECTRONIC BUSINESS MACHINES (HK) CO., LTD.
「コーチング」と「幸せ経営」の考え方を用いた
マネジメント課題解決への取り組み香港を拠点にパーソナル情報機器の開発、生産、販売を手掛けるCANON ELECTRONIC BUSINESS MACHINES (HK)。今回はPRESIDENTの鈴木勇次様に、「コーチング」と「幸せ経営」の考え方を用いたマネジメント課題解決への取り組みについて、お話を伺いました。
目次
1. 香港法⼈の事業内容とミッションについて、お聞かせください。
CANON ELECTRONIC BUSINESS MACHINES (HK) CO., LTD.
PRESIDENT 鈴木 勇次 様当社は1992年に、キヤノンの電子計算機事業を香港に移管して設立されました。現在、社員は70名ほどで、うち5名の日本人以外は香港国籍の社員で構成されています。事業としてはパーソナル情報機器の開発、生産、販売を手掛けています。
2. 事業の展開および、重点施策があれば教えてください。
当初の商品、電子計算機や電子辞書に加えて、近年では講演、会議用のプレゼンター(レーザーポインター)や、スマートフォンから簡単、かつ高画質にフォトプリントできる機器など新たな事業展開を進めています。
3. 事業を推進する上での、人事面の課題をお聞かせください。
私が香港に赴任したのは7年ほど前ですが、日本人社員は1名だけでした。スリム化を急ぎ過ぎた弊害からか、現地スタッフの中で後任が育っておらずマネジメントがうまく機能していない印象がありました。管理や指示をしていた日本人社員だけがどんどんいなくなるなかで、現地スタッフにはマネジメントやリーダシップを発揮する意欲や、会社からそれが求められていることが必ずしもきちんと理解されているとは言えないという状況でした。
4. そうした状況の中、なぜコーチングの取り組みを行われたのでしょうか。
きっかけは、グループ会社の別の地域リーダーの方に薦められて、私自身がコーチングセッションを受けたことでした。受けてみると、困難な状況の中で自分自身が何を求め、何をやりたいのか、ビジョンメイキング、選択肢が増える、行動が早く起こるというメリットがありました。人はどうしても辛い環境に身を置くと、ある種の被害者意識に苛まれたりするものですが、コーチと対話する中で、自分のありたい姿を一緒に共創してくれることで前向きになれて、目標達成に向けて大いなる力となりました。
この体験を社内にも活かせないかと考え、私がコーチになる勉強をして資格を取得して、直属の香港人の部下、部長クラスの全員(7名)に「コーチングを受けてみない?」と声をかけてみたところ、6名が興味を示してくれたのでセッションを行いました。そこでは日頃の「上司と部下」ではなく「コーチとクライアント」として、さまざまな対話を行います。よく「コーチングは質問すること」と言われますが、実際はまず「相手の話を傾聴すること、共感すること、承認すること」が大切です。好きなこと、将来の夢、家族について、昔めざしていたこと、過去にどんなメンターと出会ったかなど、業務に直接関係しない事も話すことで信頼感が生まれ、互いの価値観への共感が生まれます。その上で、この会社で自分が達成したい事、リーダーとしての目標をテーマとして扱っていきました。1回30-45分ほど、2週に1回ほどのペースでした。
コーチングを受けた社員たちはみな、私と同様に自分自身を見つめなおす効果を実感してくれたように思います。次のステップとして、外部コーチも活用して広東語でのコーチングも受講してもらいました。私の場合、彼らと英語でセッションするため、やはり言語の壁もあります。この母国語によるコーチングは、彼らに非常に好評でした。このコーチングでは、大きなテーマとして「自身のマネジメントのレベルアップ ~ from good leader to greater leader」を掲げて、まずは自身のスタイルを理解し、いいところを延ばす、改善のためのポイントを掴んでもらう、といったことを目指していました。
5. 組織の活性化にコーチングを取り入れる際、工夫されたことはございますか?
まず絶対に強制しないこと。やらされ感があると効果は出ませんし、かえって逆効果になりかねません。
薦めはするが、強制はしません。そこに互いの信頼関係がないとコーチングは意味がありません。そして外部コーチを活用したプログラムでは360度フィードバックをかけながら実施したこと。コーチングを受けて努力し自分では変わったつもりでも、本当にそうなのか自分では実感しずらい場合も多いです。周囲からどう見えているのか上司や同僚、部下から客観的なフィードバックを受け取る事は重要です。センシティブな内容が含まれる場合もあるので、そのフィードバックを「誰が言ったか」は伏せて、外部の専門家に入ってもらい安心安全な環境で行われるようにかなり配慮しました。
また、適宜振り返り会を実施しました。コーチングはそもそも自身の内面を見つめなおすパーソナルなものですが、コーチングを受けた同僚達と気づきや改善施策を共有する会を設け、各人がシェアしても良いと思う内容をシェアすることで実は各人が抱えていた課題や対応策に多くの共通点が見いだされました。
それなら一緒に解決策を考えて進めようと彼らが協力し、組織としていろんな部署で取り組み、全社的に色々な改革が一気に進むという効果が得られました。部下への権限移譲などは、一部署でやるよりも複数の部署で実施された方が、その効果は確実になります。例えば一例ですが、それまで各部門の部長、課長、担当者が全員出席していたある会議の参加者を基本的に課長と担当者もしくは担当者のみに一斉に変更することを部長同士で話し合って決めました。その結果、担当者、課長の発言の機会が増えて、とても生き生きと仕事をするようになり、部長はより重要な案件に時間を使えるようになりました。
6. コーチングの実施により、どのような効果が得られましたか?
マネージメントの観点で言うと、最大の効果は社長が言わなくても、自発的、内発的に改善への取り組みが行われるようになったことです。トップダウンで言ってやらせても、表面上はやっているように見えて実は「仏作って魂入れず」の状態になる事も時にあるように思います。
コーチングでの取り組みでは、自分達の内側からの発意でやっている事なのでそこが大きな違いと思います。
また、一見するとトップダウンの改善よりも時間がかかるように見えますが、しっかりと定着してモチベーション高く続くという点では、実は改善への近道だと思っています。7. もう一つの取り組みとして「幸せ経営(ハッピープロジェクト)」というものがあるそうですが。
これは「社員が幸せであることが組織のパフォーマンスを上げる」という視点で、社内で私と数名の部下で「ハッピーチーム」を結成して、ワークショップやWell-Beingサーベイなどを実施する取り組みです。
もともと私は、仕事は皆が楽しく前向きに取り組めるようにしたいと考えていました。意味もあまり理解できていない仕事を上から言われて強制的にやらされると辛いですが、仕事の意味を理解しそこで自分が働く意義を見出し自ら工夫して行動できるようになると人は楽しく働けるし、間違いなく生産性が上がります。そうした考えでコーチングを取り入れてきましたが、「Well-Being」「幸せ視点の経営学」などとも結びつけて、自社で「社員の幸福度を高める活動」をやりたいと考えるようになったのです。さまざまな取り組みを行う中で実施したサーベイで、私が最も嬉しかったのは「この会社を家族や友人に薦めますか?」という問いに、多くの社員が「YES」と回答してくれたことです。かなり以前に同様のサーベイを実施した際、そうした回答を寄せた社員はいなかったそうですので、取り組みの成果を実感することができました。
8. 今後の展望や目標などはございますか?
いま、部長クラスの社員から自らコーチングの資格を取りたい、という声が上がっています。次は課長クラスの希望者にコーチングプログラムをしたいからという事です。そこで自分たちがコーチをするというわけです。
これまでは外部コーチの助けも得ていましたが、今後はコーチ育成の内製化も視野に入れて進めています。コーチングマインド、対話の仕方が特別なものではなく、風土やカルチャーとしてあたりまえに定着して、それが社員の幸福度を高める成果につながれば、と考えます。組織風土を改革し、社員がより幸せになるようにと色々な活動を行ってきました。
最近ふと気づいたのは、これらは実はキヤノンの創業期から受け継がれる行動指針の原点、「自発・自治・自覚の三自の精神」ともつながっているなーということでした。取材を終えて
「私、今とても楽しいんですよ」
取材後鈴木さんが席を外された際に、同社ローカル社員の方が部屋に入ってきて笑顔でこう教えてくれました。
社員の幸福度を高める幸せ経営という考え方も、時間をかけて相手の自発的な行動を促すコーチングという手法も、いつも主役は「社員」。徹底的な社員目線で施策を取る鈴木さんのマネジメントは同社香港拠点にはまっていると言えます。
モノづくりを強みに持ち、開発・製造・販売などのグローバル化は進んだ日本ですが、人と組織という点ではまだまだ伸びしろが大きいと言えます。同社の取り組みに、人と組織のグローバル化における大事な要素を見ました。パーソルケリーコンサルティング 堀岡磨己