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進出企業インタビュー
進出企業インタビュー
Philippine Manufacturing Co. of Murata, Inc.
フィリピンのリーディングカンパニー「ムラタ」へ
現地スタッフの活躍を促す「ローカル化」を目指し、
新たな人事グランドデザインを描く村田製作所のフィリピン生産子会社Philippine Manufacturing Co. of Murata, Inc.(PMM)は、同社の主力製品であるチップ積層セラミックコンデンサMLCCの東南アジア最大の生産拠点です。GeneralAdministration GeneralManager山田幹人様とHumanResourceSection SeniorManager栗原 勝様 に、人事の取り組みについてお話を伺いました。
目次
1. フィリピンにおける事業内容、規模感についてお教えください。
自動車の電装化やスマートフォンの高機能化やIoTの普及に伴い、汎用性の高い電子部品として需要が急拡大するチップ積層セラミックコンデンサMLCCのASEANエリアの新たな生産拠点として、2013年1月から稼働しています。従業員は約2,700人でその内、日本人社員は35名ほどです。
2. 新型コロナウイルス感染拡大を受けて事業や組織マネジメント、働き方などに影響はありましたか?
家族が多い、普段からふれあいが多いフィリピンの国柄を考慮し、早急な整備が必要だと感じました。
3~4月は工場の稼働がストップし、再開するにあたって感染リスクを最大限抑えるために、工場現場での直接作業が不要なメンバーは可能な限りリモートワークを中心とした働き方に移行しました。リモートワーク可能なメンバーは週に1~2回程度の工場出勤とし、それ以外は在宅勤務としています。感染拡大が先行した中国拠点の取り組みを参考に、さらにブラッシュアップし、他の国よりも厳しめのガイドラインを設けています。工場内の人員を可能な限り減らし、また、対面でのコミュニケーションは可能な限りなくしオンラインでのコミュニケーションを強化するなど、ウィズコロナにおいても継続的に工場運営が可能な体制を整えています。
オンラインベースの業務設計になったことで発生する課題に対しては、以下の3つの分科会を設けて議論しています。
・リモートワーク環境下でも組織として成果を最大化するための仕事のマネジメントのあり方
・リモートワーク環境下でも、組織として一体感をもち、チームワークを保つための人のマネジメントのあり方
・リモートワークベースとした、情報セキュリティのあり方
これらの議論を尽くしながら、ムラタらしいニューノーマルのあり方を模索していきたいと考えています。3. 事業を推進する上での人事面の課題を教えてください。
弊社は2012年設立とまだ若い工場であり、現時点でマネージャー層は日本人が多くを占めています。日本国内工場の労働人口や土地の問題もあり、今後さらにグローバル戦略拠点としての重要性が増していく中で、中長期的に工場を運営していくためにもマネジメント層を中心とした「ローカル化」が、必要不可欠な取り組みとなります。
「ローカル化」を進める上での課題は、フィリピンにおける外資系企業である村田製作所の会社文化の中でどのように一体感を持ち、同じゴールに向けて仕事ができるか。そのためには弊社の理念(社是)にいかに共感してもらえるか、という点です。異なる文化や慣習を持つ人々が働く上で、「文化の発展に貢献する」という理念を軸足に定めることで、共通の理念のうえに従業員が同じ目標を持ち、バックグラウンドの多様性があってもお互いを認め合いながらゴールに向けて歩んでいけるようになると考えました。
そして、PMMの将来像として2030年の工場のありたい姿を「Leading Company in the Philippines」と掲げました。顧客満足、従業員満足、そして社会貢献の3つを柱に、フィリピンの中でリーディングカンパニーとなるためのグランドデザインを、日本人社員だけでなくローカル含めたプロジェクトメンバーが作成しました。このグランドデザイン達成に向けては、リーディングカンパニーにふさわしい人材の採用と教育、いわゆる「人づくり」が重要だと捉えています。4. これまで取り組んだ人事面での施策と、その成果についてお教えください。
採用に関してはこれまで近隣大学からが主であったものを見直し、首都圏の優秀な学生からも興味を持ち、入社してもらえるようなチャネル作りを進めています。加えて、事業の成長と拡大、そしてローカル化を進めるにあたってキーパーソンとなるマネージャー層や将来の部門長といったコア人材の採用にも、積極的に取り組んでいます。
人材育成にも注力しています。弊社が生産するMLCCという製品には工法、設備や材料など、非常にたくさんのノウハウがつまっており、入社してから学んでもらうべき技術がたくさんあります。2019年にはのべ500回にも上るフィリピン人従業員の海外出張を実施、日本を中心としたマザー工場から技術を学んでもらえるキャリアパスを用意しました。ムラタの社是に「技術を錬磨し」といった一言があるように、高度な技術とノウハウが必要な製品生産に携わる従業員にできるだけ長期間、共に働いていただきたいと考えています。そのためには待遇面のみならず従業員満足につながるような取り組みを積極的に実施し、将来を背負うキーマン育成につなげたいと思います。
また、2019年に1) VOICE OUT WHAT’S IN YOUR MIND 、2) TRANSPARENCY、3) RESPECT のキーワードからなる「オープン コミュニケーション コンセプト」を作成し、それに基づき施策を進めています。これは今後さらに自主性を持ち、モチベーション高く仕事をしてもらうには風通しのよい組織作りが必要、との想いから生まれました。
1) VOICE OUT WHAT’S IN YOUR MIND の取り組みとしては社長、部門長それぞれが月に1回ずつ、軽食つきの少人数座談会を実施。直接トップマネジメントがスタッフやオペレータと話をして、率直にいろんなリクエストができる機会を設けました。メンバーも最初は緊張していましたがトップが話を聞く姿勢を示したことで徐々に打ち解け、さまざまな気づきや意見交換の場として、盛り上がりを見せてきました。
2) TRANSPARENCY の取り組みとしては、会社の理念や方針の浸透です。前述のグランドデザインは全従業員に対してしっかり説明を行い、加えてビデオも作成して工場内の至る所にあるサイネージで繰り返し映しています。事業方針や賞与などの説明の際にもグランドデザインに関連付けた説明を意識し、現在ではほぼ全ての従業員が内容を認識してもらっています。従業員の一人ひとりが、遠くのゴールもちゃんと意識ができるということを大事にしています。グランドデザインは日本から訪社するマネジメント層に対しローカルのメンバーが説明する機会を設けて、オーナーシップやアカウンタビリティ意識の養成にも努めています。
3) RESPECT の取り組みとしては、日本人全員が従業員とフィリピン文化へのリスペクトを表す場として、全社でのクリスマスパーティに力を入れました。国民の大多数がクリスチャンであるフィリピンではクリスマスは特別なイベントです。パーティは「マネジメントからの感謝」をコンセプトに、日本人が開始前に集まりホストとして食事や飲み物の配布などでお出迎え、そしてパーティ終了時も最後まで残り、ありがとうと感謝を伝えました。終了後のアンケートで95%以上が満足との回答が得られるなど、思い出に残ると共に、従業員に弊社の姿勢の変化を感じてもらう転換点になったと思います。
フィリピンは関係性重視、そして集団ベースの文化だと認識しています。直接的なコミュニケーションが減ってきているニューノーマル時代においても、このような一体感を失わないよう、模索していきたいと考えています。5. 今後、取り組みを予定している人事面での施策・取り組みをお教えください。
採用や育成に注力する上で、人事戦略として従業員に求める姿をより明確にする必要性が高まり、プロジェクトを発足予定です。求める姿が言語化されれば、それが会社としてメンバーへ期待するメッセージとなりますし、その求める姿を軸としてさまざまな人事施策を行うことで、より一貫性を保った展開が可能になると考えます。
また、今後の事業を拡大していくにあたっては、ビジネス上の戦略と人事戦略を紐づけていくことが必要だと考えています。そのためにまずは「将来の幹部候補を特定する」ということがあります。前述した「Leading Company in the Philippines」を実現させるローカルリーダーを育てるべく、ASEAN全体で集めた幹部候補の中から、ローカルリーダーとなれる人を特定し、育成していきたいと考えています。6. その施策実施にあたり、フィリピンの国民性や文化などを踏まえ、何がポイントだと考えられますか?
日本、フィリピンともにハイコンテクストの国であり「言わぬが花」のコミュニケーション文化があるように思います。互いに国民性や文化などのバックグランドが大きく異なりますので、マネジメントが大切に思っていることをしっかりと言語化し、同じ夢に向かって一致団結して進めるよう、丁寧にコミュニケーションしていくことが重要であると思います。
また、村田製作所にはチャレンジを大切にする文化があります。チャレンジするためには、自律的な考えが必要です。フィリピンはヒエラルキー意識が強く、トップダウンの要素が色濃いため、上に気を遣いながら仕事をする人がやや多い印象です。ヒエラルキーの側面が強くなると、指示待ち、受け身になりがちな傾向があります。7年やってきてそれなりにベテランのポジションになっている社員もいる中、自律的にひっぱっていってくれる社員の存在が必要不可欠になっています。我々は次世代のローカルキーマンが自分の言葉で自律的に求める人材像を語ってもらいたいと考えており、そのためにはプロジェクトおよびディスカッションのタイミングからローカルメンバーに参画してもらい、自分ごととして捉えてもらえるような工夫を施していきたいと考えています。7. 今後パーソルにどのようなことを期待しますか?
パーソルとは弊社が今回、新たなグランドデザインを描き、リーディングカンパニーとしてふさわしい人材確保を目指す取り組みを通じてさらに関係性が深まりました。この地の慣習や採用に不慣れな我々に対し、日本企業特有の言語化にしにくいニュアンスをくみ取り、求める人材を的確に捉え、効果的で効率的な採用に貢献していただいています。今後もパーソルの持つネットワークやノウハウを駆使しながら、弊社の新たな採用ブランディングの構築パートナーとして共創、協業いただけることを期待しています。
取材を終えて
「文化の発展に貢献する」ために様々な事を実施されており、クリスマスパーティーなどのお話は目からうろこが落ちる思いだった。やれば良い事をしっかりとやられており、これは非常に難しい事かと思う。同社は将来「Leading Company in the Philippines」になると個人的に確信をしている。協業当初から至らない弊社に対し、仕事の説明、工場紹介など一から積極的に行ってくださり、それに甘えてしまっていたが、やっと少しお役にたてるようになっていれば誠に嬉しい限りである。これからも同社成長の為、身を粉にして貢献できればと思う。
パーソルフィリピン 田渕