中小企業こそ人材戦略に注力すべきである

変化に敏感に対応し、迅速に業務を遂行できる組織を作る方法

 

必要な人材が不足していることに起因する倒産が年々増加傾向にある。たとえ良い製品やサービス、営業力があったとしても、よい人材が揃っていなければ生き残れない時代となった。自社を経営不振から再建し、そのノウハウで750社もの企業の経営指導をしている株式会社武蔵野の小山昇氏は、「中小企業こそ人材に注力すべきである」と唱える。2021年3月1日に開催されたPERSOL CONFERENCE 2021 ONLINE のキーノートセッションでは、若い人材を採用するために必要な、変化に対応した会社の作り方など、小山氏がこれまでの経験から得た、人材戦略に関する多くの知見が披露された。

人材戦略の3本柱は「新卒採用」「社員教育」「社員定着」

1989年にダスキンのフランチャイズ事業を行う株式会社武蔵野(以下、武蔵野)の社長に就任し、当時経営不振だった同社を再建した小山 昇氏。2000年の日本経営品質賞の受賞をきっかけに、経営コンサルティング事業を発足し、全国の中小企業をサポートする活動を展開している。

小山氏は、まず人材戦略の3つの柱として「新卒採用」、「社員教育」、「社員定着」を提示した。小山氏が社長に就任してから2020年までの新卒採用者数は412名で、在職者は226名、退職率は55%だった。しかし、2017年から2019年の3年間での離職率はわずか5%に好転している。小山氏は「消費税率の引き上げや日本の人口減少など、さまざまな変化が訪れる時期は、会社を変革するチャンスだと思い、販売戦略から人材戦略に転換しました。そして、新卒採用の社員が辞めていく会社から、定着する会社に成長したのです」と、新卒採用に注力した背景を語った。

新卒採用に注力したからといって、すぐに結果を出すことは難しかった。そこで同社では専任の新卒採用担当者を配置。専任の採用担当をつけずに、内定者ケアに十分注力できず、貴重な人材が流出してしまう企業もある。小山氏は「5人以上新卒を採用する企業は、専任の採用担当者を用意するといいでしょう。しかもその担当者は企業のエースを抜擢するべきです。新人が『あの人みたいになりたい』と憧れるような人が適切です」とアドバイスした。

次に、2つ目の柱である「社員教育」については、社員一人あたりの生産性を高めるために必要だと述べた。小山氏はかつて年間300時間もの時間を使って社員教育を行い、社員から反発を受けたことがあった。しかし、この教育を受けた人材の中には、現在本部長以上の役職に就く人もいる。この経験より、お金を払ってでも社員教育を行うべきであると唱えた。

3つ目の柱である「社員定着」については、人材の流出を防ぐために必要なことは社員同士の対話であると述べる。特に上司のコミュニケーション能力の向上が非常に重要だと強調した。小山氏はかつて、管理職に部下とのコミュニケーションの取り方を教えていなかったため、新人社員が辞めていくという経験をした。以来、部下を持つ社員に対し、コミュニケーションについて具体的に指導している。それから「部下から相談されるようになりました」という声や、プライベート面でも「家庭でのコミュニケーションもよくなりました」といった声が多く聞かれるようになった。対話の促進によって、上司・部下ともに定着する土壌ができあがったのだ。

さらに小山氏は「うまくいったこと、うまくいかなかったことなどいろいろありますが、PDCAのサイクルを回してデータを取って振り返るということが大切です」と主張した。離職率5%達成の裏側には、さまざまな試行錯誤があり、現在も続いている。

新卒採用は、企業にとって最も効率のいい投資である

コロナ禍で新卒採用を控える大手企業も多い今こそ、中小企業にとっては新卒採用のチャンスであると小山氏は語る。新卒採用を重視する理由は、もっとも効率の良い投資だからだ。小山氏は、新卒採用を継続して実施し、新卒採用出身者が組織の50%を超えてくると、どこの組織にも変化が訪れるという。会社の方針を理解し、速やかに実行できる人が増えるため、それが業績に現れるのだ。

「新卒採用はどの会社も1年間かけて展開する大規模プロジェクトです。採用スタッフの人件費や各媒体の出稿費などを考慮すると、1人あたりの採用コストは数百万円にも及びます。しかし、新卒を採用し、教育をして定着させることができれば、業績は上がりますので、安いものです。弊社も売上高70億円、経常利益7億円の成果を得た年もあります。これは新卒を採用・教育していなかったら実現できていません」(小山氏)

さらに、新卒採用を毎年実施することで指導する先輩社員も育ち、組織内人材の底上げの仕組みができあがる。「たとえば、同じ大学の1年後輩が入ってくると、先輩社員は『抜かれたくない』とやる気を出し、今まで以上に業務に積極的に取り組みます」と小山氏は付け加えた。なお、新卒採用での業績向上は、武蔵野だけの話ではない。小山氏が経営指導をしている企業の状況からも、新卒採用を行っている企業は業績向上の成果が現れている。

武蔵野では、新卒社員が先輩社員の刺激になる一方で、新人をあたたかく迎えながら、メンバーの関係を強化する取り組みも行なっている。先輩社員が新人のメンターのような存在になることで、新人は上司には相談できないことを先輩に相談できる。このときの先輩と新人の組み合わせも重要で、思考特性や行動特性を考慮している。

社員のマネジメントも大きく変化した。5年ほど前までは、社員が会社に合わせていくようなマネジメントだったが、現在は、会社が社員に合わせるように変化させた。小山氏のこうした柔軟な人材戦略の裏には、状況の変化を的確に捉える仕組みが影響している。毎年小山氏は、内定者とともに過ごす時間をつくり、新しい世代と対話し、考え方を知るようになった。特に2015年頃から、人の懐に入るのがうまい、率直さが見られる一方で、ストレス耐性が弱い傾向を感じ取った。インターネットを使って何でも知ることができる環境であるため、情報を得る意欲は旺盛であるが、自分のプライバシーは大切にしたいといった特性だ。

そこで小山氏は「我が社のこれまでの考え方では、若い人たちについていけないということを教えられました。たとえば、アパレル企業でも同じようなことが言えます。我々は毎年歳をとりますが、市場には毎年1歳若いお客様が現れます。すると、どんどんジェネレーションギャップが生じてしまい、業績は上がらなくなるのです」と説明した。

 

共通の道具・言語となる「経営計画書」によって高い定着率を実現

武蔵野の社員には、会社の理念や経営方針、年度目標などを記した「経営計画書」というハンドブックが配布される。これは社員にとって業務の教科書であり、会社にとっては社員の高い定着率を実現するものである。同社ではこの経営計画書を社員に浸透させるために、毎年改訂を行っている。ハンドブックを配布するだけでは当事者意識が生まれにくいが、毎年改訂をすることで目を通す機会が増え、社員が当事者意識を持ち、その内容を自分ごととして捉えることができる。

また内定者には、経営計画書の内容を手書きで転記させ、共通の理解を促している。小山氏によると、内定者に経営計画書を渡すのは共通の理解をさせることが目的だが、内定辞退の減少にも効果があると語る。親と同居している内定者の場合、内定者の親も経営計画書を読むことで、しっかりした会社であると認識してもらえるからだ。

新卒社員を重視する姿勢は、先端ITツールなどの活用においても積極的に現れている。「新しいツールをITに強い課長や部長にまかせると、一般社員は質問がしにくいです。でも新人が担当していれば聞きやすくなります。新人も、自分の担当する業務をみんなが気にかけてくれると、やる気が高まります。若いからとためらうのではなく、まずは抜擢してから考えるというのが基本的な考えです」と小山氏は説明した。

抜擢以外にも、新卒社員の定着率を高める方策はある。給料アップや残業削減、そして有給休暇といった待遇面だ。小山氏は「今の若い人は残業を嫌がる傾向が強いです。2015年には月平均76時間あった残業時間が11時間に減りました。およそ60時間削減となりますので、280名の社員の12カ月で計算すると2億5000万円ほど抑制したことになります。これを教育研修や賞与に充てます。有給休暇の消化も5年前は2%程度と非常に悪かったのですが、今は80%です。有給は社員の権利ですが、一方で義務でもあるとはっきり言います」と述べた。このような待遇面への配慮があるからこそ、社員も義務についてしっかり理解を示すという。

なお、武蔵野では新卒採用や教育に力を入れているが、中途採用がないわけではない。小山氏は、専門性の高い分野は外部の人材に任せていると語る。なぜなら、専門性の高い分野は社員を育てるよりも、外部人材を採用する方が効果的で、コストパフォーマンスも高いからだ。また中途で採用した人材も時間をかけて企業文化を浸透させれば、管理職に登用する。社員を新卒だから、中途だからと区別はせず、成績のみで判断するようにしているからだ。

続いて、質疑応答セッションでは、参加者から寄せられた多くの質問に対し、小山氏とファシリテーターを務めたパーソルホールディングス株式会社 グループ営業本部 地方創生セクター 担当部長 市野でディスカッションがなされた。
具体的に寄せられた質問と回答は以下の通り。

質問:コロナ禍において御社で新しく取り入れたことはありますか?

「2年前までは外国人を採用していなかったのですが、今は7名います。採用するとわかるのですが、日本人では苦労しないのに、外国人は家を探すのが難しいことがわかります。このように、新しいことにチャレンジすると、私自身が学習することができます。新しいことはまずやってみて、体験してから考えるというのが基本的な考えです」

質問:若い人に合わせて、会社を変えたとのことですが、何をどんなふうに変えたのでしょうか?

「経営計画書に方針を挙げ、一つ一つ実行しています。従業員重視、働き方改革ですね。それから給与テーブルの変更、平均残業時間を10時間にする、長期有給休暇を増やす、などです」

質問:同族経営についてどのようなお考えをお持ちですか?

「社長と他の方の株の持ち方が重要です。私がサポートしている同族経営企業でうまくいっている企業は、76%以上の株を社長が持っています。このように決定権が明確な場合うまくいきます。たとえば、5人で20%ずつ持つというのは難しくなります」

質問:リーダーや管理職を選ぶ基準をお教えください。

「リーダーとしてダメな人は、いい人です。はっきりものが言えない人がリーダーだとみんなの不満の原因になり、組織が混乱します。たとえ文句でも、はっきり意思を示す人を育てたほうがいいです。それから、自分で物事を考えられる人、そしてさまざまなことに気づける人です。そうでない人がダメというわけではなく、その人が力を発揮できる場所で仕事をやってもらうのが一番です」

質問:採用のときに明確にしている基準はありますか?

「経験をもとに採用基準となるツールを作っています。何を測るかというと、嘘をついているかどうかです。たとえば、19項目ある質問シートがあるのですが、その中で同じ質問を、言葉を変えて3回出します。そこで同じ回答を得られなかったら残念ながら不採用としています」

 

質問:新卒採用でなければ駄目でしょうか?例えば異業種からの中途採用ではいけませんか?

「中途採用がいけないということはありません。採用戦略は会社の規模や社長の哲学にもよるので、これが正しいということはないのです。自身で方針を固めている社長は、思った通りやられた方がいいです。特にないけれど、なりたい姿があるという人は、それを真似してもいいでしょう。どちらも正しいです」

質問:ルールブックを作る際に、トップダウンがいいのでしょうか? ボトムアップがいいのでしょうか?

「初めて作られる場合はトップダウンが正しいです。それで社員教育で浸透させて、方向性が一つになってからボトムアップです。最初からボトムアップではみんなが好き勝手言ってまとまりません。最初はトップダウンで、それを醸成していくのです」

質問:社長は社員を叱るときに、気をつけていることは何でしょうか?

「昔は私も感情的になりました。でも、今では損得の『勘定』で考えるようになったので怒ったりしません。そこに気づいたのです。人を叱るのではなく、間違った事をその人の前で叱ります。パーソナリティではなく、ルール違反を指摘することを徹底します」

質問:社員の採用、人柄か能力どちらを重視されていますか?

「能力は訓練でどうにかなりますが、人柄はどうにもならないため採用の際は人柄を重視しています。人柄がよくない人はどんなに優秀であってもダメです」

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