【後編】KDDIが挑む人事制度変革―
〝KDDI版ジョブ型人事制度〟導入と今後

環境の激変から生まれた人事改革の鍵は、KDDIらしさとジョブ型の長所を組み合わせ、リーダーの強いメッセージと丁寧な対話にある

 

労働人口の減少、人生100年時代、DXの推進など、労働市場は大きな転換期を迎えており、新たな雇用モデルが模索されている。職務を明確にし、適所適材をベースにした「ジョブ型雇用」への関心が高まっており、採用する企業も増えている。一方で、日本の企業風土や労働環境にそぐわないという意見や、雇用不安を煽るとの指摘もある。パーソル総合研究所は、日本の産業構造・企業風土・労働慣行に即した現実的な「日本的ジョブ型雇用」を定義し、転換へのステップを検討する必要があると考え、2020年7月に『「日本的ジョブ型雇用」転換への道』プロジェクトを始動。そして、2021年2月5日に、本プロジェクト座長である、前・日本総合研究所 副理事長の湯元 健治氏と、ジョブ型をベースとした新人事制度にシフトしているKDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩 徹氏を迎え、日本的ジョブ型雇用の在り方や導入のポイントに関するオンラインセミナーを開催した。前編では、湯元氏による日本的ジョブ型雇用への提言をお伝えした。後編となる本稿では、ジョブ型をベースとした新人事制度へのシフトに踏み切ったKDDI株式会社の改革の詳細をレポートする。

 
KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩 徹氏

5Gによって変化するビジネスに対応できる人財を集め・育成

KDDI株式会社は、1984年に当時の京セラ社長、稲盛和夫氏が創業した第二電電株式会社(DDI)がルーツとなっている。2000年には、国際通信を扱うKDDと、トヨタ自動車の子会社であった移動体通信企業IDOの3社合併により、KDDIとなった。合併からこれまでの20年は移動体通信の普及を追い風に成長してきた。しかし現在は携帯電話市場も飽和し、日本の人口も減少傾向にある。そのような状況のなか、持続的成長を目指し、2020年3月期から2022年3月期の中期経営計画において人事制度の改革に挑んだ。

白岩氏は「中期経営計画において、当社の目指す姿は、お客さまに一番身近に感じてもらえる会社、ワクワクを提案し続ける会社、社会の持続的な発展に貢献する会社としています。そのベースとなる経営基盤の構築のひとつとして2020年7月31日にリリースしたのが、場所や時間にとらわれずに成果を出す働き方を実現する、KDDI版ジョブ型人事制度の導入です」と語る。

KDDIが人事制度改革を行なった背景には、同社が現在注力している5G(第5世代移動通信システム)ビジネスが密接に関わっている。アナログ音声通話から始まった移動体通信も、現在はスマートフォンでインターネットを利用できる4Gまで発展してきた。より高速な通信が可能となる5Gが普及していく中で、社会が大きく変化していくことが予想され、それを先取りする体制を整えたのだ。

「政府が提唱する、『Society5.0』では、リアル社会のフィジカル空間からデータを収集し、サイバー空間で分析・学習・予測をし、またリアル社会にフィードバックしていく、循環型ビジネスモデルが加速すると考えられています。当社ではさまざまな産業の皆さんと通信業を連携させ、ビジネスの共創を広げています。社会のデジタル変革のニーズに伴って事業領域が拡大していることから、多種多様な人財が必要であると考え、『人財ファースト企業』への変革を打ち出したのです」(白岩氏)

KDDIの事業をとりまく環境

 

地方創生、物流・交通、教育・医療、エンターテイメント、生産・販売、スマートシティなど、社員の活躍の場が広がるとともに、さまざまな業種の高い専門性を持ったプロ人財も必要となる。このため、従来の通信事業主体の人事制度を変革し、専門性の高い人財を集め・育成してくというのが狙いだ。

デジタル化が進展し仕事の質が変わるなかで、テクノロジーを駆使してイノベーションを生むのは人間の力であり、人財リソースは競争力の源泉である。一企業に就職すれば安泰という世界は幻となり、グローバル化が進んだ現在、優秀な人はGAFAに代表されるような外資系企業を目指すようになっている。そこでKDDIにおいても、高度な専門人財が魅力的に感じるような人事制度の改革に踏み切ったのだ。

プロを育み、組織を成功に導くKDDI版ジョブ型人事制度とは

KDDIの「人財ファースト」への変革は、時間や場所にとらわれず成果を出す働き方を実現する「新働き方宣言」、テレワークと出社によるハイブリッドな働き方のための「社内DX」、業務を明確化して評価する「新人事制度」を三位一体として展開される。

「新働き方宣言」とは、定時にオフィスに出社して働き、残業もして退社するという働き方ではなく、さまざまな場所で働いて生産性を高めるという理想のモデルで、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言のなか、幹部がオンライン会議で議論を行い、社員にも周知された。「社内DX」は、主に働く環境の整備だ。オフィスをハブ・サテライト・ホームに再定義するなどし、セキュリティを確保したPCを全社員に用意して、リモートアクセス・会議の環境設備を増強した。

そして、「新人事制度」が、KDDI版ジョブ型人事制度である。白岩氏は「KDDIが大切にしたいものと、専門性を活かすジョブ型の良さを取り入れた制度としました。私たちには2000年の合併から大切にしている『KDDIフィロソフィ』があります。たとえば、利他の心や謙虚さ、チャレンジ精神などで、これを制度の中に取り入れました。専門能力を極めて一匹狼になればいいというものでなく、組織を成功に導くリーダーシップやフォロワーシップを評価します。ジョブ型の良い点としては、実力主義に基づく成果報酬、スキルや職務の明確化、ジョブディスクリプションです」と説明した。

KDDIらしさとジョブ型の長所

 

新制度では、本部長・部長・グループリーダーといわれる管理職の在り方が変わった。これまでは社内での貢献度によって決定したが、新制度では「経営基幹職」となり、市場で通用する専門性を持つことが条件のひとつとなる。何らかの得意分野を持って、組織に貢献できるかどうかが問われるのだ。年齢や経験年数を問わず、実力・意欲に応じて登用される一方で、登用されたからといってその立場は恒久なわけではない。常にスキルを磨いて組織への貢献を示さなければ、入れ替わりもある。

評価制度にも変化が生じた。従来は期初に目標管理シートを書いて、半期に一度振り返るというものだったが、変化が激しくなった状況では、半年や1年の単位では途中で目標が大きく変わってしまうこともあり得る。そこで、期中に1 on 1ミーティングなどによる対話を行い、目標を柔軟に変えられるようにした。そのうえで、ゴールに至るまでのプロセスやチャレンジ行動、協働など、上司や部下、同僚などからの360度評価を加味して評価していく。細かな対話によって、上司と部下のコミュニケーションが高まり、その結果組織を強化していく効果も期待できる。

評価制度

 

自律的なキャリア形成のための成長支援も順次展開されている。キャリアの考え方やロールモデルのインタビュー、部門ごとの事業内容などを掲載するWeb上のプラットフォームとして「キャリアポータル」も準備している。これに加えてキャリアデザインのセミナーも全年代に提供し、社員が自分自身のキャリアを思い描けるようにした。そして、他者による能力評価や1 on 1ミーティングによって、なりたい姿とのギャプを知り、研修・自己啓発などの具体的なアクションにつなげていく。

多様な業務を手がけるKDDIだからできるともいえる制度が、社内・グループ内副業だ。部署を越えた業務交流によって、イノベーション創出の機会を増やす狙いがある。白岩氏は、「キャリアポータルで各部門の事業内容を見ても、実際に仕事をやってみないとわからないこともあると思います。自身の就業時間の全体の20%を最大として、副業できるようになっています。現在は社内・グループ内の業務のみですが、将来的には社外とのコラボレーションに発展できるよう、社員がプロとして成長する機会にしていきたいと思っています」と展望を述べた。

社内・グループ内副業

 

社内・グループ内副業の取り組みはすでに展開されており、例えば直販営業とコンシューマ営業が知見を共有する取り組み、新規事業実行プロセスを学んで地方創生プロジェクトに活かす取り組み、RPA化の進んでいる部門のノウハウから自部門の業務改善をするといった取り組みなどの成功事例がある。

そして、2021年4月のローンチを予定して準備が進められているのが、HRテックを活用した人財マネジメントだ。各社員の保有スキル、資格、経験、自己PRなどを保存する人財データベースを社内向けに公開し、ポストを公募する部門とインタラクティブにマッチングできる機能や、人財レビュー、キャリア開発・シフトの支援など、テクノロジーを活用して社内のネットワーキングを活性化し、労働市場を形成していく。

この他、リーダーによる組織の支援を強化するリーダー研修や、KDDIの核となるテクノロジーを活用した新規事業創出や業務改革などを主導する人財の育成を目的としたDX人財育成プログラム(KDDI DX University)、次期経営層を育てる経営塾などの活動もある。KDDI DX Universityについて白岩氏は「2023年までにDX人財を500名育成すべく展開しています。職種はDXストラテジスト、DXコンサルタント、DXテクノロジスト、DXデータサイエンティスト、DXエクスペリエンスアーキテクトの5つ。テクノロジーを活用しながら、さまざまな産業とのコラボレーションのなかで新たな事業を創出していくことを期待しています」と説明した。

制度の組織への浸透のため、一番重要なのは対話

新しい制度の施行や大きな変革において最も重要なのは社内への浸透だ。社員一人ひとりの理解を得られないことには意味がない。KDDIの社員数は、2020年3月時点で44952名(連結)。時には代表取締役社長の髙橋誠氏が自ら社員を集めて語りかけることもある。こうしたリーダーによる強いメッセージに加え、人事部門は、マネジメント層や社員、労働組合などと日々対話や質疑応答を続けている。

社内浸透

 

白岩氏は、対話による丁寧な説明が最も重要であるとし、最後に次のようにコメントした。
「当社の持っているポリシーに沿って新制度を実践し、日本の成長に貢献していくためにも、『会社も変わる、社員も変わる』というメッセージをきちんと機能させていきたいと考えています。私は、社内を走り回るようにして対話を続けています。制度理解が浸透したら、これから実践という正念場を迎えると思っています。いろいろな捉え方がある中で、対話をしている最中で現場は大変ですが、これを成し遂げていつかロールモデルとなり、みなさんにお披露目できればありがたいです」

▼講演後、参加者からの質疑応答セッションで白岩氏に寄せられた質問と回答は以下の通り。

質問:管理職の在り方が変わりました。役職の要件を満たさなくなったら、処遇が変わることも想定されるのでしょうか。

「今回の制度は全総合職に適用予定となります。1 on 1や360度評価は当然誰に対しても実施していきます。経営基幹職は、一度認定されても、環境が変わることでの入れ替わりはあり得ます。処遇もそれに準じて上がったり下がったりするでしょう。毎年ステップアップしていくという年功制はない代わりに、スタートラインも一律ではなくなりましたので、昇進スピードは格段に上がると思います」

質問:社内・グループ内副業で人気の職種とその理由をお教えください

「新規事業や地方創生に多くの人が手を挙げています。新規事業は特に若い人に人気です。我々は北海道から沖縄までIoTを使った地方創生を行っていますので、地元に貢献したいと思う方もたくさんいて、いつも10倍くらいの倍率です。人事本部では、エルダー活躍の職種があって、50歳以上の人に副業で活躍していただいています。自分のスキルを活かして新入社員向けのWebサイトを作りたいという人もいます。いろんな意味でうまく活用されていると思います」

質問:制度改革成功の鍵のひとつは社員の方の理解とのことですが、KDDIではいつぐらいからどのくらいのボリュームでコミュニケーションされてきましたか?パルスサーベイは行なっていますか?

「本部長、部長、グループリーダー、一般社員と階層別に説明をするのも一つの手でしょう。当社は本部が32ほどあり、それぞれ特徴があります。本部長から各部を支える部長などキーパーソンと対話して浸透させていくというやり方が必要だと思い、全ての本部を回っています。

パルスサーベイは以前から実施しています。それとは別に制度の説明会のあとに必ずアンケートを取っていまして、人事に届いた質問には必ず全社に公開する形で回答しています

また、東京都多摩市に人財育成のための宿泊施設である『LINK FOREST』を2020年4月に開業しました。そこで社長の髙橋をはじめ、副社長と合わせ3名が『ワクワクツアー』という、今後新人事制度が適用される社員向けの説明イベントを実施しました。オンライン・オフラインあわせて1回2000名くらいが参加するこのイベントを6回、12000名ほどに対して、トップのメッセージをダイレクトに伝えられたのはありがたかったです」

<参考>
パーソル総合研究所『「日本的ジョブ型雇用」転換への道』プロジェクト
「人と組織」のシンクタンクであるパーソル総合研究所では、日本を代表する有識者の皆様の知見を交えて、日本型雇用の現状や課題、日そしてジョブ型雇用展開のロードマップを議論。多くの企業の経営・人事、そして働く人の意思決定に役立てられる情報提供をしている。

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