【前編】日本的ジョブ型雇用転換への提言―
イノベーションを生み出す新たな雇用システムとは

日本的雇用の保つべき「強み」に加え、多様性、柔軟性、透明性を向上し、人材が更に活躍する組織へ

 

労働人口の減少、人生100年時代、DXの推進など、労働市場は大きな転換期を迎えおり、新たな雇用モデルが模索されいる。職務を明確にし、適所適材をベースにした「ジョブ型雇用」への関心が高まっており、採用する企業も増えている。一方で、日本の企業風土や労働環境にそぐわないという意見や、雇用不安を煽るとの指摘もある。パーソル総合研究所は、日本の産業構造・企業風土・労働慣行に即した現実的な「日本的ジョブ型雇用」を定義し、転換へのステップを検討する必要があると考え、2020年7月に『「日本的ジョブ型雇用」転換への道』プロジェクトを始動。そして、2021年2月5日に、本プロジェクト座長である、前・日本総合研究所 副理事長の湯元 健治氏と、ジョブ型をベースとした新人事制度にシフトしているKDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩 徹氏を迎え、日本的ジョブ型雇用の在り方や導入のポイントに関するオンラインセミナーを開催した。本稿はその前編、湯元氏による、日本的ジョブ型雇用への提言の講演をレポートする。

 
【講演者】
前・日本総合研究所 副理事長
湯元 健治 氏

ジョブ型雇用は万能薬ではなく、改革のための一つの選択肢

これまでの日本型雇用は、終身雇用、年功的な賃金制度、正社員に対する無限定の働き方を特徴としている。長期に安定した雇用・賃金を提供する代わりに、人事異動や勤務時間、働く場所について企業側に従わなければならないというものだった。しかし、近年の経済社会の環境変化に伴い、このやり方がうまく機能できなくなっている。低成長の経済の中、雇用もグローバル化し、価値観は多様化、労働力・人材不足などの課題が背景となり、環境が目まぐるしく変化、先が見えないVUCA(Volatility:変動性・不安定さ、Uncertainty:不確実性・不確定さ、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性・不明確さ)の時代とも言われている。

多くの日本企業が課題としているのが、高度な人材の採用や労働生産性の向上、総人件費の最適化、人材の多様性の確保、成果と報酬・処遇の不一致、グローバル人事ガバナンスの困難だ。そこで今非常に注目されているのがジョブ型雇用。多くの大企業でも採用が進んでいるが、湯元氏はまず、多くの人が抱くその誤解について次のように注意を促した。「ジョブ型雇用によって、すべての課題が解決するというのは誇張です。あくまでも改革の選択肢の一つであって、万能なものではありません。また、解雇が増えるという不安を抱く人もいますが、そのような法整備はされていません。ヨーロッパなどでは長期のジョブ型雇用もあります。成果による評価の仕組みと捉える人もいますが、雇用と職務を関連づけるということですので、成果主義とは別なのです」

ジョブ型雇用にまつわる誤解

 

では、ジョブ型雇用で期待されている効果はどのようなものだろう。一つはミッションや目標が明確になり、透明で公平な処遇の実現。そしても一つは戦略にあわせた適材適所の推進だ。湯元氏は「私が非常に重要だと思っているのが、市場価値に沿った賃金の設定です。これによってプロフェッショナル人材の獲得の競争力が増します。そして、国を横断した人材交流の促進を図っていくことができます。経営側からの視点では、均質性から個の自立を促す組織風土や企業文化の刷新、人材能力の最大活用、事業戦略と人事戦略の一体化、イノベーションのきっかけとなるなど、企業経営の革新が期待できます」と話した。

ジョブ型雇用の導入には、職務や責任、必要なスキルをまとめたジョブディスクリプション(職務記述書)や職務等級制度の設定が必要とされるが、形を整えるだけでは不十分だ。環境の変化は激しいため、ジョブディスクリプションの内容は一定ではなく、定期的な更新が必要となる。あまりに細かく定義してしまうと、そのメンテナンスに手間がかかってしまう。

湯元氏は「ある程度シンプルでコンパクトなものにしておかないと、更新・維持のコストが膨大になると思います。ジョブ型制度の本質とは、働く人のミッション、目標が明らかになっていることが重要です。ジョブディスクリプションとあわせて、MBO(Management by Objectives)と呼ばれる目標管理制度を機能させなければなりません。評価の公平性や納得性があることが大事です。また、ジョブ型雇用の導入目的を誤ってしまうことも注意すべきです。たとえば、人件費抑制を主な目的にしてしまうと、従業員のモラルが下がる恐れがありますし、評価方法によっては、個人主義につながってチームや組織への貢献が希薄化してしまいます」と述べた。

更新したジョブディスクリプションと個人のスキルが合わなくなったからといって、すぐさま解雇をしていいというわけではない。現在の法制上は、整理解雇の4要件である(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性があり、解雇は容易ではない。このため、円滑な契約終了の仕組みを用意しておかなければならない。たとえば、あるとき必要だった技術をもう使わなくなったとしても、本人の意欲や能力を見極めて、違う技術の職にシフトするか、転職を支援するなどだ。ジョブ型雇用への転換は、それをきっかけにした人事政策・制度の大改革となり、やり抜く覚悟が必要となる。

若手の教育や協働など日本的な良さを残したジョブ型雇用へ

湯元氏によると、欧米では高等教育・大学・大学院で職業教育がなされているという。一方、日本ではまだそのような環境が整っていない。そのため、新卒一括採用からの育成、そしてジョブローテーションにてさまざまな経験をさせ、人脈を構築するなど、従来の日本の雇用制度の良さを残したジョブ型雇用の導入が進む見込みだとした。

ジョブ型雇用は「日本的」な良さを残しながら導入が進む見込み

 

「もちろん『これが日本的なジョブ型雇用だ』というモデルは存在していません。業種や企業の規模でいろいろなモデルがありうると思っています。入社から3年〜10年ほどの若年層はこれまで通りの職能等級を適用して職務横断的な育成を実施。その後に職務等級や役割等級に移行し、中途採用はジョブ型に移行します。定年後のシニアの処遇についても、いきなり報酬が下がるのではなく、職能と成果で評価をしていくやり方が良いでしょう。ジョブディスクリプションも社内に公開しながら、本人の希望と社内公募のニーズがマッチするような流動性を確保し、公正で透明な評価制度も重要です」(湯元氏)

評価制度は、上司や人事部の主観で決められるような評価ではモチベーションを高めることはできない。ミッションや目標のあいまいさをなくし、具体的な数値目標を設定する明確性が必要だ。さらに、目標設定や評価基準、処遇体系はオープンにして制度の透明性を図ることも大事だ。そして、職務に基づく報酬は、市場の相場を参考に決定するという市場性も問われる。

評価の納得感を高める方法として湯元氏は「フィードバックやコーチング、1 on 1ミーティング、ノーレイティング(ランク付けせずに目標設定とフィードバックのなかで評価を行う)などが注目されています。決して何もしないで放っておくことはせず、こまめに対話をしていきます」と説明した。

ジョブ型制度を導入するにあたり、教育は今まで以上に重要となる。社内公募を行い、自分の希望の職種を選べる制度をつくると、自分が望むキャリアに必要なスキルを身に付けたくなるだろう。ミドルやシニア層が最新技術を学んでいく意欲にもつながるはずだ。最近では、教育だけでなく、兼業や副業を柔軟に認めることでスキルを磨くことが自社にも還元され、自律的なキャリア形成を促すことができる。副業にとどめているからこそ、重要な人材が他社に流出しないというメリットもある。

企業活力の向上のために最近注目されているのが、多様性である。湯元氏は「多様な人材・働き方を受け入れる制度がイノベーションの創出につながっていくと考えています。また、働く場所や時間の柔軟性、評価や処遇、情報の透明性の確保も人事改革には必要です」と語る。

抜本的な人事改革が不可欠

 

人制度改革成功の鍵を握る経営と人事部門の役割

ジョブ型雇用の導入は、人事政策・制度の大改革を伴う。経営陣には、改革に対する強い覚悟とコミットメント、そして改革後の明確なビジョンを示し、組織を先導していく役割が求められる。上級管理職や役員層にも方針と徹底させ、リーダーシップを発揮しながら、従業員との対話を絶やさずに、方針を浸透させることが重要だ。CHRO(人最高責任者)というポジションを作って、外部から招へいしたり、内部から抜擢して改革を推進する組織も増えている。

湯元氏は最後に、人事部門の役割について次のように語った。
「これまでの人事は、通常のオペレーション業務を推進していくのが主流でした。これからは、企業の未来がどう変わるのかを予測しながら、新しい制度や仕組みを企画立案していく、戦略を策定していく方にシフトすることが重要だと思っています。現場から信頼を得て、経営に対してさまざまな提案をしていくHRBP (HRビジネスパートナー)といった存在が求められているのです」

▼講演後、参加者からの質疑応答セッションもあった。湯元氏によせられた質問と回答は次のとおり。

質問:ジョブディスクリプションはメンテナンスを考慮し、細かすぎないようにとのアドバイスがありました。どんなサイクルで更新していけばいいでしょうか? 作る際の注意点も教えてください。

「どれだけ細かく作るか、というのは自由です。ただし、メンテナンスのコストがかかることとトレードオフになります。作り方は、シンプルに職務名、職務等級、職務概要、期待されるミッションと目標、組織との関わり方、上司・部下、責任・権限の範囲、雇用形態、勤務地、勤務時間、必要な知識・スキル・資格、待遇・福利厚生などの項目ごとに詳細を書いていきます。半年や1年に1度更新する形なら環境の変化に対応できるのではないでしょうか。目標管理シートで代替するか、目標管理シートの変更のタイミングにあわせてメンテナンスしても十分機能するでしょう」

質問:ジョブ型雇用を採用する成功の要素を3つ挙げるとすれば、どのようになりますか?

「一つ目は『人を大切にする』、二つ目は『個人の尊重』、三つ目が『個人の自立を促すこと』です。制度設計はそれぞれの企業のコンセプトでいろいろ変わりますが、制度が正しく機能するには、この三要素が必要です。ジョブディスクリプションや職務等級などの形だけにこだわりすぎると失敗に陥りやすいため注意が必要です。

導入目的も重要で、たとえば、KDDIさんの場合、『市場で通用するプロ』を育てる制度と明確に伝えていて(※詳細は後編にてご紹介)、非常にわかりやすい事例となっています。
また、透明性や柔軟性の重要さもお伝えしましたが、個人と会社の関係はこれまでと違って対等なものになっていくと思っています。情報を開示して、理解と納得感を高めていくことが重要です」

後編では、ジョブ型をベースとした新人事制度にシフトしているKDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩 徹氏の講演をレポートする。

<参考>
パーソル総合研究所『「日本的ジョブ型雇用」転換への道』プロジェクト
「人と組織」のシンクタンクであるパーソル総合研究所では、日本を代表する有識者の皆様の知見を交えて、日本型雇用の現状や課題、日そしてジョブ型雇用展開のロードマップを議論。多くの企業の経営・人事、そして働く人の意思決定に役立てられる情報提供をしている。

ジョブごとの報酬水準データ提供サービス「Salaries(サラリーズ)」
Salaries(サラリーズ)は、マーケットデータに基づいた「ジョブごとの報酬水準データ」を提供するサービスです。(「Salaries」は、「Salaries.jp」として商標出願中です)Salariesは、「doda」が蓄積してきた約100万件のデータをもとにジョブごとの報酬水準を提供します。マーケットの給与レンジを業種、職種、資本の組み合わせを変える事で、自社給与との比較や分析を多角的に行う事が可能です。

お問い合わせ

受付時間 9:00-19:00(土日祝日を除く)