伝統とイノベーションの融合をどう図るか?

グローバル・デジタル時代におけるNTTデータの人財・組織変革

 
 
株式会社NTTデータ
金融事業推進部 デジタル戦略推進企画部 部長
髭 直樹 氏

NTTデータは、1988年NTTグループのシステム会社としてスタート。2005年からグローバル化を推進し、現在グループ全体の社員数が世界で約12万人。そのうち日本人は3~4万人程度だ。約30年で企業規模が大きく拡大し、テクノロジーの進歩や社会の変化に伴い、ビジネスも変容し続けている。
エンジニアとして金融システム開発に従事した後、人事部に異動し、現在は再び金融部門に戻ったという経歴を持つ髭直樹氏が登壇。人事部時代に、育成と採用の責任者として、全社的な育成プログラムの再編や有望な人財獲得に力を尽くしてきた。当時の育成および採用の取り組み、その考え方や狙いなどを紹介した。

創発型へと変化した新しいビジネスに合わせ
世代間ギャップの解消と対応できる人材が必要

NTTデータは、元々国内市場のみでビジネスを行っていたが、2005年からグローバル化を加速させている。そのため、従来の国内だけをターゲットとしていた時期を知る50代前後の社員と比べ、若手はグローバル志向が強い。髭氏は「この世代間の考え方のギャップをどう埋めるかが、会社の課題の一つになっています」と語る。

同時に従来のビジネスは、顧客ニーズをどう実現するかを考える改善型だった。しかし、これからは顧客が何をすべきかといった上流工程からサポートする必要があり、トライ&エラーを繰り返す創発型へと変わっている。このようにビジネスが変わっていく中で、求められる人財も変化している。「従来はHowを考え、決められたQCDを守る人財が評価されてきましたが、これからはなぜそれをやるのか(Why)、そして具体的に何を実現するか(What)を考えられる人財が求められます。また、変化が起きる中で、それを受け止めて対応できる柔軟性も重要になります」(髭氏)

IT人財の不足が叫ばれる中、NTTデータとしてやるべきことは次の3つ。(1) 新人から育てる、(2)できる人を雇う、(3)今いる社員をできるように育成する、である。(1)は優秀な新人の獲得と彼らを「普通の人」にしない育成のことを指し、(3)は従来の国内だけをターゲットとしていた時期を知る社員のグローバル化や、業界で求められるスキルの変化に対応した育成のことを指す。

 

全社共通のスキルマップをもとに適切な研修の作成
スキルチェックシートは上司・部下間のコミュニケーションに活用

まず髭氏は、人財開発について説明。人事担当だった当時大切にしていたことは、次の4つである。まず1つ目は、人事として、未来のあるべき姿を主体的に考えることだ。経営層から言われたことや現場のやりたいことを受け止めるだけでなく、人事として10年後のあるべき姿を主体的に考え、そこからバックキャストしてどういう人財を採用・育成するかを考えた。2つ目は、去年もやっていたからを理由にしないということ。髭氏は、「当時、何年も同じ内容の研修が行われていました。そこで、メンバーに去年と同じことをやるにしても、なぜ同じ研修を行うのかの説明を求めるようにしました。マインドを変えるのに時間がかかりましたが、メンバーも考えるようになってくれました」と語る。3つ目は、なるべく現場に出ること。学生と直接接し、研修の際には最初にその必要性を直接話すようにした。4つ目が、ベンダーとの関係性をきちんと作ることである。「本当に心を通じ合わせて、やりたいことを共有しないといいものはできません。発注者には、やりたいことをきちんと伝える責任があります。それを行ったうえで、ベンダーの人たちと戦友と呼べるような関係性を作ることを大切にしてきました」。

さらに、全社共通の研修を作り直すことになり、各階層のスキルマップを作成した。6つのマネジメント領域と4つのビジネスリテラシーを定義し、求められるレベルを具体的な行動レベルまで明確にして開示した。研修はこのスキルマップを基に作成している。また、育成や採用担当に求められるスキルを可視化したスキルチェックシートも作成し、上司と部下の面談でのコミュニケーションツールとして活用されている。

世代間のギャップをどう融合するかについては、研修を工夫することで改善を目指した。髭氏は、「若手が研修を受ける際は上司にスキルマップに基づき点数を付けてもらって、さらにスキルを向上させ、上を目指すためには何が必要かを手紙に書いてもらいました。それを研修中に部下が読むと、普段コミュニケーションがなかなか取れない上司が実は自分のことを見てくれていることを感じ、涙する子もいます」と語る。逆に若手からは職場や上司をどう思うかというリアルな意見を吸い上げ、管理職向けのマネジメント研修でのインプットに活用した。さらに研修のアウトプットを定期的にフォローし、実践できているかを確認した。

時代の変化に合わせて、ビジネス創発などの新しい研修も開発。ビジネス創発は、受講者同士のレベルが合わないと互いの気づきが得られない。そこで、募集時に対象者のイメージを明確にするよう心掛けた。

その他、自己啓発の支援として学びの場を提供する「イブニングセミナー」、分野をまたいで育成配置し、実案件の経験を積ませて元の組織に還流させる「リスキル」などにも取り組んでいる。

人財育成に関する今後の課題として、髭氏は「一律の研修ではなく、パーソナライズされた研修が必要になってきていると感じています。また、長期間同じ職位にとどまる人への知識・スキルの最新化、社員の海外派遣にあたっての課題もあります」と話す。

 

就活期間中に関係を深め、学生の成長を促す

採用に関しては、優良な母集団の拡大と就活期間にどれだけ学生の成長を促すかに力を入れた。そのためにまず行ったのが、自社を受ける学生のタイプ分析だ。「学生をいくつかのセグメントに分け、採りたい層と採れていない層を分類し、どこにリソースを割くのかを考えました」。

また、内定者や若手社員を集めた座談会を開催。意見を聞くことで若者の気持ちを知れたのと同時に、若手社員のエンゲージメントも高まった。全国の「知るカフェ」に髭氏が直接出向いて交流会を行い、地方の学生にアプローチするためYouTubeやネットTVで情報を配信。SI会社、大企業のみ、AI分野などターゲットを明確にした自主企画の就活イベントも実施した。

ワークショップ型インターンでは、リアルな状況を設定し、気づきを得てもらうスタイルに刷新。採用を担当する管理職が4日間メイン講師を務め、NTTデータの仕事内容だけでなく、社会に出た後に求められるスキルやマインドセットについても伝えた。「学生が当社のインターンで気付きを得て学生生活に持ち帰り、行動変容を起こした上でさらにレベルアップし社会に出れば、彼らはNTTデータのお客様になります。このインターンは自社の採用のことだけでなく、日本の国力を上げることにつながると思って実施していると学生にも伝えました」(髭氏)。

さらに、インターンに来た学生に手書きのクリスマスカードを送ったり、レポートの課題を出し、提出した相手には個別にフィードバックを送ったり、様々な講演会を行ったりして関係を深めた。「気付きを与えて行動させ、フィードバックをしてまた気づきを与えるというサイクルを回し、いつもNTTデータがそばにいるという状況を目指しました」。継続的にコンタクトをとっていると、急激に成長する人と、あまり成長しない人に二極化することがわかるが、成長を続ける人財が入社後も伸びると考えている。採用における新しい取り組みとしては、海外大学に正規留学している学生向けに2019年から10月入社を開始。中途採用では市場価値の高い人を厚遇する制度もスタートした。

採用マーケティングをやって感じたこととして髭氏は、「現場はオペレーションで手一杯になるため、マーケティングの専門部隊が科学的に分析することで効果が高まります。また、学生がネットで入手できる情報をどれだけ配信しても全く響きません。むしろ離脱を誘発します。特別感のある、心に響くコンテンツが重要です」と語る。

これらの取り組みを行う中で、もちろん失敗することもあったと髭氏は語る。「海外で日本語が全く話せない外国人を採用しようとしたり、VR・ARを活用して個人の能力測定をしようとしたり、といったこともありましたが、いずれも失敗してしまいました。なぜやるのかという追求が浅いものや、それをやって次のステップをどうするのかというストーリーが緩いものはうまくいきません」と髭氏は振り返る。

NTTデータの採用や育成の部長や課長は、数年間のローテーションで変わるという特徴がある。そのため、採用や育成の方針も、そのたびに変わってしまうリスクがある。管理職が変わっても組織は残るので、管理職はその部署に入った時から異動するときのことを考え、次につないでいくことが重要となる。また、現場からのローテーションも多いため、専門性の確立も課題だ。

最後に伝えたいこととして髭氏は、「採用と育成を両方担当したことが役に立ちました。しかし、その両方を経験した社員が少なく、これをどう増やしていくかが重要です。もう一つは、社員に近い人事であるべきということです。普段から採用や研修で担当した社員との関係性を深めることで、直属の上司や組織に相談できないようなことを人事が巻き取れるようなしくみを作っておくことが重要です」と締めくくった。

 

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

お問い合わせ

受付時間 9:00-19:00(土日祝日を除く)