最新のAPAC就業意識調査から読み解くグローバル人事戦略のヒント

現地マネジメント現場から見た、進化する海外と取り残される日本人

 

APAC(アジア太平洋地域)でビジネス拡大を図っていくためには、現地の優秀な人材を採用し、持てる力を発揮してもらうことがカギとなる。そのためには、各国・地域における労働慣行や働く人の志向・特性を十分理解した上で、採用・育成戦略を練ることが必要だ。グローバル人事戦略やグローバル・リーダーの育成において、多様性を最大限に活かし組織強化を図るダイバーシティマネジメントを実現する上で、「現地」を知ることがすべてのベースとなる。
本セッションの前半では、パーソル総合研究所が実施した最新のAPAC就業実態・成長意識調査から、データに基づく外国人材の働く意識や実態を読み解き、後半では、現地マネジメント現場で、今、何が起きているのか、その真実に迫っていく。

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    株式会社パーソル総合研究所
    研究員
    高月 和子 氏
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    パーソルケリーコンサルティング 木下 毅 氏

最新のAPAC就業実態・成長意識調査から
読み解くグローバル人事戦略のヒント

「ILO(国際労働機関)や各国政府による労働統計として、労働力人口や失業率、賃金、労働時間などの統計データは数多く存在します。しかし、外国人材を採用し定着を図り、高いパフォーマンスを発揮してもらうためには、外国人材の実態や考え方を知り、会社としてマネジメントのノウハウを蓄積していくことが必要です」と、パーソル総合研究所 高月和子は指摘する。

パーソル総合研究所では、APACの14カ国・地域で働く人たちの仕事に対する意識、上司のマネジメント行動、転職状況、働くことを通じた成長などを明らかにするべく、インターネット調査を実施。調査結果から見えてきた傾向やポイントについて高月が解説した。

APACの14カ国・地域で働く人たちの
仕事に対する意識調査結果とその考察

「勤務先の組織文化」の特徴は?

14カ国・地域全体では「チームとしてひとつにまとまる」「一致団結して目標に向かっていく雰囲気」が上位に入った。エリア別の傾向として、東アジアでは「和を重視し、上に従い波風立てない」傾向が強く、組織の秩序を重んじる傾向が見られる。東南アジアでは「独自性を活かした柔軟な発想や創意工夫を求める」傾向も見られる。

「組織文化は明文化されていないものが多いため、外国人材が理解するのは難しく、上手く適応できない期間が長びくと離職する可能性が高まります。そこで大切なのは、現場で共に働く職員やマネジメントが外国人材を受け入れる環境を整え、組織としてサポートする体制をつくり、ノウハウを蓄積していくことです」。

「上司のマネジメント」の特徴は?

14カ国・地域全体では「責任ある役割の付与・任命」、「良い仕事に対する称賛」、「スムーズな業務進捗への支援」が上位3位を占めた。エリア別の傾向として、東アジアでは褒め方や叱り方、ねぎらい方など情緒面に配慮するマネジメント行動が多く、東南アジアや南アジアでは「スキルや能力が身につく仕事の付与・任命」や「ビジョンや方向性の明示」など魅力ある仕事やビジョンを提示する傾向が見られる。

「多様なバックグラウンドを持つ外国人材をマネジメントするのは一筋縄ではいきません。マネジメントが上手くいっていない場合は、『その国で受け入れられているマネジメントの傾向』を知り、これまでのスタイルに固執せずに調整していくことも突破口の1つになるかもしれません」。

「どのようなことに成長を感じるか?」

「給与・報酬があがること」が13カ国・地域で1位であった。次いで「新しい知識や経験を得ること」、「どこでも通用するスキルや技術が身に付くこと」などの回答が多くの国・地域で上位に入った。

「働く人たちがどこに自身の成長を感じるか。面談や日頃のコミュニケーションを通して上司や仲間と共有できていれば、そこで働く人は安心感を持つでしょう。また採用の段階で、スキルアップや技術が身につくことを応募者にアピールできれば人材獲得にも効果的だと考えます」。

「個人の仕事に対する考え方について」

「出世したい」など上昇志向が強かったのは東南アジアとインドで、日本は14カ国・地域の中で最も低い結果となった。「年下や女性の上司」、「外国人」と働くといった多様性への受容度は、ベトナム、タイ、フィリピン、ニュージーランドで高く、日本や韓国では低かった。また東南アジアやオセアニアは「仕事を選ぶときに会社の規模や知名度は関係ない」との回答が高い割合を占めた。

「職場における多様性への受容度は、多様な人種、宗教、価値観を持つ人々が暮らす国で高い傾向が見られます。日本や韓国が低い傾向にあるのは、年功序列や男性中心社会であることが影響している可能性が大きいと考えます」。

「転職」に関する意識について

「現在の勤務先で継続して働きたい」割合は、中国とインドは8割以上、日本は5割程度だった。「他の会社に転職したい」割合はインドの52.4%が最も高く、中国、ベトナム、シンガポールが40%以上、日本は最も低い25.1%だった。また「転職した理由」は、各国共通で「給与に不満がある」が1位だった。エリア別では、東アジアは「会社や業界の先行きが不安」、東南アジアやインドは「幅広い経験・知識を積みたい」「専門知識や技術を習得したい」などが上位に入った。

「日本の就労者は、現在の勤務先で長く働き続けたいと思っていないが、積極的に転職も考えていないという実態が見えてきました。また外国人材をマネジメントする上で、給与は重要な要素であることを改めて認識することが必要です。さらに優秀な人材に定着してもらうためには、知識や経験を積めることも重要なポイントとなります」と締めくくった。

 

外国人に日本の当たり前を当てはめない。
マインドセットの変更が必要

今回の調査データから、日本の異質性が明らかになったと高月は強調する。「他の国と比べ、多くの項目で日本のデータは異なる傾向を示していました。今後外国人材と働く機会が増えていく中で、APACの国・地域の中では日本の方が異質であるとの認識を持っておくことが必要だと思います。外国人材に日本の「当たり前」をそのまま当てはめようとしても無理がありますし、異なる価値観や行動様式が出会えば必ずコンフリクトは起きます。そこで大切になるのは、外国人材と一緒に働く従業員やマネジメント層がマインドセットを変えることです。また、外国人材をサポートする体制をつくり、経験やノウハウを蓄積して組織の資産にしていくことが重要になります。ダイバーシティマネジメントは一足飛びに解決策は見つかりませんので、トライ&エラーを繰り返しながらメンテナンスを続けていくことが重要になると思います」。

現地のマネジメント現場から見た、
進化する海外と取り残される日本人

次に登壇したパーソルケリーコンサルティングの木下毅は、冒頭で「グローバルで勝ち抜くために何が必要か」と問い、その回答として2019年ラグビーワールドカップの日本チームをとりあげた。パーソルグループが海外で展開する日本企業向けコンサルティング事業や人材紹介を統括する木下は、日本企業に今必要なことを、日本のラグビーチームを例に次のように説明する。「異なる価値観のメンバーを『勝つ』というシンプルでわかりやすい言葉で同じ方向へ向け、その目的に対し、メンバー各自が自身のすべき役割を理解し遂行していく。強い『個』がワンチームとして連携し、柔軟な戦術とスピードで戦えたことが、日本チームの強さであり、日本企業がまだできていない課題でもあります」。

 

海外展開する日本企業が今直面している課題とその本質

グローバル化が進展する中、重要性が高まるダイバーシティマネジメントに加え、変化のスピードに対応する俊敏性が求められている。日本企業が乗り越えるべきハードルは高く、かつ複雑化していると木下は指摘し、海外で事業展開する日本企業が今直面している課題をコンサルティングの事例で紹介した。

ケース1.課題:商品企画部門での若手の高い離職率

<原因>
派遣された日本人マネジメントが無意識に日本の文化を持ち込んだことだった。
<対策>
異文化研修、マネジメント作法の理解、役割の明確化、アクションプランの策定・実行など

ケース2.課題:業績の悪化

<原因>
派遣された日本人マネジメントの事業当事者意識の欠如
<対策>
役割やコミットメントの明確化はもとより事業環境への理解、課題抽出、人事制度改革など

ケース3.課題:採用で苦戦し、離職率も高い

<原因>
ブラックボックス化した人事制度
<対策>
等級制度や報酬制度の整備、評価制度の構築など

海外で事業展開する日本企業において、現地で起きている課題の本質は何か。木下は3つのポイントを挙げた。

1.異なるコミュニケーションスタイルへの対応
グローバルとローカルをつなぐ役割を担うのが、コミュニケーションを重視し柔軟に関係構築を行うグローカルである。上記ケース1のように、グローカルに対して日本的なものを持ち込んでしまうケースが多くあると木下は指摘する。

2.役割が明確になっていない
自分が何をしに海外に派遣されてきたのか、理解していない日本人の派遣社員は多い。上記ケース2はその典型例だ。背景を紐解くべく木下は聴衆に、「今の組織におけるあなたの役割は何ですか?」と問いかけ、次のように話した。「“何々部門の部長です”というのは答えにはなりません。『私はこういうことをやって会社に貢献している』と明確に言語化できないと、海外のビジネスマンとのやりとりは難しくなります。仕事に対する意識の違いに加え、近年、日本企業において組織がフラット化したことにより、管理職が自ら意志決定を行うシーンが減っており、部下を持つ機会も少なくなっています。管理職とは何をするのかもよくわからないまま、海外で初めて持つ部下が外国人では上手くいくわけがありません」。

3.公平性の担保
タバコ部屋や飲みの場などオフィシャルではないところで物事が決まっていくのは、海外では受け入れられないと木下は指摘する。「コンサルタントの立場から日本企業のお客様に必ず伝えていることは、何をやるにしてもまず公平性が大切です。公平性が担保できないと、海外では何をやっても信用されません」。

 

グローバル競争を勝ち抜くためには、
ダイバーシティマネジメントに対応できる正しいリーダーが必要

ダイバーシティマネジメントと俊敏性が求められる中、上記3つのポイントをどう実現していくか。「企業全体では急に変わることができないというのは当然です。個別の事業で考えると、正しいリーダーをちゃんと派遣するという視点はとても大切です」と木下は語り、正しいリーダーについて説明を加える。

「ダイバーシティマネジメントを実現する上で、語学ができなければ何も始まりません。またリーダーとして派遣する以上、管理者としての経験をある程度積ませてから送り込むことが大切です。初めてPL(損益計算書)責任を持つのが海外の事業所では相当なストレスがかかります。さらにグローバル・リーダーとしてふさわしい人材を早期に見極め、育成することが大切です。リーダーは誰もがなれるのではなく、意志のない者はなれません。また生まれつきの資質でも社内のポジションでもなく、自己認識と学習が必要です。柔軟性も間違いなく求められます。アジアで台頭するスタートアップに伍すためにはチャレンジ精神も大切です」。

そして、リーダーは優秀でも「個」を磨かなければ、チームは強くならない。「人材育成を“コスト”ととらえる日本企業は多いと思います、私は、人材育成に関して“投資”として提案しています。投資であれば、いかに早く回収し利益に貢献していくかといった、ROI(費用対効果)から発想することが可能です。また社員もサラリーマンから卒業し、プロ社員になることがとても大事です」と木下は話し、「経営も個人もマインドセットをチェンジしなければなりません。それを実現できている会社はグローバルでも上手く事業を展開し成長軌道に乗っています」と締めくくった。

 

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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