変革の時代を勝ち抜くための企業経営のあり方とは?

タケダの世界戦略とグローバル経営におけるチャレンジ

 
 
武田薬品工業株式会社
コーポレート・オフィサー
平手 晴彦 氏

少子高齢化による労働人口の減少や国内市場の相対的な縮小が進展する中、多くの企業がグローバル化に向けて大きく舵を切り始めている。世界市場において日本企業が競争力を獲得し、厳しい戦いに勝ち残っていくためには、いかなる戦略をもって企業変革に取り組んでいかなければならないのか。講演では、近年、積極的な海外製薬会社の買収など、グローバル化を急速に進める武田薬品工業株式会社(以下、タケダ)のコーポレート・オフィサーを務める平手晴彦氏が登壇。同社が推進してきた世界戦略の概要と、どのような信念と施策をもってグローバル化に対応するための企業変革に取り組んできたのかが語られた。

守るべき部分としての企業の行動・価値規範、
ミッションを全社員の共通認識とすることが
大きな企業変革に不可欠

少子高齢化やグローバル化といった大きな変化の波が、業種業界を問わずあらゆる企業に押し寄せている。激変の時代を勝ち抜いていくためにも、企業は“これからも残していくべき価値”と“変化させなければならない価値”をしっかりと見定め、大胆な企業変革を推し進めていかなければならない。

そうした時代の趨勢に応じ、事業のグローバル化に向け積極的な企業変革に取り組んでいるのが、タケダだ。その変革の舵取りを担ってきた、同社コーポレートオフィサー(執行役員)の平手晴彦氏は、「タケダは、誠実、公正、正直、不屈といった“タケダイズム”と呼ばれる行動規範を定めています。しかし、タケダも大きなエネルギーを投入していますが、このような規範を社内の末端に至るまで行き届かせている企業はほとんどありません。変革の時代においては、経営の基本精神をなす企業の価値や行動の規範を、社員一人ひとりが正しく理解しているような状況にしていかなければ、どこかで企業はつまずいてしまいかねません」と訴える。

また、タケダの“社会の公器”としての経営上のプライオリティとして

1常に患者を中心に考える
2社会との信頼関係を構築する
3取引先を含めたステークホルダーとのレピュテーションを向上する
4上記の3つを実現したうえで、ビジネスを発展させていく

の順位付けがなされている。

「例えば新規事業を立ち上げるに際して、第一のプライオリティである『患者の方向を向いているのか』どうかを考えます。もし、このプライオリティにあっていないのであれば、決してその事業に許可は出しません。こうした企業哲学ともいうべき、経営上の優先順位を明確化することで、社員も迷いなく大きな変革にチャレンジできるようになると考えています」(平手氏)。

そうしたタケダが掲げるミッションは、「革新的な医薬品を開発し、世界中の患者に届けていく」ことだ。2016年に同社のあるべき未来の姿として打ち出した「ビジョン2025」においても、このミッションの実現が、明確な時期と具体的な戦略をもって示されている。

「タケダイズムと4つの経営上のプライオリティ、そしてビジョン2025で示したミッションをグローバルの数万人にも達する社員一人ひとりが理解し、日々の活動つなげてもらうため、ビデオを制作し多くの言葉に翻訳し全組織に徹底してきました。この取り組みは好評で、多くの社員からタケダの目指すべき方向が理解できた、との声が寄せられています」(平手氏)。

 

明確な目標を設定し、機動性を維持しながら、
R&D部門の大改革やグローバル規模でのM&Aを推進

「企業変革に取り組むにあたっては、明確なゴール設定からはじめなければなりません」と、平手氏は訴える。

「企業として何を目指しどこへ向かっていくのか、ゴールを定めた後に、目標達成のための戦略設定を行います。そして戦略を支えるための事業プロセスの変革を進め、最後に組織変革を行っていかなければなりません。ゴールの策定や戦略の設定が不明確なまま組織変革に着手してしまい、何のためにそれが行われたのかを社員が理解できず、変革に着いて来られないケースが多く、最終的に失敗してしまう企業が多いのは残念です。」(平手氏)。

先にも述べたように、タケダが定めるゴールは、「革新的な医薬品を開発し、世界中の患者に届けていく」ことだ。これはシンプルな言葉で構成されているが、革新的すなわちイノベーションに富む製品を生み出すのは並大抵の覚悟では出来ないし、世界中で薬を待つ患者さんに届けるというのはSDGsに謳われる人類全体の目標でもあり、ビジネスを超えて継続的な社会貢献活動の拡大も必要だ。勿論ビジネスとしても競合の中で生き残り将来のサステイナブルな社会を実現させていくことになる。このゴールを目指して変革を遂行していくにあたり、時代の潮流に応じて戦略も変化させていかなければならないと平手氏は強調する。

「1980年代から1990年代の医薬品業界は研究開発やサプライチェーンのベストプラクティスを追求する“差別化の時代”、2000年代は、多くの競合会社が横並びのベストプラクティスを会得した中で、他よりも速く動ける企業が勝ち組となる“スピードの時代”でした。そして、2010年代は激しい市場変化に柔軟に対応可能な“機動性”(アジリティ)が求められる時代となりました。つまり、企業を取り巻く環境の変化がグローバル化し、加速化し、多様化している中で、企業戦略に機動性を備えていくことが不可欠になっているのです」(平手氏)。

タケダが取り組んだ施策の1つが、研究開発部門の抜本的変革である。研究開発を「中枢神経領域」「再生医療」「がん」「消化器領域」「ワクチン」の領域にフォーカス、そのための拠点も日本の湘南とアメリカのボストン地域に絞り込んだ。現在ではさらに希少疾患への取り組みと、血漿分画製剤への取り組みが加わっている。疾病領域を絞り込みサイエンスを掘り下げることで、外部のアカデミアやバイオベンチャーからの信頼を獲得できた。今後はさらに遺伝子治療、細胞治療といった次世代の技術プラットフォームの確立に邁進する。

もう1つの施策が、グローバル規模でのM&Aである。タケダは2005年以降、研究開発の強化と投資回収できる商圏の拡大を目的に、海外企業の積極的なM&Aを行ってきた。2008年には、がんに関する研究開発のノウハウを取得するために米ミレニアム社を約9,000億円で買収。また、新興国の販路を拡大するためにスイスの製薬大手企業であるナイコメッド社を約1兆1000億円で買収したのはその一例だ。グローバルを通じたM&Aの背景には、研究開発の「時間やサイエンスを買う」という側面と、同時に研究開発投資の回収ができる世界市場をカバーできるという2つの側面がある。さらにそのグローバル化した組織の運営においては現地法人に多くの権限を移譲し、先ほど述べた機動性を備えた。

「日本の医薬品市場は、1997年には世界市場の約21%という大きな割合を占めていました。しかし、2017年には7%にまで落ち込んでいます。当社がビジョンを定める2025年には5%にまで相対的な割合は減少すると予想されています。日本市場だけに頼る経営は企業の体力を削いでしまうのです。タケダは研究開発に企業生命を賭け、革新的な医薬品を世界中に届けると決断しました。そのためには研究開発に要した投資を回収する市場が必要であり、グローバル化は急務の課題だったのです」と、平手氏は説明する。

さらに2019年1月にはアイルランドの大手製薬企業シャイアーを約6兆数千億円で買収。日本企業による欧米企業の買収としては前例のない規模であるが、平手氏によれば現在、経営陣は完全に一体化され、組織統合も世界の90%以上のポジションが確定完了しており、今後は革新的新薬の創出に向けた生産性の向上による継続的な発展が視野にはいっているという。

 

グローバル化の進展に伴い
本社機能の変革にも継続して着手

機動性に優れた企業体へとさらなる進化を遂げていくため、タケダは組織体制の変革にも積極的に取り組んできた。その最たる例が、グローバル化に伴う本社機構の刷新である。ミレニアム社買収前までのタケダは大阪本社に国際事業本部を設置し、世界各国の子会社、販売会社を統括していたという。「日本の本社で、日本人による常務会が日本語で世界中の重要な人事を決めていましたが、そうした体制ではとても会社のグローバル化は難しかったでしょう。」と、平手氏は振り返る。

そこで、ミレニアム社、ナイコメッド社の買収移行、まずはボストンやスイスのチューリッヒに本社に次ぐ、準本社ともいえる役割をもった拠点を一時的に設置。買収先の企業をマネジメントする体制を構築していった。さらに、2014年に新たなグローバルオペレーティングモデルを構築。本社機構を整備し人事や財務、パブリックアフェアーズといった機能を6つのビジネスユニットに割り当てるとともに、本社の役割も、グローバル本部として推進・調整・統合といった「本社機能として、本当にやるべきこと」に絞り込んでいったという。

「現地の本部に意思決定をはじめとした多くの権限を委譲した新しいグローバルオペレーティングモデルは順調に機能しており、シンプル、かつ、機動性を備えた組織が実現されています」(平手氏)。

このようにグローバル化を積極的に推進しているタケダだが、どのような人材の育成・教育プログラムを行っているのか。平手氏は、「グローバルのタレントプールを構築し、グローバルを通じた社員教育プログラムを策定しています。その中では、タケダが標榜する企業価値や事業戦略のロードマップ、さらにはシニアリーダーとして模範となるような振る舞い等が詳細に示されています。また、シニアレベルとして採用された社員に対しては、『グローバルインダクションフォーラム』と呼ばれる研修を大阪の研修所で開催し、タケダイズムや価値規範、事業戦略をたたき込んでいます」と説明する。

現在、タケダでは19名のオフィサーがグローバルのエグゼクティブチーム(執行役員体制)を構成しているが、メンバーの国籍も11か国にわたっている。

「R&D投資のスローダウンを避けるためには、グローバル化を急ぐ必要がありました。そのためには、国籍を問わず、プロフェッショナルな経営者がすぐに必要でした。R&Dからの革新的な新薬創出は必ず結果を出してくれると信じて歯を食いしばって頑張った。その結果として、現在、オフィサー(執行役員)に日本人以外のメンバーが数多く在籍していますが、今後、日本人の中にも国際的な経営感覚をもった人材が増えてくれば、この顔ぶれも変わってくると考えています」(平手氏)。

これまで説明してきたように、外部環境の変化をとらえながら、自社が定める価値規範をミッションに基づき、グローバル化を推進してきたタケダ。平手氏は「経営者の仕事とは最適なゴール設定と戦略策定を行い、資源を最適配分して人を動かすことにあります。実際に勝ち組の企業はこうしたプロセスに基づき、企業変革を推進しています」と強調する。
最後に平手氏は次のように訴え、講演を締めくくった。

「企業経営の両輪は人事と財務にあります。この2つがしっかりと機能していなければ、変革時代の企業経営は困難なものとなります。企業トップの戦略を支える人事という視点についてアドバイスすることが増えています。これからの時代は多文化を理解し、人材戦略を立案するグローバルな視点をもったCHRO(最高人事責任者)がますます不可欠となるでしょう」(平手氏)。

 

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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