人事データ活用がもたらす組織のイノベーションとは?

HRテクノロジー最新トレンドとピープルアナリティクスの最新事例

 

企業に業務革新とイノベーションの創出をもたらすデジタルトランスフォーメーション。今や人事部門においてもデジタルトランスフォーメーションの推進は喫緊の課題である。人事データをAIや機械学習を用いて分析し、客観的な指標に基づいた人事戦略を策定、推進することで、組織イノベーションを創出することが可能となるからだ。講演では、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏より、AIや機械学習の実装等、進化を続けるHCMアプリケーションの最新トレンドが解説されるとともに、パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 本部長の佐々木聡が、人事データを軸として人材マネジメントに革新をもたらす「ピープルアナリティクス」の最新事例を紹介。最先端テクノロジーと人事データの活用により、イノベーションを創出する組織へと変革を遂げていくための方策が提示された。

  •  
    慶應義塾大学大学院
    経営管理研究科 特任教授
    岩本 隆 氏
  •  
    パーソル総合研究所
    コンサルティング事業本部 本部長
    佐々木 聡

グローバルで導入が進むHCMと
ピープルアナリティクス

近年、クラウドコンピューティングや、AI(人工知能)を用いたデータサイエンスに関するテクノロジーは急速に進化を遂げており、その活用シーンはHRの領域にも波及している。
HRの情報システム化は1970年代頃より始まっていたが、2010年代に入ってから多種多様なHCM(Human Capital Management)アプリケーションがグローバルで次々と登場。HCMアプリケーション市場において数多くのスタートアップ企業が誕生する一方で、大企業もM&A等により自社製品のラインナップを拡充し市場参入を図るなど、活況を呈している。

実際、調査会社によれば、その市場規模も2兆円を超えるとの報告も寄せられている。
「さらに近年ではHCMアプリケーションと、セールスやマーケティング、財務会計といった他のエンタープライズ向けアプリケーションとの連携も進み始めており、HRと経営の一体化が進展しています」と、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏は説明する。

また、HCMアプリケーションは、こうした企業内の様々なシステムとの連携に加え、機能拡充も進んでいる。中でも注目を集めているのが、多種多様な人事に関するデータの分析を行うことで、企業にとって最適な人事運営の遂行を支援する「ピープルアナリティクス」の機能だ。昨今、人事の領域においてもデータ活用は急務の課題となっており、人事評価や給与、タレント(能力・資質・才能)といった様々な人事データを収集して分析を行い、個々の人材が能力を最大限に発揮して活躍できる職場環境を実現していくことが求められている。そうした要請に呼応し、アナリティクス機能を実装したHCMアプリケーションが急増しているのだ。
「例えば、ピープルアナリティクスの技術進化に伴い、社員のキャリアプランをはじめ、最適な配属や異動、必要な研修プログラムなどをレコメンドしてくれるような機能もHCMアプリケーションに実装されるようになっています」(岩本氏)
岩本氏によれば、2014年頃からピープルアナリティクスに関するカンファレンスが欧米を中心に開催されるようなっており、年を追うごとにその盛り上がりは加速し続けているという。また、これまで説明してきたようなテクノロジーの進化とITベンダーが提供するHCMアプリケーションの拡充といったアナリティクス環境の整備も追い風となり、海外だけでなく日本においてもピープルアナリティクスを担う組織を社内に設置する企業が増え始めているという。

 

人事データの有効活用こそが
組織のパフォーマンスを左右する

当然のことながら、ピープルアナリティクスを実施していくために不可欠となるのが、人事データだ。岩本氏は、人事データ活用のポイントとして、①どんなデータを整備し、②どのように分析手法を用いて、③何を目的に、どのようなアウトプットを出すべきか、の3点を挙げる。岩本氏は、「近年ではテクノロジーの進化により、テキストや数値データだけでなく、画像や音声、動画、さらにはセンサーを利用した行動のデータも取得、利用できるようになりました。その中から企業のパフォーマンスを高めていくためには、はじめにどのデータを整備すればよいのかを定めなければなりません」と語る。

「続いて、整備したデータを統計分析、機械学習、ディープラーニング、AI等どのような手法を用いて分析するか検討します。そして、その結果をダッシュボードで可視化できるようにするのか、AR(拡張現実)と組み合わせ専門職のスキルの継承や、研修・教育に用いるのか、さらにはアウトプットの予測やレコメンデーション、解決策に用いるのか、あらかじめ決めておく必要があります」(岩本氏)

岩本氏は、人事データの活用がもたらす付加価値について言及する。「例えば、大企業には何万、何十万という社員が働いており、人事担当者が社員一人ひとりを把握することは不可能です。対して、人事データの活用により、『自社にどのようなタレントを持った人材がどのくらい在籍しているのか』といった人材組織力を可視化できるようになります。また、採用や配属、異動に際して“ヒト”によるバイアスが排除されるようになるほか、データに基づいた論理的・定量的な議論が行えるようになり、経営判断の迅速化に繋げられるようになります」(岩本氏)

人事の領域におけるデータ活用は多方面に広がっているが、最近では「ハイポテンシャル人材の採用・発掘、ハイパフォーマーの育成」「組織のパフォーマンス向上のための人材の最適配置」「全ての個々人が能力を伸ばし、発揮できる仕組みづくり」に関する相談が、岩本氏に多々寄せられているという。岩本氏は、「例えば、ハイパフォーマーの育成については、ある企業と共に、個人の特性やモチベーション、スキルをパフォーマンスの構成要素として定義し、入社してから現在に至るまでの経験がこれら3つの因子にどう影響するのか、モデルを作成して分析しています」と説明する。企業の要件に応じてパラメーターは変化するが、適切なデータを収集し、このモデルを用いて分析することで、ハイパフォーマンス人材の育成や、組織活性化に向けた施策を講じられるようになっているという。

最後に岩本氏は、「今後求められるのは、経営と人事、そしてテクノロジーを融合できる経営者です。この3つをうまく連携させるための取り組みを進め、組織のパフォーマンスを高める活動を推進していただきたいと考えています」と訴え、講演を締め括った。

 

ピープルアナリティクスを活用し、
イノベーション人材の早期育成を目指す

続いて登壇したパーソル総合研究所 コンサルティング事業本部長 佐々木聡からは、ピープルアナリティクスを活用した人事戦略の事例が紹介された。
佐々木は、「新卒一括採用からキャリア入社へ、同質性の高い人材から多様性が高い人材へと、採用や育成の方向性が移行する中で、これまでの日本型雇用環境で通用してきた『記憶・勘・経験』のOLD 3Kによる人事は限界を迎えており、『記録・客観性・傾向値』のNEW 3Kに基づく、『より確かな人事』へのシフトが急務となっています」と訴える。

 

そうした企業が抱える課題の解決に向けて、パーソル総合研究所は2017年10月、データを活用して最適な人材配置を支援する専門組織「ピープルアナリティクスラボ」を設立。社員一人ひとりの活躍可能性や離職リスクの見える化を実現し、パフォーマンスを最大化させる人材活用を提案するサービスを展開している。設立から2年の間にピープルアナリティクスラボは、「異動時の適正配置の精緻化」「個人適正検査データを活用した海外赴任者適正モデル構築」「販売代理店の人材採用・定着に関わる要因分析」といったプロジェクトを手掛けてきたが、今回、佐々木が紹介したのは、人材サービス業のA社における「イノベーション人材の発掘と配置」に関する事例である。

A社では新規事業の立ち上げに寄与するイノベーション人材の発掘を要望していた。そこで人事にて「創造的な仕事を遂行している社員」、すなわちベンチマークとなる社員を選出してアセスメントを実施して、イノベーション人材として必要な因子を抽出。さらに候補者のアセスメントデータをイノベーション人材の結果傾向と突き合わせることで、適合度の高い人材を対象者として抽出、育成・異動といった施策を行うことにしたという。
佐々木は、「はじめにイノベーション人材を、0から1を創造できる『What人材』、1から10へと事業をスケールできる『How人材』として定義し、それぞれに近い人材を社内において選定し、サヴィル・アセスメントや本人へのインタビューを実施しました。その結果から特徴的な傾向をクロス集計、t検定などを用いて統計的に分析してイノベーション人材モデルを構築。最終的にその人材モデルに近い社員を選抜し、しかるべき部署、役割に異動させるといったスキームを構築しました」と説明する。
なお、A社では今年の4月に内定した人材にもサヴィル・アセスメントを実施し、その結果を参考に配属先も決定。その後のキャリアプランも策定し、早い時期からイノベーション人材を育成するような取り組みを進めているという。

最後に佐々木は次のように強調し、講演を締め括った。
「企業ごとに求める人材は異なるため、一般化されたイノベーション人材モデルをそのまま適用したのではうまくいかないケースもあります。ピープルアナリティクスラボでは、企業各社の事情に応じたモデルの構築を行っており、お客様と共にNEW 3Kに基軸とした新しい人事施策を作り上げていきたいと思っています。」

 

本記事は2019年10月23日開催の「PERSOL CONFERENCE 2019」の講演を記事化したものになります。

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