経営危機からの復活
~コープさっぽろ再建における経営・人事改革

「世界の経営学」と「人材・組織戦略」の最前線を学ぶ
~「人と組織の未来アカデミー 北海道」講演レポート

 

2019年6月10日、札幌市にて道内企業の経営者、人事担当者を対象とした講演会「人と組織の未来アカデミー 北海道」(主催/北海道新聞社、協賛/パーソルグループ)が開催された。「生活協同組合コープさっぽろ」(以下、コープさっぽろ)において、かつての経営危機から改革を主導した理事長の大見英明氏が登壇し、「コープさっぽろが目指すビジョン・働き方」と題した講演を行った。

 
生活協同組合コープさっぽろ 理事長 大見 英明 氏

コープさっぽろは1998年に実質的に経営破綻をしたもののV字回復を成し遂げ、現在の売上高は20年前に比べ約2倍、2015年以降は毎年約60億円の利益を計上している。また会員数は約176万人となり、道内人口の約8割にあたる200万という会員数が目前に見えてきた。まさに北海道の食のインフラを支える存在である「コープさっぽろ」がどのように復活したのか。その道のりとこれから目指す未来を語った。

生活協同組合コープさっぽろ
理事長
大見 英明 氏

 

25年間トップが変わらない
”ワンマン体制”からの改革

現在、約176万人いるコープさっぽろの組合員は毎年5万人ずつ増加し、北部にある利尻島、礼文島へも毎週宅配で商品を供給するほか道内179市町村のほぼ全てに分布している。店舗での販売のみならず、37万世帯へ宅配を行うほか。6〜7年前から、食事を作ることが難しくなった高齢者世帯に対する配食事業にも力を入れている。さらに、エネルギー関係、資源回収、葬儀など16の関連会社を有し、幅広く事業を展開している。また道内においては関連事業を含めて16,000人を雇用している。

20年前の経営破綻の理由として、「25年間トップが変わらないワンマン体制による強権的な体質」、「標準化が行われないままの店舗展開」「農場、ホテル、北京のラーメン店といった事業の多角化の失敗」「銀行借入金への依存体質・粉飾決算」の4つを挙げた。

 

「本州から次々と大手資本によるスーパーマーケット事業が入ってくるなか、当時の経営陣は大型店舗をつくるといった「規模での対抗」をしたため、借入金依存体質へとつながっていきました」(大見理事長)

1996年にトップが退任したものの、改革の成果が上がらず経営が悪化し、1997年の北海道拓殖銀行の経営破綻などの外的要因もあり、1998年には自立再建不可能になり、日本生協連合会からトップが派遣され、本格的な経営再建が始まった。

平等主義から成果主義へ
「降格人事」こそ重要

1998年から行われた基本再建計画は4つの柱からなる。

 

特に「人件費の削減」については、1ヶ月で正規職員を450人、前後2年間で1000人のリストラを断行。同時にパートは6%、正規職員は15~20%、役員は30%の給与カットを行った。
「ゆでガエル状態でいまひとつ危機感が足りなかった組織でしたが、例外なしに行った給与カットは確実に効きました。全員で責任を取らなければ危機感を共有することは難しかったと思います」(大見理事長)

さらに、経営危機が発生してから2005年まで一般大卒職員の採用停止をしていたため、人事の空白を埋めるべく、以下のような人事制度改革に着手。平等主義から成果主義へ大きく舵を切った。

人事制度改革の柱
1.業績による人事評価(能力主義人事制度)
2.『札幌華桜開発』(人材棚卸会社)を設立。各部署の不適格者を集め、加入促進の専任部隊に集約
3.パートから契約職員への登用制度を確立

2000年から導入した業績による人事評価制度では、全ての職場において上位15%はランクアップで給料を増額、下位15%は降格し、給料を減額した。

「一般的に日本の組織は降格人事を発令するのが苦手です。さらに、我々は協同組合であり、組合員のみなさんと手をとりあってがんばろうという組織であるので、選別するのはいかがかとも思ったのですが、どうにかしなければならない状況でした。ランクアップよりも降格が大事で、動機付けがうまくいけば、30代や40代の職員の中には降格がきっかけとなって成果をどんどん上げるようになる人もいます」(大見理事長)

 

組織は『雑種強勢』
多彩な人材が入ってこそ強く進化する

また、コープさっぽろでは、1000人のリストラをした上で事業拡大をすすめていくため、人材の確保と育成のために様々な制度を導入した。2002年からスタートしたパートから契約職員への登用制度もその1つで、優秀なパート従業員を試験で選抜し、契約社員にした。現在までこの複線雇用は続き、2019年には30人のパート従業員が総合職になった。

2013年からは外国人就労研修生の受け入れを開始し、現在、単一組織としては北海道で最多となる200人超のベトナム人を雇用している。障がい者雇用は現在450人で、これも北海道の単一組織としては最多となる。

「『どうしてそんなに障がい者を雇用できるのか?』と聞かれますが、その人に合った働き方と仕組みを作ることが効果的です。障がいのある方がいると、職場の風土はやさしくなり、進化していきます。すでに5%の雇用率ですが、もっとたくさんの方に働いてもらおうと考えています」(大見理事長)

2014年には他の組織に先駆け、1000人の契約社員の正規雇用化を実現し、2017年には学生を対象に「1年間アルバイトとして働いたら、返済不要の奨学金を年25万円、4年間で100万円出す」という奨学金制度も創設した。これにより多くの学生たちが働くようになった。

「遺伝学の『雑種強勢』のように、組織はプロパー職員だけで構成するよりも、違う人材が入った方がより強くなる。今後も異業種からの中途採用も含め、どんどんと多彩な人材を入れていく予定です」(大見理事長)

 

ユニークな施策で組織内外の
「トランザクティブメモリー」の活性化を追求

続いて、組織における人的ネットワークの拡張対策の施策を紹介した。

まずは年1回行われている部門ごとの「席替え」。現在、コープさっぽろの本部はワンフロアに集約されていて、280名が同じフロアで働いている。以前9階建のビルだった時に比べると部門間の交流はしやすくなったものの、まだまだコミュニケーションのレベルは上がってこないところもある。原則は、事業分野の業績を考えた際に、コミュニケーションが希薄な事業部門を隣に配置。例えば「システム改革が必要な部門を、システム部のデスクの隣に配置」「広報強化が必要な事業部を広報室のデスクの隣に配置」といった具合だ。

 

年1回、部門ごとに行われる席替えの様子

さらに外部組織との人事交流も積極的に行っている。これまで、北海道庁、伊藤忠商事、良品計画、日本生協連合会、別海乳業公社へ職員を出向させ、逆に道庁、札幌市、長沼町、日本生協連合会、労働金庫、よつば乳業、伊藤忠エネックスなどからの出向者を受け入れている。

「継続的な派遣交流を通して、外部組織とのトランザクティブメモリーの構築・拡張を目指しています。また経営の多様性と優れた異業種の取り組みを実際に学ぶ目的で異業種企業への視察も年に1回行っていますが、これにもトランザクティブメモリー構築という意味合いがあります」(大見理事長)

 

今後も北海道の食を下支えしながら
地域課題を解決する存在に

経営再建に成功した現在、次の10年に向けて取り組むテーマのひとつとして、コープさっぽろがあげるのが過疎化や買い物難民といった地域への課題だ。

現在、札幌を除く、多くの北海道の市町村は、人口が減少し、財政上の収入減少に直面している。市町村事業の収益の悪化、過疎化、民間事業者の撤退がおき、住民の生活困難が拡大するという状況にある。そこでコープさっぽろでは、専務直轄の部署となる「地域政策室」を創設。全道一円に広がる店舗や物流ネットワーク、ノウハウを活用して、移動販売車を地域に巡回、地方商店街の生き残りの支援などを行うなど、行政をサポートしている。

 

「コープさっぽろのミッションは『安心と革新』。超高齢化社会になっても、生協がある限り、北海道のすべての地域に食を調達できるという組織にしたい。お店に来ることができなくなったら宅配を利用してもらい、宅配で買ってもなかなか料理ができなくなったなら配食を利用してもらう。現在は病院と施設の給食事業にもチャレンジしています。今後も、北海道の食を下支えする存在として、ソーシャルビシネスを追求していきたい」と大見氏は熱く語り、講演を締めくくった。

 

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