中央大学xパーソル総研 共同研究

2030年の労働市場推計と人手不足を乗り越えるための指針とは?

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    中央大学大学院 経済学研究科 委員長
    中央大学 経済学部 教授
    阿部 正浩 氏
  •  
    株式会社パーソル総合研究所
    リサーチ部長
    田井 千晶

企業経営のみならず、日本全体にとって重要な労働力の確保。国会でも外国人労働者の扱いが審議されているが、ひっ迫する人手不足はいつまで続くのか。この講義では、中央大学とパーソル総合研究所(以下、パーソル総研)が共同研究した「労働市場の未来推計2030」のデータをもとに、2030年までの労働マーケット展望が示された。中央大学の阿部氏と、パーソル総研の田井が産業、都道府県別などの人手不足の推計データを基に、それを解消するための4つの対策と提言を発表した。

冒頭、中央大学大学院 経済学研究科 委員長/中央大学 経済学部 教授の阿部正浩氏は、今回の調査研究の主旨について、次のように述べた。「今回発表する推計は、パーソル総研が2016年に発表した『労働市場の未来推計2025』を、中央大学と共同開発した需給予測モデルを用いることで、より高度化、精緻化したものです。この予測モデルでは2030年時点の人手不足数とともに、賃金や労働力率の変動も推計し、労働市場の状況をより具体的に予測することが可能となりました」。その上で得られた結論として阿部氏は、「人手不足は今後も継続し、深刻さが増します。それをどのように緩和していくかが課題になります」と語る。

現時点での人手不足の状況

推計データを発表する前に、まず現状の数値が提示された。

2018年5月の有効求人倍率は1.6倍と、石油ショック直前のいざなぎ景気以来、44年ぶりの高値を示している。欠員率(常用労働者に対する未充足求人の割合)はバブル崩壊以降最高の2.4%を記録し、欠員数は121万人にも上る。いわゆる「人手不足倒産」は2018 年上半期で既に70 件発生しており、年間合計で初めて100件を超えた2017年の106件を上回る勢いだ。阿部氏は「有効求人倍率は高度経済成長期の末期と似た状況ですが、総人口が減少しているという人口動態が当時とはまったく異なります」と語る。

国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した将来推計人口では、2030年の総人口は2017年から約1,000万人減の1億1,638万人、そのうち15~64歳の生産年齢人口は940万人減少するとされている。また、今回の予測ではこの人口動態および実質GDP成長率1.2%が前提となっている。加えて、現在の技術力を基にしており、AIやロボットといった新しいテクノロジー活用については考慮されていない。

推計結果から見る継続化する人手不足
2030年には644万人と深刻化

次に、中央大学とパーソル総研が共同研究した「労働市場の未来推計2030」の推計結果が発表された。
阿部氏によれば2030年には欠員を含んだ労働需要7,073万人に対し、労働供給6,429万人(失業者61万人を除く)で、644万人もの人手が不足するという。2020年の人手不足は384万人、2025年は505万人と、継続して深刻化が進む見込みが示された。(図1)

図1 2030年までの人で不足の推移

 

産業別では、サービス業が-400万人、医療・福祉業が-187万人と高い数値を示した。さらに卸売・小売、製造業が続く。逆に、建設、金融・保険・不動産、農林水産、鉱業では人手が余るという予測が示された。(図2)

図2 2030年にどのくらいの人で不足となるか?(産業別)

 

職業別では「専門的・技術的職業従事者」がトップの-212万人、続いて事務従事者の-167万人となっている。ほとんどの職業でマイナスとなる中、建設・採掘従事者は49万人の余剰が生まれるという。(図3)

図3 2030年にどのくらいの人で不足となるか?(職業別)

 

都道府県別では、東京-133万人、神奈川-54万人に続いて千葉、埼玉、愛知、静岡などの都市部が人手不足において高い数値を示している。(図4)

図4 2030年にどのくらいの人で不足となるか?(都道府県別)

 

644万人の人手不足を埋めるための4つの対策

ここからはパーソル総研の田井より、644万人の人手不足をどう埋めるか?の対策についての研究結果が示された。

 その対策は大きく分けて以下の4つであると話す。

対策1:働く女性を増やす  102万人
対策2:働くシニアを増やす 163万人
対策3:働く外国人を増やす  81万人
対策4:生産性を上げる  298万人

対策1:働く女性を増やすには、116.2万人分の保育の受け皿追加整備が必要

田井は「女性の労働力率は潜在的保育所定員率と相関関係がある」とした上で、「25-29歳の女性で88%ある労働力が、35-39歳では73%まで減少します。この解消により、102万人の女性の労働人口を確保できます。その実現のためには、保育の受け皿の追加整備が必要です」と語る。試算によれば2030年に保育サービスを必要とする児童数389.7万人から2017年4月時点ですでに整備されている保育の受け皿273.5万人を引いた、116.2万人の児童への追加整備が必要であるとのデータが示された。田井は「この数年、急激に保育サービスが拡充していますが、今後もそのペースを落とさず、継続していくことが求められます」と話した。

対策2:70歳まで働くことで男性22万人、女性141万人のシニア活用

内閣府が2014年に実施した調査結果によれば、実に60歳以上の働く男女のうち80%が70歳になっても働きたいと考えているという。「男性の80%と、女性の70%が69歳まで働くと仮定した場合、男性で22万人、女性で141万人の労働人口が確保できます」。(田井)

対策3:81万人の働く外国人を増やす

国会でも審議された外国人労働者の活用。「2018年6月の経済財政運営の基本方針をもとに試算すると、外国人の労働者数は2030年に合計209万人と、81万人の増加となる見込みとなります」。(田井)

ここまでの3つの対策での労働人口増数は計346万人。2030年の人手不足総数である644万人に対してあと298万人不足している。ここを埋めるのが、対策4の「生産性を上げる」ということになる。

対策4:7%の自動化、4.9%の工数削減が実現すれば298万人の労働需要をカバー可能

田井は「7,073万人の労働需要を298万人分削減するには、4.2%の生産性向上が必要です。OECD が 2016年に発表した調査結果よれば、自動化可能性が70%を超える労働者の割合は日本において7%となっています。このまま自動化が2030年まで十分に進めば、仮定する4.9%の工数が削減でき、298 万人分の労働需要のカバーは可能であると考えます」と話した。

国や企業が取り組むべき支援と職場環境の改善

これらの研究結果を踏まえ、阿部氏は以下の提言を行った。

● 「644万人」は、実質賃金が時給換算で、今よりも240円上がっている前提の不足人数。もし賃金の上昇がここまで到達しないと、不足はさらに大きくなるため、国や企業はこれまで以上に賃上げの努力をすべきである。

● この推計では考慮できていないが、実際には市場が求めるスキルと労働者が持つスキルの間に乖離が発生する可能性が高い。市場に求められるスキルを労働者が継続的な能力開発によって身につけるべきであり、国や企業も適切にそれを支援すべきである。

● 働くシニアを増やすにあたり、女性の労働力率を上げられるかどうか重要なポイントとなる。今後予想される「介護を必要する人の増加」が、女性の労働への参加を妨げる可能性がある。国や企業は、介護をしながら働くことが可能な社会を作っていくべきである。

● 外国人労働者の増加は低生産性部門を温存し、平均賃金を大きく低下させる懸念がある。働く場所として外国人に選ばれる国となるべく、並行して労働条件の改善を行っていくべきである。

最後に阿部氏は、「これらの対策は一時的なものではなく、長期的に継続していく必要があります。低賃金の外国人をカンフル剤としても根本的には解決しません」と講演を結んだ。

予想以上に深刻化する人手不足を、人口減少と少子高齢化の課題先進国である日本はどう乗り切るのか。貴重な研究と提言をいかに活かすかを、企業においても真剣に考えるべきだろう。

 

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