伸びる会社の新常識?ダイバーシティ経営の意義と事例を解説

 

2021.04.21

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企業経営のホットワードとなっているダイバーシティ。しかし、「耳にしたことはあるものの、正直どういう意味か分かっていない」という方も多いのではないでしょうか。この記事では、言葉の意味や実践時の注意点を解説します。

目次

ダイバーシティの定義や考え方の基本を確認

まずはダイバーシティという言葉の意味を、しっかりと押さえておきましょう。

ダイバーシティとは? ダイバーシティ経営とは?

ダイバーシティ(diversity)は、日本語では「多様性」「相違」「種々」などと訳される言葉です。ビジネス分野においては、個人または集団の間の「さまざまな違い」を示します。具体例は以下のとおりです。

多様性の例

・性別
・年齢
・学歴
・キャリア
・ライフスタイル
・はたらき方
・価値観
・性自認
・性指向
・宗教
・障害の有無
・人種
・国籍
・使用言語

「さまざまな違い」には、表面に見えやすい・見えづらいもの、自分では変えられない・変化していくものがあり、多種多様です。経済産業省は、このような違いを持つ個々を「多様な人材」として受容し、一人ひとりの能力が最大限に発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し価値創造につなげていく経営が、「ダイバーシティ経営」であるとしています。

ダイバーシティ経営は、自社が置かれた市場環境や技術構造の中での優位性保持、または競争力優位を築くために必要な人材活用戦略であり、福利厚生やCSR(企業の社会的責任)とは異なります。

企業におけるダイバーシティ推進の多くが、数値化した目標や成果を軸にした人材配置からスタートします。女性管理職の人数や比率増、障害者雇用への取り組みが一例に挙げられますが、他にもさまざまな取り組みが考えられます。

インクルージョンとの違い

ダイバーシティと併せて耳にする機会が増している言葉に、「インクルージョン(inclusion)」があります。インクルージョンは「包括」「含有」「一体性」などと訳されます。ビジネスにおいては、発想や考え方、思想といった個々の内面的な特性が、十分に活かされた企業活動が行われている状態を示します。

ダイバーシティとインクルージョンが、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」と、セットで語られ実施されるケースも多く見られます。体制面でダイバーシティが実現しているかのように見えても、個々の人材が自分の持ち味を隠して存在していたのでは、真に多様性が活かされた状態とはいえません。ダイバーシティ経営はインクルージョンの実現を前提として進められるべきでしょう。

ダイバーシティが注目された3つの背景

多様性を受容するダイバーシティの考えは、移民も含めて多様な民族が存在するアメリカで生まれました。そして、日本においては2010年代以降に注目を集め、2012年度にはダイバーシティ経営の裾野拡大を目指し、経済産業省が「ダイバーシティ経営企業100選」をスタートしています。

背景には、市場のグローバル化と、顧客ニーズの多様化、少子高齢化という3つの要因があります。

理由1 市場のグローバル化

「あうんの呼吸」「忖度」「出る杭は打たれる」といった言葉もありますが、日本社会は、一般的に同調性が高いという特徴を持っています。同質な集団は、結束力が高く、着実に物事を進めるのが得意な反面、排他性が高く自由な発想や行動が生まれづらいという負の特徴もあります。

グローバル化の進展で、国外の企業との競争も激化しており、外部環境の変化のスピードも増しています。従来の日本企業の経営スタイルでは、こうした市場環境の変化に迅速かつ柔軟に対応するのが難しくなってきています。持続的成長のためには革新的発明やイノベーションが求められていることからも、ダイバーシティ経営が注目を集めています。

理由2 顧客ニーズの多様化

インターネットの普及以前・以後で、人々の価値観やライフスタイル、消費行動などは大きく変わりました。消費者ニーズは細分化し、いわゆる「マス」と呼ぶことのできる集団をつかみづらい時代になっているといえるでしょう。そうした環境下で、人々に広く支持される、もしくは一定層に深く刺さる商品やサービスを生み出していくには、企画・開発する企業側も多様な視点を持つ必要があります。

ダイバーシティの推進による女性、外国人、LGBTQ、障害のある人など、多様な属性、多様な感性や能力、価値観、経験を持った人材の確保は、変わりゆく時代のニーズを迅速にすくい取ることにつながると考えられています。

理由3 少子高齢化

日本は諸外国よりも少子高齢化の進行が早く、すでに従来の男性中心・フルタイム勤務前提の労働条件では人材の確保が困難になっています。人材不足の解消策の一つは、女性やシニア、障害のある人など多様な人々を積極的に受け入れ、人材の母集団を増やすことです。

また、新型コロナウイルスの感染拡大、それに伴うテレワーク、リモートワークの実施は、労働者の価値観を変容させました。テレワークでの就業を希望する人材は、コロナ禍以前よりも増加しているというデータがあります。はたらく個人の希望に沿うはたらき方を可能にすることで、人材募集の間口を広げることも、優秀な人材確保のための重要な要件となっていくと考えられます。

就業者のテレワークの利用希望

 

【出典】内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」

ダイバーシティ経営のメリット4つ

ダイバーシティ経営で生じるメリットは、大きく分けて4つあります。

(1)人材獲得力の向上・強化
(2)リスク管理能力の向上
(3)イノベーション創出、生産性の向上
(4)顧客など社外からの評価の向上

それぞれについて見ていきましょう。

(1)人材獲得力の向上・強化

前述のとおり、ダイバーシティを推進することは採用人材の母集団を広げることにつながります。また、若手人材の採用にも効果を発揮します。

1981年~1995年頃に生まれた、現在20代後半〜30代半ばの世代をミレニアル世代と呼びます。社会課題への関心が高い世代とされ、就職先の選定時にも、企業の「多様性や受容性の方針」を重要視する傾向があります。特に女性にこの傾向が顕著です。そのため、ダイバーシティ経営を行うことで、ミレニアル世代への強力なアプローチが可能になります。

さらに、すでにダイバーシティ経営に取り組んでいる企業へのアンケートでは、日本企業を含めた多くのグローバル企業が「人材の獲得」や「業績の向上」に効果があったと回答しています。ダイバーシティは人材獲得、またその先の円滑な企業活動に、プラスの効果をもたらすといえるでしょう。

(2)リスク管理能力の向上

均質的な組織には「グループシンキング」が生じやすいといわれています。グループシンキングとは、構成する人員に対する無言の圧力が存在し、結果、集団にとって不合理なはずの意思決定が容認されてしまう、というものです。単一的な価値観、硬直化した思考は、正確な状況把握や対応を妨げる要因になります。多様な価値観が企業内に存在することは、リスク管理の面で大きな効果があります。

実際に、リーマンショック後の時価総額の推移を見ると、取締役に女性が加わっている企業の方が、そうでない企業よりもパフォーマンスの回復が早いという傾向が顕著に表れました。ダイバーシティ推進は、厳しい環境変化への対応力、順応力を高める方策の一つといえます。

(3)イノベーション創出、生産性の向上

イノベーションには、商品やサービス自体を新たに開発したり、改良を加えたりする「プロダクトイノベーション」と、開発、製造、販売の手段を新たに開発したり、改良を加えたりする「プロセスイノベーション」があります。 多様な人材が異なる分野の知識、経験、価値観を持ち寄ることで、新しい発想が生まれやすくなります。また、多様な視点で検討することで、効率性や創造性を高めることもできます。実際に、内閣府の調査では、性別、国籍の多様さと企業業績との間には相関性があるというデータが出ています。ダイバーシティ経営は、イノベーションや生産性の向上に不可欠な、土壌づくりの取り組みでもあるのです。

多様な人材と収益率

 

【出典】内閣府「令和元年度 年次経済財政報告」

(4)顧客など社外からの評価の向上

(2)で挙げたような事実を背景に、グローバル投資家は取締役会の構成員の多様性を注視しているといわれています。こうした潮流は、中小企業にも少なからず影響を及ぼしています。例えば、近年大企業では、自社のみならず取引先企業に対しても社会ニーズに応える企業活動を求める動きも出てきています。

ダイバーシティ経営で多様な人材を受け入れることは、社会のニーズに応えることであり、顧客や市場などからの評価や信頼性の向上が期待できます。これらは事業継続性、収益や業績の維持・向上という実利につながっていきます。

ダイバーシティ推進時の3つの注意点

ダイバーシティの推進には多くのメリットがありますが、もちろん一朝一夕に物事が進むわけではありません。むしろ、短期的には一時的にパフォーマンスが下がるというデータもあります。しかし、ここを適切に乗り越えることで、有効性が上昇すると見込まれています。求められるのは、経営者の粘り強さです。リーダーシップを発揮し、発生した問題に対する対処を地道に繰り返すことが、取り組みを成功へと導きます。

ダイバーシティ推進にあたり、多くの企業に共通して生じがちな問題がいくつかあります。それらを、対処法と合わせて解説します。

(1)多様な価値観が存在することで生じる軋轢や誤解

多様性の高まりとともにまず直面するのが、人間関係の問題です。さまざまな属性、価値観、思考、行動特性を持つ人々が集まることで、「この人とは合わない」「あの考えや行動は理解できない」という不満や悩みが、必ず生じてきます。この段階を乗り越えることが、ダイバーシティ経営を成功させるカギになります。

考えがぶつかったとき、行動に迷ったときの指針となるのが、自社の「経営理念」です。経営者、また社員自身が「経営理念」に照らし合わせてどう解決するのが最適であるかを議論し、判断することが重要です。むしろ、こうした問題は必ず起きてくるものと考え、スタート以前から経営理念の周知、ダイバーシティ経営の意義を社内にアナウンスすることで、多様性を受け入れる下地をつくっておくのがよいでしょう。

(2)心理的安全性のゆらぎ

心理的安全性とは、1999年にハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授により提唱され、アメリカのグーグル社が2016年に発表した研究結果で注目を集めた概念です。「所属するチーム内で、リスクのある発言も含め、どのような発言をしたとしても問題は起きない」という、チームメンバーへの信頼が相互にあり、安心して発言できる状態が、心理的安全性が高い状態といえます。

しかし、もともと似たような人が集まっていた環境にさまざまな属性、価値観、思考、行動特性を持つ人々が入ってくると、自分とは違う考え方を持つ人々への不満、「これを話して嫌われないか」「馬鹿にされないか」といった不安が出てくるものです。

この解消に向けては、リーダーが自ら、自己のマイナス面も含めて自己開示し、なんでも話せる空気づくりを進めることが大切です。また、あいさつや声掛け、感謝の言葉など日々のちょっとしたコミュニケーションがしっかり行われていること、チームメンバーが話を遮らず最後まで聞く姿勢を持ち、誠実な受け答えをすることも、心理的安全性を高めるとされています。

テレワーク下では、オフィスにいるときのような声掛け、雑談などがしづらいという意見も多くあります。その場合は、チャットツールの活用、雑談タイムの設定、動画や音声配信ツールも活用した社内ラジオの実施など、意識してコミュニケーションの機会を増やす取り組みを行ってみましょう。社員同士の良好な関係構築、相互理解の促進を図るための社内広報の強化は、有効な手段の一つです。

(3)多様性を活かすための取り組み・社内制度の不備

ダイバーシティ経営は、単純にさまざまな属性の人材を採用して終わり、というものではありません。採用した人材にどう活躍してもらうのかを考え、適材適所を実現していく取り組みをセットで行って、はじめて効果を発揮します。

経済産業省による「多様化する働き手に関する企業の意識調査」の結果を見ると、計画やビジョンの策定、柔軟なはたらき方の実現を伴った多様性の増加は生産性を向上させる一方、適切な取り組みなしに多様性だけが増加した場合には、かえって生産性が下がるということが分かります。人事制度や労務管理など各種社内制度を、ダイバーシティ経営に適したかたちに整備することが重要です。

多様性の増加が生産性に与える効果

 

【出典】経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」

ダイバーシティ経営を目指した体制変革を行うにあたっては、自社の状況の把握と適切な見直しが欠かせません。経済産業省では、自社がダイバーシティ経営のどの段階にいるのかの判断の目安となる、「ダイバーシティ経営診断シート」を公開しています。ダイバーシティ経営を実行に移す前に、自社の現在の状況を多角的にチェックし、課題があれば対処しましょう。

自社に合ったダイバーシティのあり方を追求し、競争力強化を目指そう

ダイバーシティ経営という言葉でまずイメージされるのは、女性やシニア、外国人の採用などでしょう。しかし、採用のみではダイバーシティのメリットは十分に活かされません。自社の実態に合ったダイバーシティのあり方を追求する必要があるでしょう。 100の企業があれば、100通りのダイバーシティ推進のかたちがあります。自社がどうありたいのかを明確に描き、実現のために必要な人材獲得、組織づくりに動くことが、ダイバーシティ経営の第一歩になるのです。