ジョブ型vsメンバーシップ型は間違い?~「日本的ジョブ型雇用」のススメ

2021.03.01

  • 事業拡大
  • 人事・総務
  • 人事制度
  • ジョブ型雇用

産業構造の変化、グローバル化、コロナ禍など、かつてない社会の地殻変動に揺れる日本型雇用。ニューノーマル時代を勝ち残るにはどうしたらいいのでしょうか。ややもすれば陥りがちな「ジョブ型雇用か?メンバーシップ型雇用か?」という⼆元論ではなく、新たな日本的雇用のあり方を模索するために何が必要なのかを考えてみたいと思います。

目次

“コロナショック”で一層高まる「ジョブ型雇用」への関心

テレワークや在宅勤務が急増した“コロナショック”を契機に、欧米諸国型の「ジョブ型雇用」への関心が急速に高まっています。

これまでも幾度となく終身雇用、年功序列賃金、正社員の無限定なはたらき方、正規・非正規の二重構造などに象徴される日本型雇用システムの限界が指摘されてきましたが、抜本的な改革は進みませんでした。

しかし、コロナ禍で経営層のみならず従業員一人ひとりの仕事に対する意識が変わったことや、2020年初頭に経団連が経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)(※)にて「Society 5.0時代にふさわしい働き方を目指して、日本型雇用システムを見直すべき」と提起したこと、さらに日立製作所、富士通、資生堂など大手企業のジョブ型雇用に転換・拡大する事例情報が続々と公開されたことも重なり、ようやくではありますが日本でもジョブ型雇用への変革が、これまで以上にリアリティを持って受け止められ始めた印象があります。

※参考:一般社団法人 日本経済団体連合会「2020年版 経営労働政策特別委員会報告 -Society 5.0時代を切り拓くエンゲージメントと価値創造力の向上-」(2020)

しかしながら、メディアが報じる「ジョブ型雇用」の姿には誤解も多く、その本質が正しく理解されている割合は、まだ低いと思えます。

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い

ここで改めてメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いを説明しておきます。従来型の日本型雇用システムは「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、労働時間や勤務地、職務内容を限定しないはたらき方です。転勤、異動することも当たり前で、就職ではなく、いわば就社ともいえます。

対する「ジョブ型雇用」とは、従業員に対して職務内容を明確に定義し、労働時間でなく職務や役割で評価する雇用システムです(必ずしもジョブ・ディスクリプションありきではない)。転勤も基本的にありません。職務内容を基準として報酬が支払われる(Pay for Job)である、という違いがあります。

現状の主要課題とジョブ型雇用の期待効果

事例から見る「ジョブ型雇用」への期待効果

「ジョブ型雇用」に転換する狙いは企業により異なり、その期待効果もさまざまです。

  • 日立製作所は、2021年3月までにほぼ全社員の職務経歴書を作成し、2024年度中には完全なジョブ型への移行を目指しています。2008年度、過去最大の赤字に陥ったことを契機に抜本的な経営再建を図り、ものづくりの会社から「社会イノベーション事業」を軸にインフラサービスの会社へ、主軸を国内市場からグローバル市場へとシフト。現在、同社の売上高の半分は海外が占め、社員30万人中14万人が海外人材です。海外諸国で一般的な「ジョブ型雇用」への転換は、必然とも言えるでしょう。
  • ソニーにおける現行の人事制度であるジョブグレード制度は、2015年に等級制度を導入、それに基づく評価制度が2016年からスタートしました。スピードの低下、カルチャーの保守化などへの課題意識から経営改革を断行し、組織・人材に関する課題解消により「よりよい自社を次の世代に残す」目的で、人事制度改革を実行したとのことです。
  • 資生堂は2021年1月から一般社員3,800人をジョブ型の人事制度に移行しました。脱・年功序列でグローバルで戦える組織に変え、この仕事は何が必要かを細かく説明し、一番ぴったりあう人を配置する「究極の適材適所」を目指すとしています。
  • 富士通は2020年4月、国内グループ企業に勤める管理職1万5,000人を対象にジョブ型の人事制度を導入しました。一般社員6万5,000人については労働組合との話し合いを経て、数年後の導入を目指します。同社はその理由を「全社員が同じパーパス(目的)に向かって動いてこそ、当社の価値は最大化する。だから、働き方を世界で統一したい」としています。
  • KDDIは2020年8月、メンバーシップ型の長所を残しながら、ハイブリッドなジョブ型雇用を導入。初期の配属は本人の専門性を踏まえたポジションになることが確約されるほか、入社後の待遇も年功序列ではなく、職務におけるスキルに応じて、個人ごとに決まるようになるとしています。
  • 三菱ケミカルは2020年10月、ジョブ型の人事制度に刷新。対象は全管理職約5,000人で、それぞれが担う職務内容を一段と明確にしたうえで、社内異動に公募制を採用。「人材配置の透明性をさらに高め、主体的なキャリア形成を促し、多様な人材の活躍につなげる」としています。2021年4月には全従業員対象に展開します。

「ジョブ型雇用」vs「メンバーシップ型雇用」の論調の危うさ

このように、「ジョブ型雇用」は本質的にははたらく人にとっても企業にとってもメリットが多いシステムなのですが、いざ転換するとなると二の足を踏む企業が多いのも事実です。

その理由として、まず、仕事の成果だけで給与が決まる「成果主義」との混同や、パフォーマンスが上がらなければクビになるのではという、はたらく側の誤解が挙げられます。そして、社員の職権意識が強くなり過ぎてコントロールしにくくなるのでは、といった経営側の懸念もあります。これら「『ジョブ型雇用』がよくわからない、詳しく知らない」ことからくる不安要素が折り重なっている印象があります。

あまり認識されていないことですが、「ジョブ型雇用」でも米国と欧州ではスタイルが異なります。米国は人種差別が根強かった歴史の反省を踏まえ、欧州に比べ、より職種や職務が細かく規定されています。一方、欧州ではミッショングレード(役割等級)の考え方が一般的で、日本のメンバーシップ型雇用に近い部分があります。

また、「ジョブ型雇用」にもデメリットはあります。若手を育て、全員に出世のチャンスがある日本のメンバーシップ型雇用と比べると、一生職務に見合った賃金しか得られない可能性が高い「ジョブ型雇用」は非常にシビアです。

さらに、「ジョブ型雇用」に限らず人材マネジメントは「制度が20、運用が80」と言われています。ジョブ・ディスクリプションを定めるのであれば、仕事の定義や評価の軸を定期的に、継続してメンテナンスしなければすぐに現実との乖離が生まれ、あっという間に形骸化してしまうからです。

こうした点を理解せず、「ジョブ型雇用」vs「メンバーシップ型雇用」の二元論でどちらが正しい、正しくないと比較する世の中の傾向には、危うさを感じます。

例えばトヨタ自動車は日本を代表するグローバル企業ですが、メンバーシップ型の雇用形態です。それは創業以来、「モノづくりは人づくり」という確固たる企業のDNAがあることに加え、人間性の尊重を重視し中長期的な視点で人材を育てるマネジメントをグローバルに展開できる力があるからでしょう。

ただ、それでも「ジョブ型雇用は日本の企業風土や労働慣行にそぐわない」と切り捨てるわけにはいきません。なぜならば、「雇用や評価に透明性をもたらす」効果があるからです。

戦後の経済成長期を経て経済が右肩上がりの時代は賃金も右肩上がりで、企業の人事制度はブラックボックスであっても、不満が少なくある程度成り立っていました。しかし、その前提が崩れた現在は、人事制度にも社員一人ひとりに納得感をもたらす客観性や透明性が求められ、それを実現しなければ有能な人材は獲得、確保することはままなりません。

この点一つをとっても、過去にないほどの環境変化の激しい現代において、企業の雇用システムや人事制度は従来通りというわけにはいかず、何らかの変革が求められることは間違いないのではないでしょうか。

人事制度の比較

ジョブ型雇用 項目 メンバーシップ型雇用
仕事に人をつける 基本原理 人に仕事をつける
欠員補充や新規ポジション中心 採用 定期採用中心(新卒一括採用)
主に職務等級制度 等級 主に職能資格制度
オープンポジションがあり、本人の意向を重視するが、ポジションの条件を満たすことが必要 配置転換 会社による定期異動がメイン
実績重視(年次思想なし) 昇進・昇格 勤続・年齢を重視
特別なことではない 降級・降格 ほとんど行われない
職務給
職務により変化
賃金 職能給
年功的に上昇
市場基準 賃金の根拠 内部基準
職務に応じた社内外教育 育成 年次を考慮した社内教育
高い 人材の流動性 低い
弱い 雇用保障 強い

「日本的ジョブ型雇用」のススメ

こうした状況を踏まえ、パーソル総合研究所では、「メンバーシップ型雇用」の良さを残し、日本の企業風土や労働慣行にもマッチする「日本的ジョブ型雇用」を模索する『「日本的ジョブ型雇用」転換への道』プロジェクトをスタートさせました。

本プロジェクトでは「ジョブ型雇用の本質とは何か、日本の企業風土・雇用慣行と親和性の高い仕組みとは」「転換へのさまざまなハードルをいかに克服するか」「具体的なジョブ型雇用のモデルとは」「企業の円滑な転換をサポートする政策の在り方」などを幅広い観点から有識者を交えて議論し、日本的ジョブ型雇用に転換する場合のロードマップを提言として、世の中に発信していきます。

いまだかつてない変化の激しい時代に生き残るには、日本型の雇用について何らかの改善施策を打つことは必須です。そこでは「ジョブ型雇用」か「メンバーシップ型雇用」かの二択ではなく、自社の実態に合わせた最善策を検討する必要があり、ジョブ型雇用に関する正しい理解の不足や判断に不安を感じる場合にはプロの知見とサポートが有効です。

関連セミナー動画・資料

2021年2月5日開催
“日本的ジョブ型雇用”の在り方と転換へのステップ -KDDI株式会社の事例とともに考える

イベントレポートはこちら
(前編)
イベントレポートはこちら
(後編)

パーソルグループの関連サービス

ジョブごとの報酬水準をご提供「Salaries(サラリーズ)」

Salariesは、dodaが蓄積してきた約100万件のデータをもとに、ジョブごとの報酬水準(マーケットレンジ)を提供するサービスです。機械学習の技術を活用し、日本の雇用市場に即した給与のマーケットレンジをご提供します。

サービス紹介ページ

インタビュー・監修

佐々木 聡

佐々木 聡

株式会社パーソル総合研究所 上席主任研究員
株式会社リクルート入社後、人事考課制度、マネジメント強化、組織変革に関するコンサルテーション、HCMに関する新規事業に携わった後、株式会社ヘイ コンサルティング グループ(現:コーン・フェリー)において次世代リーダー選抜、育成やメソッド開発を中心に人材開発領域ビジネスの事業責任者を経て、2013年7月より、パーソル総合研究所 コンサルティング事業本部 本部長を務める。2020年4月より現職。
また立教大学大学院 客員教授としても活動。