【古田大輔×西村宏堂×森田かずよ×大濱徹】インクルーシブな社会における「普通」とは何か?

パーソルグループは、はたらき方やはたらく価値観が多様化するいま、あらゆるはたらく個人がより幸せに生き、自分らしくはたらくための一歩を踏み出すきっかけづくりを目的として、どなたでも気軽に参加できるオンラインセミナー「今、ニッポンのはたらくを考える会議」を今年の7月より開催しています。

11月23日、勤労感謝の日には、特別版として「今、ニッポンのはたらくを考える大会議 ~勤労感謝の日に、これからのはたらくを考える~」を開催しました。
本記事では、5つのKeynoteとSessionのうち、Session3「インクルーシブな社会における『普通』とは何か?」について、一部を抜粋してご紹介します。

登壇者紹介

<モデレーター>
古田 大輔/ジャーナリスト/メディアコラボ代表 元朝日新聞記者

BuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立。「Journalism for better X」を目指し、報道やメディアや社会課題を解決する活動をサポートする。








<登壇者>
西村 宏堂/僧侶/メイクアップアーティスト

1989年東京生まれ。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業後ニューヨークでメイクアップアーティストのアシスタントとして経験を積み、独立。
LGBTQ(性的マイノリティー)の一員である自らの体験を踏まえ、メイクアップアーティストであり、僧侶であり、LGBTQでもある唯一無二の視点で発信する「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを伝えるため、ニューヨーク国連本部UNFPA(国連人口基金)、米イェール大学、早稲田大学、慶應大学、増上寺などで講演を行う。著書に『正々堂々私が好きな私で生きていいんだ』がある。


森田 かずよ/義足の女優・ダンサー

18歳より表現の世界へ入り、ある時は義足を身につけ、ある時は車椅子に乗りながら、舞台に立つ。
大学卒業後、パートタイムではたらきながら演劇活動を始める。
奈良県の劇団を経て現在フリーで活動。障害のある人や市民参加のダンス公演の振付や演出、ワークショップ講師やレッスンなども行う。
2011年第11回北九州&アジア全国洋舞コンクールバリアフリー部門チャレンジャー賞(1位)受賞。



大濱 徹/パーソルチャレンジ コーポレート本部 経営企画部 ゼネラルマネジャー

パーソルキャリアへ入社後、障害者の人材紹介サービス「dodaチャレンジ」に参画。2013年より、同サービスの責任者。
多くの組織の採用支援と雇用アドバイザリー業務に従事。現在はパーソルグループで障害者雇用支援事業を展開する、パーソルチャレンジの経営企画や新規事業開発に従事。



 


誰もが皆、異なる身体や心、個性を持っているという常識


インクルーシブとは、すべてを包括する、包み込むという意味。では、インクルーシブな社会における、より良いはたらき方、生き方はどうしたら実現できるのでしょうか――?

古田氏:本日のテーマは、“インクルーシブな社会における「普通」とは何か?”です。僕はもともと学生時代から外国人や移民、あるいはLGBTQというテーマに興味を持っていて、朝日新聞時代にもそうした題材の取材を多く扱っていました。



古田氏:その後、BuzzFeed Japanに移ってから受けた米国研修で、衝撃的な経験をしました。四半期の業績発表を行なわれたのですが、最初に売上ではなく、ダイバーシティレポートからはじまったんです。お金をいくら稼いだかという話より、社内で多様性がいかに確保されているかのほうが彼らにとって重要だったわけです。多様な個性を持つ人がいてこそ、より強い会社をつくることができる、と。

本日お集まりいただいた皆さんもさまざまな個性をお持ちです。まずは西村さんから、簡単に自己紹介をお願いできますか。

西村氏:私はメイクアップアーティストと僧侶をやっています。海外でファインアートを学ぶうち、メイクの世界に関心を持った一方で、生家が寺であったことから、僧侶の資格を取るにいたりました。



西村氏:自分が同性愛者であることが、お寺の檀家さんをはじめ、周囲にどう受け止められるか、当初はとても不安でした。だからこそ、今日は多様性を受け入れる姿勢をつくるにはどうすればいいか、皆が素の自分を表現していきいきと暮らしていくとはどういうことかを、皆さんと考えていければうれしいです。

古田氏:お仕事もそうですが、西村さんの中にもいろんな西村さんがいて、まさに今日のインクルーシブな社会における「普通」とは何か、というテーマにぴったりな立場ですよね。続いて森田さん、お願いします。

森田氏:私は生まれながらに身体に障害を持っているのですが、現在、女優、ダンサーとして活動しています。18歳のときから表現の世界に入り、こうして舞台に立つようになったことであらためて気付かされたのは、健常者の方であっても皆、一人ひとり違う身体を持っているということです。

しかし、私のように障害を持っている立場でなければ、人はなかなかそれに気付くことはできません。そこで私は舞台活動のほかに、障害を持つ人や一般市民の方を集めて、ワークショップを行なっています。一緒に踊りながら多様性をポジティブに伝えていければと思っています。



古田氏:みんな違う身体を持っているというのは、実は当たり前のことなんですよね。そうした視点を得る意味でも、森田さんのお話はたいへん貴重だと思います。最後に大濱さん、お願いします。

大濱:私はパーソルグループで、ここ10年ほど、障害を持つ方の雇用支援事業に携わっています。“マイノリティ”の方の存在やはたらきにくさをあらためて知る機会を多々得ました。今日は皆さんのご意見からもいろいろ学ばせていただければと思います。



古田氏:大濱さんからはぜひ、インクルーシブな社会をつくるために、現状どのような課題があるのかをうかがっていければと思います。


障害もセクシュアリティもその人の持つ多様な要素の1つ
あらゆる人が自分の持つ個性を生かし、「自分らしくはたらく」とは?


自身の障害に対する子どもたちのストレートな反応が、今日の活動のきっかけになったと語る森田氏。障害やセクシュアリティ、国籍、文化、価値観……。あらゆる人の個性が異なる中で、個性を生かして、自分らしくはたらける社会に近づくためには。

古田氏:性や障害に限らず、話す言語、感覚など、一人ひとり個性は異なります。それぞれさまざまな個性を持つ人が「自分らしくはたらく」というのは、一体どういうことでしょうか。西村さんや森田さんは、まさに自分の個性を表現しながら、好きな世界で活躍されていますよね。

西村氏:私は、自分から自然と滲み出てくるような好きなこと、得意なことに目を向けて、生かしてあげることが「自分らしくはたらく」ことかなと考えています。

実をいうと、僧侶の仕事は当初、自分のやりたいことではなかったんです。しかし勉強するにつれ、「どうしたら自分だから出来ることに繋がるか?」という視点で考えるようになりました。そうしたときに、私のような同性愛者に対しても「大丈夫だよ」と言ってくれる仏教の教えを、英語やスペイン語で広く世の中に伝えていきたいと思うようになりました。

古田氏:最初から自分のやりたいことができるというよりは、やりながら、葛藤の中で自分のはたらきたい姿が見えてくるということはありますよね。森田さんはいかがですか?

森田氏:私は就職氷河期世代ということもあり、大学卒業後、すぐに望む仕事に就くことはできませんでした。たまたま縁あって子ども向けの英会話教室ではたらくことになったのですが、最初は子どもたちから、泣かれたり拒絶されたりすることも珍しくありませんでした。それでも時間がたてば慣れるもので、むしろ純粋な心を持っている分、自分と違う体を持っている私を平等に受け入れくれるのを感じました。

これはきっと、子どもたちにとっても大きな発見であり成長であるはずで、私にとっても非常に大切な経験となりました。この経験が、いま行なっているワークショップにも繋がっていまし、さまざまな環境ではたらいてきたことが、結果的にいま役立っているなと感じています。



西村氏:それはきっと、障害やバックグラウンドがあること以前に、森田さん自身が持っている優しさが伝わったのでしょうね。「この人は仲良くしてくれる人だ」と、子どもたちが途中で気付いたのだと思います。もし障害者や同性愛者であるというバックグラウンドが邪魔をして、その人物の素晴らしい人間性が見えにくくなってしまうことがあるとすれば、それは非常に残念なことですよね。その人の気持ちや姿勢のほうが大事だと思うんです。

古田氏:そうですね、私も障害やセクシュアリティなどのあらゆる個性は、各個人の要素の一つに過ぎないと感じています。ちなみに、こうした個々人の個性への理解というのは、はたらく組織、企業という観点からみると、どうでしょうか?

大濱:組織の中で個性やバックグラウンドを出せる環境は、少しずつ整いはじめていると思いますね。
背景には、昨今の労働力人口の減少が深刻な問題となってきていることがあげられます。企業側にもこれまでのように同じ人事制度で大勢の人材をマネジメントするやり方では、立ち行かなくなるだろうという危機感が生まれました。そこで幅と奥行きのある人事制度を用意して、多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、活躍していただこうというのが、日本におけるダイバーシティの流れであり、そうしなければ生き残れなくなってきています。


「普通」とは何か?違いを当たり前に認め合うことでより良い社会へ


同性愛者であるというバックグラウンドを自ら開示できるようになるまで、一定の時間がかかったと振り返る西村氏。さまざまな個性を持った各個人がより生きやすい社会をつくるために、私たちに何ができるでしょうか。

古田氏:個性の一つでもある障害者の職場定着率をとって見ても、少しずつ上がってきていますね。

大濱:そうですね。障害のある人が、自身の障害を職場に明かし、なおかつ職場に配慮体制があるケースにおける1年後の定着率は、およそ70%。障害者雇用枠でない一般求人に自身の障害を明かして入社した場合は、49.9%。そして一般求人に障害を明かさず入社した場合は、約30%となっています(出典:JEED)。

求職者の障害特性に対応する職場環境がなければ、どうしても早期の離職に繋がってしまいやすくなるでしょう。さらにその当事者側からすると、職場の仲間たちに対して自身を構成する要素の一つである障害を明かせないのは精神的に厳しく、これもまた早期離職の一因になっていると考えられます。

森田氏:障害の開示はやはり、非常にデリケートな問題で、障害者手帳が認定されない障害もありますし、精神障害の場合は手帳を持つこと自体に抵抗があるケースもあります。障害者にもさまざまな人がいて、個々にあった配慮が必要だということも知っていただきたいですね。

古田氏:障害に限らず、その人が何に困難さを抱えているか?というのは、見た目ではわからないことの方が多いですからね。それを開示するか否か、個人にとっては負担になるケースもありますし、開示したとしてサポート体制があるのかどうか、まだまだ考えなければならないことは多いです。
困難さ、という点では、セクシュアリティの観点でも、周囲の理解が必要な場面があるのかなと思いますが、西村さんはいかがですか?

西村氏:私の場合は自己紹介の際に「同性愛者です」と積極的に言うようにしています。いまとなってはそのほうが楽なので。でも、そう言えるようになったのは最近のことで、知られることで嫌われたらどうしようという不安はずっとありました。

でも、後ろめたいことだと思ってコソコソしていると、かえって人は陰で噂しますよね。逆に堂々としていると、意外と周囲は受け止めてくれるものです。まずは自分が自分の個性を肯定することが大切だと実感しています。



古田氏:なるほど。LGBTQの皆さんにとって、少しずつカミングアウトしやすい世の中になっているとは思いますが、もう少し世の中が進めば、一人ひとりのセクシュアリティが違うということ自体が当たり前に受け止められる世の中になって、カミングアウトという言葉自体が不要になるかもしれません。

障害やセクシュアリティについて、世の中では、「マイノリティ」という言葉で表現され、ときに「普通」ではないかのように話されたりもしますが、いったいここでいう「普通」の基準はなんでしょうか。私が海外で生活していたときは、“外国人”という立場から圧倒的な「マイノリティ」にもなりました。
「マイノリティ」や「マジョリティ」というのが、「普通」という基準にされて、疎外されてしまうような組織や社会は、多様性に欠ける弱い組織、社会になってしまうと思います。さまざまな立場の人の声をちゃんと聴いていける、世の中にしていくことが大事だと考えます。

当事者ならではの生の声をまじえたセッション。そのすべてをご覧になりたい方は、以下から視聴してください。

(※)音声を聞き取るのが難しい方は、こちらの全文をご参照ください。

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