神戸市の特別定額給付金、スピード支給の知られざる舞台裏

1人あたり10万円が支給される、国の特別定額給付金。スピード支給が求められる中、神戸市は152万人が暮らす大都市にも関わらず、6月末時点で約9割の給付が終了しています。
パーソルテンプスタッフのアウトソーシング事業部は、この給付金支給業務を受託。最短での支給に向けて、4月下旬から怒涛の準備を進めてきました。現場の担当者は、どのような工夫をし、悩み、取り組んだのか……。本プロジェクトの担当者である、パーソルテンプスタッフの藤原 理絵に聞きました。


受託後、3日でコールセンターを始動
神戸市の市民への想いが、自らを突き動かした


――今回、神戸市の「特別定額給付金」の業務を受託した背景を教えてください。

藤原:自治体の給付金支給のような業務を受託するには、本来、公募の競争入札で選ばれる必要があります。しかし、今回の特別定額給付金の支給対応は緊急を要するため、地方自治法施行令の規定により、任意に選んだ事業者と「随意契約」することが可能でした。神戸市さまからは、2009年度の定額給付金支給対応をパーソルテンプスタッフにお任せいただくなど、これまでのさまざまな実績により、今回もご依頼くださいました。特別定額給付金支給が閣議決定された4月20日に、正式に今回のお話をいただきました。

――受託後、パーソルとしてはどのような動きをしたのですか?

藤原:お話をいただいた3日後の4月23日にはコールセンターを立ち上げ、封筒と印刷機、人員や備品などインフラの確保、事務センターの物件の選定、システムや申請書のデザイン打ち合わせなど、とにかく急いで準備を行いました。

――3日後にコールセンターを立ち上げたとのこと、なぜそのようなスピード感で実行できたのでしょうか。

藤原:4月初旬に定額給付金の案が報道されはじめた際、ぜひ私たちでお役に立ちたいと思っていました。なので、神戸市さまにアプローチしながら、受託できたらどのような業務が発生するのか、印刷、システムの設計などの発注先や椅子などは何脚必要になるかなども、裏側で先んじて試算していました。コールセンターについては、グループ会社で過去同様の給付金実績があり、市民向けサポートのナレッジを多数有しているパーソルワークスデザインに相談したり、他の事業で協業実績のある印刷会社さまに声もかけたりもしていたのです。早く始動できたのは、皆さんが心づもりをしてくださっていたお陰です。

――想定内の動きだったと?

藤原:いえいえ、とんでもありません。当初は「対象者を絞った30万円支給」が報道されており、その対象は約18万世帯でした。しかし、実際には全世帯支給になり、一気に神戸市全体の76万世帯が対象になりました。結局すべて試算し直すことになりましたし、何を優先するのか、進め方も練り直しました。

――そのときの心境は?

藤原:正直、「無理かも……」と思いました(笑)。でも、神戸市さまは「市民に寄り添う」「とにかく早く市民に支給したい」という強い想いをお持ちでしたし、私たちにも「5月中に振り込みをはじめたい」という具体的な指示をいただきました。それを聞いて、とにかく「想いに応えたい」「やるしかない」という気持ちでしたね。


申請書はユニバーサルデザインに変更、システムは最速導入を優先
トラック3台分もの封筒は、250人総出で開封した


――早く給付するための施策として、どのような工夫を行ったのでしょうか。

藤原:数えるときりがありませんが、大きくは「申請書の作成」と「システムの運用」に注力しました。

――「申請書の作成」について、詳しく教えていただけますか?

藤原:これは、市民の皆さまが記入する給付金の申請書のことですが、この申請書への記入ミスや不備はその後の作業の滞りを生み、給付への遅れへと繋がってしまいます。そのため、市民の皆さまにとってできるだけ分かりやすくなるよう、色や文字などのデザインにこだわり、申請書のレイアウトを提案させていただきました。決定後は、できるだけ早く郵送することも意識し、5月14日には送付を開始しました。

実際に送付した給付金の記入例

――システム面では、どのような工夫を?

藤原:「特別定額給付金」は、世帯主への振り込みが基本ですが、例外の方もいらっしゃるので市の住民基本台帳のデータを単純に移すことはできませんでしたし、二重払い防止のチェック機能なども設けなればなりません。そのような「すべての条件をクリアする振込データ作成システム」の完成を待っていては、到底間に合わないと思いました。
そこで、まず振込には必要最低限の機能だけでシステムを組んでもらい、例外などを処理する機能などは後から付け足していく方式をとりました。かつ、そのシステムができてから一つひとつ入力処理をするのでは支給を遅らせてしまうので、システムが稼働したときにすぐデータを流し込めるよう、申請書に書かれた口座情報は先行してエクセルシートに入力していきました。

――事務センターでは何名ぐらいが業務に携わったんですか?

藤原:約250名です。作業は多岐にわたるので、業務の工程の中で、どの作業にどのような人が必要かを考えながら、25歳から75歳の方まで、幅広い年代の方を採用しました。
これだけいれば大丈夫と思われるかもしれませんが、返送されてきた申請書の量は膨大な数です。最初のころは250人ほぼ総出で開封作業を行いました。

――そんなに人手が必要になる量だったんですね……。

藤原:なかなか見たことがない数ですよ。一番多い日には、郵便局の2tトラックで3回運ばれてきて、驚きました(笑)。

実際に届いた申請書を振り分け、保管する様子


モチベーションを保ち、頑張る力になったのは
市民の方からの手紙の数々


――作業のうえでは、コロナ禍だからこその苦労もあったのでは?

藤原:そうですね。4月16日に発令された緊急事態宣言により、リモートワークが増えてリースできるパソコンは激減していましたし、物品を借りるのも一苦労でした。事務センターも3密にならない広さの物件の確保が必要でしたし、スタッフの方に安心してはたらいていただくには、空気清浄機、ハンドジェル、マスクなど備品も必須。そうしたものの調達にも苦労しましたね。

――事務センターは、神戸市庁舎外に設けられたんですよね?

藤原:はい。神戸市庁舎内でのスペース確保が難しく、市とともに賃貸契約するビルの選定から、私どもで行いました。電気盤の場所や、数百台のパソコンを導入するための電気容量は足りているか、インターネット回線が引けるかといった確認からはじまり、消防法に沿ってのキャビネなどの配置、紛失リスクを下げ、効率良く業務を行うための業務工程の導線などまで考え、場所をつくりあげました。

――大変な中、どのようにモチベーションを保っていらしたのですか?

藤原:何か問題が起こると、みんなで「1日でも早く給付するためには、どうすれば?」と話して、前を向くようにしていました。
「いつ振り込まれるんだ!」とお叱りをいただくこともあるんですが、その方が数日後「振り込まれた。ありがとう」と、わざわざお礼の電話をくださるケースもありました。申請書と一緒に「自分たちのためにありがとう」「がんばってください」といった感謝や励ましのお手紙もたくさんいただいています。これまで500通以上いただいていて、スタッフの控室に貼ってあります。「辛いことがあると控室で手紙を読んで、パワーをもらう」と話す方も多いですよ。



藤原:また、神戸市さまは、行政と市民の距離がとても近いと感じています。私たちのいまがあるのも、市民の方々の温かい配慮や神戸市職員の方々の協力、判断の敏速さがあってこそです。皆さまに本当に感謝しています。

――給付作業を行った約250名の方々も、一致団結して臨まれましたね。

藤原:そうですね。本当にさまざまな方にこの業務に携わっていただきました。私たちが取り組むアウトソーシング事業は、ただ人を採用してプロジェクトにアサインするだけの仕事ではありません。業務デザインの仕方によっては、さまざまな方に雇用の機会を提供することができるんです。今回も「介護中だけど、数日だけはたらきたい」「定年退職したが、家にいるより市に協力したい」といった方々が、業務に携わっています。経歴やスキルや年代も関係なく、いろいろな方々と一緒に協力して仕事ができるよう、これからも努めていきたいです。

本プロジェクトを推進するパーソルテンプスタッフ・パーソルワークスデザインのメンバー

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